裁判官の竹内浩史さんが、「「裁判官の良心」とはなにか」という本を出版されました。
出版社はLABO
発行は2024年5月29日となっていますが、すでに一般の書店にも並んでいます。
現役の裁判官が書かれた本です。
帯には、岡口基一元裁判官が、
「竹内浩史裁判官は、
実名で俺の支持を表明してくれている、
唯一の裁判官です。」
と書いています。
竹内浩史さんは、弁護士を16年して裁判官になった、弁護士任官者をした裁判官です。
私は、弁護士になってから8年間ほど、竹内浩史弁護士と同じ法律事務所に所属していました。
私が弁護士になった1995年、その法律事務所には、竹内 平弁護士(33期)と竹内浩史弁護士(39期)がいました。(ちなみにわたしは47期)当時、名古屋弁護士会(愛知県弁護士会に名前が変わったのは竹内浩史さんが裁判官になった後です。)には竹内は3人しかいませんでした。
そのうちの二人が同じ事務所だったのです。
事務所に電話がかかってくると、時々こんなやり取りがありました。
「竹内先生おねがいします。」
「当事務所には、竹内弁護士が2人いますが、どちらでしょうか。」
ここで下の名前を知っていればいいのですが、知らないと、
「うーん。めがねをかけている方の…」
「2人ともめがねをかけています。」
「うーん。体型が・・・。」
「2人とも、・・・・。」
ということがけっこう「あるある」で起きていました。
いまなら、スマホなどで事務所のホームページで確認する人もいるかもしれません。
竹内浩史さんが任官した2003年は、インターネットはありましたが、スマホはなく、事務所のホームページもまだなかったかもしれません。
竹内浩史さんは、裁判官になってからずっと都々逸をブログに載せており(弁護士任官どどいつ集)裁判所から発信していました。
もともと東京地裁の裁判所共済組合に企画でブログを開く講習を受けたからとのことです。
(ごめんなさい。このブログはほとんど見てません。)
ちなみに都々逸は、名古屋市の熱田区が発祥の地といわれています。たとえばじゃらんの観光紹介にも紹介されています。
さて、この本ですが、竹内浩史さんの人となりなどは、知っていますので、浩史さんらしいな、と思いながら読んでいました。
この本では、裁判官会議の様子や、所長との会話、人事のルール、司法研修所の研究会など外からでは知ることのできない裁判所の様子が書かれていて、そこが一番興味深かったです。
それから、コラムでは、一緒に事務所にいたときも聞いたことがなかった竹内浩史さんが弁護士をめざすきっかけなど、個人的なこともかかれていました。
すでに
で取り上げられています。
にも出演してコメントしています。
是非、買って読んでみて下さい。
教員の給与のあり方や働き方改革を議論してきた中教審の特別部会は、残業代を支払わない代わりに支給している上乗せ分を、現在の月給の4%から10%以上に引き上げるべきだとする素案を示した、と報道されました。
公立学校の教員は、いわゆる「特級法」によって、事実上残業代が支払われません。
今回の素案は、この問題の制度を、上乗せ分を引き上げることにして、解決しようとしています。
これは、実質的に「固定残業代」と同じように、残業のすべてに残業代を払われないことになりかねず、問題を残すものです。
特級法の趣旨は、学校の先生の労働は、通常の労働と違って労働と労働でない時間の区別がつきにくいからと言われています。
しかし、私立学校の先生については労働基準法の適用があります。また、国立大学法人の附属の学校の先生についても、現在は国立大学法人の職員という立場にありますから、労働基準法の適用があります。特級法の適用はありません。したがって、残業代を支払う必要があります。
同じように学校の先生をして、私立や国立大学附属であれば、「仕事」と「仕事ではない」ことについて、厳格に区別する必要があり、公立学校の先生は、「区別がつきにくい」というのは、不合理と言わざるを得ません。
学校の先生の過労死等の事案は、報道されているだけでもたくさんいらっしゃいます。
公立学校の運営は、学校の先生の無償奉仕によって成り立っているといっても過言ではありません。
労働時間を管理し、時間外労働には残業代を支払う。労働時基準法の原則を適用する。このように運用することで、ようやく外の職場と同様に残業時間を短くする努力が本気で行われるのだと考えます。
少なくとも働いただけの賃金は先生に正当に支払われなければなりません。
残業を管理すると、残業を隠すようになる、と言われます。確かにそのような動きが一部に生じるかもしれません。
しかし、それはどの職場でも同じです。先生だけが特殊なわけではありません。
しかし、先生の命と健康(健康には心の健康もふくまれます。)を守るためには、まず、労働時間を把握し、残業代を支払った上で、削減の方法を考えるのが、正しい道筋だと思います。
1 新しい認定基準が見られる場所
2023年(令和5年)9月1日、新しい精神障害の労災認定基準が発出されました。厚生労働省のホームページに掲載されています。
下記のホームページからみることができます。
精神障害の労災補償について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
ここには新しい認定基準
どこがかわったかを説明している 留意点
があります。
認定基準のもととなった専門検討会の報告書
も報道発表のところに載っています。
2 発病後増悪の要件が緩和
新しい認定基準で、大きく変わったのは発病後増悪の問題です。
今までの認定基準は、
「別表1の特別な出来事があり、その後おおむね6か月以内に対象 疾病が自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合」にしか、「悪化した部 分について業務起因性を認め」ませんでした。
今回は、
「特別な出来事がなくとも、」「悪化の前に業務による強い心理的負荷が 認められる場合には、」
悪化した部分について業務起因性を認め」る可能性があることを認めました。
3 一回でも「執拗」(パワハラ)
また、パワーハラスメント等について「一定の行為を「反復・継続するなどして執拗 に受けた」としている部分があります。これは、「執拗」と評価される事案 について、一般的にはある行動が何度も繰り返されている状況にある場 合が多いが、たとえ一度の言動であっても、これが比較的長時間に及ぶものであって、行為態様も強烈で悪質性を有する等の状況がみられるときにも「執拗」と評価すべき場合があるとの趣旨である。」と認定基準に記載されました。
4 労働時間について
精神障害が認められる時間外労働の基準は長すぎると批判してきましたが、今回は、大きな改正はありませんでした。
5 カスハラの項目が入りました
「社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事 として新設された。」と新設の理由が説明されています。顧客や取引先、施設利用者等から、暴行、脅迫、ひどい暴言、 著しく不当な要求等の著しい迷惑行為を受けたことの心理的負荷を評価する項目です。
9月1日から新しい認定基準で運用が始まります。すでに労基署で調査している事案も新しい認定基準で調査を行います。
より適切に認められるように希望します。
厚生労働省が、2023年(令和4年度)の過労死等の災害補償状況を公表しました。
令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は803件で、前年度比50件の増加。
うち死亡件数は前年度比45件増の218件。
(2)支給決定件数は194件で前年度比22件の増加。
うち死亡件数は前年度比3件減の54件
(3)認定率
38.1% 昨年 32.8%
昨年よりアップしています。
うち死亡認定の認定率は
38.8% 昨年 33.7%
認定件数が多くなっているのは残念です。
死亡事案は減少しています。
その上で死亡事案も認定率はアップしています。
ただ、請求件数は、死亡事案も増えていますから、令和5年になって過労死認定の数も増えるのでは
ないかと心配されます。
認定基準が改訂されて1年たちました。その影響もあると考えられます。
2 精神障害に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は2,683件で前年度比337件の増加。
うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の183 件。
(2)支給決定件数は710件で前年度比81件の増加。
うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件減の67件。
(3)認定率
35.8% 昨年 32.2%
うち死亡認定の認定率は
43.2% 昨年 47.3%
請求件数、認定件数は増えています。請求件数が337件も増えているのはおどろきです。20年前
は、一年間の請求件数が300件を少し上回っていました。2001年は全体で264件の請求件数で
した。
認定されたものの多くは、パワーハラスメント、いじめ、いやがらせ、上司とのトラブルであり、こ
れらで全体の4割程度を占めています。パワーハラスメントをなくす対策が必要です。
なお、令和4年度に、審査請求、再審査請求、行政訴訟で,不支給が取り消された件数は
脳・心臓疾患は 9件 (うち死亡6件)
精神疾患は 25件 (うち死亡1件)
過労自殺案件で、審査請求、再審査請求、行政訴訟で取り消された件数は全国で1件しかありませんでした。
件数が減る方が望ましいのですが、増えているのは悩ましいところです。
これが権利を行使し、救済される件数が増えているので、どこかで過労死等が実際にも減少し、請求件数も減少していくといいとおもいます。当面は、さらなる救済を求めていくことが必要かと思います。
厚生労働省の発表を元にグラフにしてみました。
精神障害の請求件数と認定件数が年々上昇していることがわかります。
脳/心臓疾患はやや減少系傾向です。
2023年4月25日、名古屋高当裁判所民事第3部(長谷川裁判長)は、中部電力に勤務していた従業員が入社してわずか半年後の2010年10月末に自殺した事案で、名古屋高等裁判所は、過重労働を認めて、津労働基準監督署長の労災保険法に基づく遺族一時金の不支給決定を取り消す旨の判決をしました。
この判決は、この新入社員の従業員に対しパワーハラスメントが行われていたことを認めました。また、新入社員に、難易度の高い業務の主任を担当させ、十分な援助をしなかったことを認めました。
これまで、労働基準監督署長、労働者災害補償保険審査官、労働審査会、そして名古屋地方裁判所が認めなかった業務による自殺であることを名古屋高当裁判所が認めたのです。
この判決がなされるまで、当該従業員の方が自殺してから12年半、2013年に労災の請求をしてから10年の年月がたっています。
パワーハラスメントについては、亡くなった従業員が、生前に職場のことを職場外の友人知人や違う職場の同期に話していた内容が信用できるか、それがパワーハラスメントといえるかが問題になりました。この事件ではパワーハラスメントをした本人や、その周囲の先輩の同僚従業員が、その事実を否定しました。そのため、一審では、パワーハラスメントであることは否定され、心理的負荷の強度も弱とされてしまいました。しかし、控訴審では、職場外の友人に話していた事実について、十分に信用できるとされ、その内容も事実であると認められました。
次に、業務についてですが、一審では会社側の説明に沿って、新人にとって若干困難であってもその業務は、「強」とまではいえないとされていました。高裁では、担当していた業務について一つは「中」、そして最も困難であった業務については「強」としました。
新人にとって困難で心理的な負荷となるかどうかを判断するに際し、会社の説明は、どうしてもある程度経験のある者の説明となります。原告は、その説明は不当で、本来新人にとっては困難な業務であると主張してきました。高裁は、原告側にその内容を釈明しました。また、一審では採用されなかった中部電力のOBのかたの証人請求を採用し、当時の業務について立証の補充を認めました。
一審と控訴審では、業務について裁判官の見方が全く異なることになりました。
原告である母親は、本人に何があったかを知りたいと考え、会社の関係者に面談を求めました。知人、友人に会って話を聞き、本人が残したパソコンのメールをみて、資料を集めました。中部電力のOBの協力者に支援を求めました。
支援の会を結成し、多くの方に賛同を求めました。過労死防止の活動にも参加しました。
本当にやるべきことをすべてやり尽くした活動でした。
これらの地道な証拠の収集と裁判への運動に応えて、名古屋高等裁判所は、丹念に記録を精査し、証拠を採用し、業務の過重性を認めました。
原告の活動と、それを認めた高等裁判所、そして、それらをとりまとめた主任の森弘典弁護士に本当に敬意を表したいと思います。控訴審の尋問を担当した長尾美穂弁護士も尋問が判決つながりました。
弁護団は、森 弘典弁護士、長尾 美穂弁護士、そして当職です。
以下は弁護団が当日だした声明です。
2023年4月25日
声 明
中部電力新入社員労災裁判弁護団
本日、名古屋高等裁判所(民事第2部Ec係、長谷川恭弘裁判長)は、中部電力株式会社(当時)に新入社員として採用された26歳の労働者(以下「被災者」という)が入社して7か月も経たない2010年(平成22年)10月30日早朝(推定)に自死した事件で、津労働基準監督署長が業務外とした処分について、第1審の名古屋地裁判決を取り消し、業務外の処分を取り消す判決を言い渡した。
判決は、第1審判決と異なり、上司から被災者に対するパワーハラスメントを認定している。第1審判決は、被災者から上司の発言を聞いたという友人の証言があるにもかかわらず、伝聞に基づくものであることなどを理由として認めなかった。本判決は、友人の証言の信用性は高いと認め、証言内容も具体的などとして、パワーハラスメントを認定しており、密室で行われがちで、被災者が死亡している事案では直接体験した事実を語れる証人がいないパワーハラスメントの認定方法として重要な意義を有する判決である。
判決は、業務の過重性について、第1審判決と同じく平均的労働者基準説に立ちつつも、新入社員が未経験の業務を担当させられたという点に着目し、基準となる対象労働者を新入社員あるいは未経験者に限定して、業務の難易度を検討している。その上で、入社後わずか半年程度の新入社員でありながら難しい案件を主担当として行わなければならない状況を十分に考慮した指導や支援が行われていなかった状況を踏まえて、業務による心理的負荷を検討し、業務起因性を認めたものであり、極めて高く評価できる。
ほかの裁判例の中にも、平均的労働者基準説に立ちつつも、新入社員や未経験の業務という点に着目し、基準となる対象労働者を新入社員あるいは未経験者に限定して、業務による心理的負荷を評価するものがあるが、本判決はその論理が正しいことを裏打ちするもので、裁判例としても重要な意義を有する。
折しも、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会では、心理的負荷の強度を客観的に評価するに当たり、どのような労働者にとっての過重性を考慮することが適当かが論点となっており、その内容を明確化するため、同種の労働者についての例を示すとともに、同種の労働者は一定の幅を内包することを明示してはどうかとの意見が示されている。そして、同種労働者についての例として、新規に採用され、従事する業務に何ら経験を有していなかった労働者が精神障害を発病した場合には、「同種の労働者」とするとの意見も示されている。
当弁護団は、厚生労働省、三重労働局長、津労働基準監督署長が本判決を真摯に受け止め、上告しないように強く求めるとともに、精神障害による過労死の認定基準の運用にあたって、新入社員、未経験業務の視点を考慮するとともに、今後の改定にあたっては、全面的に採用することを求める。
以 上
判決に対し、国は上告、上告受理申立てはせず、判決は確定しました。(2023年5月10日)
季刊刑事弁護という刑事弁護に関する雑誌の114号に「当番弁護士30年ーこれからの改革課題と展望」という特集が掲載されました。
これは、2022年9月に日弁連で行われた「当番弁護士30年」のシンポジウムの内容を、再構成したものです。
私は、2022年6月から、日弁連国選弁護本部本部長代行をしており、このシンポのパネルディスカッションのコーディネーターをしました。すこしだけ紙面に登場します。
私が、弁護士になる少し前、まだ被疑者段階の国選弁護制度はありませんでした。そのとき、全国の弁護士が、身体拘束をされた被疑者に、無料で1回接見に行くという制度を始めた。30年というのは全国すべての弁護士会が当番弁護士の制度を作ったのが1992年。それから30年ということです。
この間、逮捕され、その数日後勾留された後は、被疑者の段階でも国選弁護人を付けてもらえます。起訴、不起訴が決まる前にも、お金がない人とでも弁護士に相談し、援助をしてもらえます。
ただ、逮捕直後は、そのような制度はありません。逮捕段階の国選弁護制度が創設されなければなりません。
いまでも、弁護士会の当番弁護士制度はあります。逮捕されたときに、当番弁護士を呼んで欲しい、といえば、お金がなくても、弁護士の知り合いがいなくても、弁護士が、無料で、1回接見に来る制度があります。
そういう制度があることを多くの人に知ってもらいたいと思います。
このイベントにあわせてつくった広報動画が、下記のものです。多くの人に見てもらいたいです。
裁判のIT化が急速に進められようとしています。
コロナ感染が拡大した2020年の当初から民事訴訟法は改正がありません。しかし、民事訴訟法には「書面による準備手続」(民事訴訟法175条)という手続きがあります。この2項には、
「裁判長等は、必要があると認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について、当事者双方と協議をすることができる。この場合においては、協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる。」
とあります。ですから、裁判所に行かなくても、裁判はできることになっています。
そこで、現在は、MicrosoftのTeamsというソフトを使って、音声通話で裁判の手続きを行うことが多くなりました。というより、地方裁判所の裁判は、すべてこの手続きで行っています。
遠方の裁判所におこした裁判も、証人尋問のために1回だけ、じっさいに裁判所に出かけただけで、後はすべてパソコンを通じて手続きを行い、判決を得た事件もありました。
労働審判事件は、口頭弁論を開く必要がないので、第1回期日からTeamsを使って行うことができます。
裁判所に行かずに、調停を成立させることできます。
この場合、依頼者の方に事務所に来ていただきます。始まるまえ、終わった後に、そのまま事務所で打合せができます。資料を広げながら、打合せができますので、裁判所へ行くより効率的です。裁判所へいくわけではないのでホームグラウンドでリラックスして参加できるのが利点です。
一方で、裁判官、労働審判員と直接会って話すより、すこし距離感があるのは弱点かも知れません。
現在のところ私の事務所では、ノートパソコンで対応しています。カメラはノートパソコンのカメラで十分です。マイクも十分ですが、一応、会議用のマイクを用意しています。これも、コロナの感染が広がる前からWeb会議をおこなうことが会ったので購入していたものです。当時はスカイプをつかっていましたが、今はzoomを使うことが多くなりました。
投資ゼロで十分に会議に対応できています。
今後は、書面の提出もパソコンでできるようになるように、検討が進んでいます。
当番弁護士とは、1回、無料で逮捕、勾留された被疑者に面会に行く制度です。大分、福岡の弁護士会が始め、1992年、全国の弁護士会が、この制度を実施しました。
当時、国選弁護人をつけられるのは起訴されてからでした。
逮捕され、勾留された被疑者は、最大23日、弁護士に相談できないまま、取調をうけていることがほとんどでした。
そのために、やっていないのに、やったという自白をさせられてしまうこともありました。
そこで、弁護士会が、1回は無料で面会をし、その後も、必要な人には無料で弁護人になる制度を創りました。当番弁護士を担当する弁護士が接見に行く日当、交通費は、弁護士会から払ってもらえます。この費用は、弁護士会が会員からはらってもらう会費で支えることにしたのです。
いまでは、逮捕され、さらに勾留された場合には、国選弁護人を付する制度になっています。これも全国の弁護士が、当番弁護士制度をつくり、活動をしたことも大きく影響しました。
けれども、逮捕されてから勾留されるまでの最大72時間の間は、今も、国選弁護人の制度がありません。
当番弁護士制度を知らない人は、勾留されるときに裁判官に国選弁護制度をおしえてもらい、それで初めて弁護士に依頼をしている、というのが実態です。
当番弁護士制度は、法律上の制度ではありません。逮捕直後は、法律上は、被疑者の人が、弁護士を依頼する私選弁護制度しかないのです。
いま、日本弁護士連合会では、逮捕された直後から、国選弁護人を依頼する制度が法律で定められるように運動をしています。
それまでの間も、お金がなくても、弁護士の知り合いがいなくても、弁護士会が当番弁護士を派遣して弁護をする制度があります。是非、知ってもらいたいです。
逮捕されたらすぐに弁護士を呼んでほしいと思います。逮捕した警察官に、当番弁護士を呼んで欲しい、そう言うだけです。
当番弁護士は法律上の制度ではないので、警察官に説明する義務がありませんん。警察官が説明する、弁護士を依頼する権利がある、というだけとなっています。(弁護士会は、当番弁護士の制度も説明して欲しいと申し入れていますが、実現できていません。)
私も当番弁護士に登録し、面会に行くこともあります。
また、現在日弁連国選弁護本部に所属し、逮捕段階から公的弁護制度を創るために検討、運動もしています。
冒頭の動画は、市民にもっと当番弁護士を知ってもらうために、日本弁護士連合会で作成した動画です。
なるほどと思われたら是非広めて下さい。
厚生労働省が、2022年6月、令和3年度の過労死等の労災補償状況を公表しています。
令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
毎年、この時期に厚生労働省が過労死等の労災補償状況を公表しています。
令和3年(2021年)の特徴ですが、脳・心臓疾患の労災補償件数は、若干減少傾向です。
請求件数、認定件数も令和2年と比較して減っています。
そのうちの死亡については57件であり、減少傾向にあります。
認定率は、令和2年が29.2%だったのが32.8%と上昇しています。
このうち死亡の認定率も、令和2年が31.8%であったのが33.7%に上がっています。
なお、審査請求事案の取消決定は令和2年が6件だったところ、令和3年は15件となっています。
過去5年間でも最も件数が多くなっています。
一方精神障害については、請求件数が大幅に増えています。令和元年2060件で初めて2000件を超えました。令和2年2051件と若干増加でしたが、令和3年は2346件と300件弱も増えています。
支給決定件数は昨年の608件から629件に若干の増加です。
ただ、自殺案件は,令和2年の81件から79件に若干の減少です。
なお、申請九次案は、令和2年度25件、令和3年22件と多い水準で推移しています。
認定率は、令和2年が31.9%ですが、令和3年は32.2%と若干増加しています。
ちなみに自殺の認定率は令和2年が45.3%、令和3年は47.3%と高い水準で推移しています。
私の相談にのっているケースはなかなか認められないケースが多く、実感と少しずれている認定率ですが。
コロナウイルスの影響で、一部のとても忙しい人が心配ではありますが、全体としては仕事が減り、経済的に困る人が増えるが過労死等へ減るのではないか、と予想していました。しかし、そうではないようです。
コロナウイルスの影響がまだまだ続いています。
予想の付かない業務の変化で、心労を重ねたり、長時間労働が増える可能性もあります。
余裕のないところでパワハラが生まれることは最悪です。
今後も推移を見ていく必要があると思います。
、
パワハラ防止措置が、中小企業の事業主にも義務化されました。
2022年4月1日、「労働施策総合推進法」によるパワーハラスメント防止措置が、それまでの大企業への適用だったところ、中小企業の事業主を含めてすえべての事業主の義務となったのです。
職場におけるハラスメントを防止するために、事業主がおこなわないといけないことは、法及び指針に定められています。事業主はこれらを実施しなければなりません。
1.事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること
2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
これらの措置は、業種・規模に関わらず、すべての事業主に義務付けられています。
パワーハラスメントにあったときには、違法であり、慰謝料請求の対象となります。
また、パワーハラスメントにあったことにより、精神障害になり、通院、休養が必要となったときには、損害賠償の対象となり、事業主の責任を問うことができます。
しかし、実際には、パワーハラスメントが行われていないと争われたり、事実はあったがそれはパワーハラスメントと評価できないと争われたり、精神障害を発病させるほどひどいパワーハラスメントではないと争われることもあります。
パワーハラスメントが行われたことだけで慰謝料を請求しようとしても、その金額は大きくなく、実際に損害賠償請求することは、多くの場合に現実的ではありません。
一方で、パワーハラスメントと訴えられる前にパワーハラスメントで精神障害を発病し自殺に至る場合もあります。パワーハラスメント自体は精神障害を発病させるほどひどいものではなかったとしても、長時間労働や、困難な業務を命じられていて、それらが合わさって精神障害となり、不幸にも自殺してしまうケースもあります。
パワーハラスメントの対応が適切ではないことで二次的な被害として精神障害を発病させてしまうこともあり得ます。
パワーハラスメントはいけない、と言っているだけではこのような被害はなくせません。又、一旦起こってしまってもすべてが救済されるとも限りません。
ですから、パワーハラスメントが行われる前に、パワーハラスメントを誰もが起こさないように措置を講ずる必要があります。
あるいは行われてしまったときにも迅速に、適切な対応する必要があります。
今回の法律改正は、このような被害をなくすためのものです。
法律で規制されましたから、啓発もされますし、具体的な行政指導の根拠もできました。
パワーハラスメントで悩む人が居なくなるように、この法律改正が第一歩となり、さらなる対策が進められることを期待します。
3月も残り少なくなってきました。
2022年4月1日から18歳が成人になります。この日、18歳、19歳の方が一気に成人と扱われます。
毎日20歳の誕生日を迎える人が成人になっていたのに、この4月1日に突然多くの人が成人になるのは不思議な感じがします。
携帯電話の契約、新生活をはじめるときのアパートの契約、自動車の購入やローンの契約など、親の同意がなければ、実際にはできなかったことが、自由にできるようになります。
早く自立したいと思っていた若い人達には朗報です。
裁判員にもなることができるようになります。
これまで、選挙だけでしたが、多くのことが1人前の大人としてあつかわれることになります。
(飲酒、喫煙などはこれまでと同様20歳を過ぎてからですから、誤解がないように。)
一方で、今まで、未成年だから契約した後で取り消せるという法律の扱いがなくなることになります。
不利な契約をさせられて被害にあわないように気をつけてほしいと思います。
もっとも、いわゆる悪徳商法や、オレオレ詐欺などを含む特殊詐欺は、大人も狙われてきました。18歳、19歳の方だけでなく、社会全体が、気をつけて、こういう被害に遭わないようにしたいと思います。
また、いわゆる悪徳商法といわれるものについては、消費者を保護するための法律があり、契約をしてしまってからも解除する方法がある場合もあります。諦めずに相談機関に相談することをおすすめします。
名古屋高等裁判所は2021年(令和3年)9月16日、トヨタ自動車の従業員が自殺下事件について、労災と認めなかった名古屋地方裁判所の判決と取消し、豊田労基署長の労災と認めなかった判断を取り消す判断をした。
労災だと訴えていた遺族の訴えを認めて逆転勝訴をさせた。
私は、弁護団ではなく、この事件については詳細は把握していないが、諦めないで、裁判を戦ったご遺族の方、そして、弁護団の水野幹男弁護士、梅村浩司弁護士、加計奈美弁護士に心から敬意を表したい。
この労働者の自殺は2010年(平成22年)のことであるから11年が経過して、ようやく労災であると認められたのであり、ご遺族の苦労は計り知れない。
判決では業務に関して次のような心理的負荷が指摘されている。
「達成は容易ではないものの、客観的にみて努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った。」と評価できることが「中」
「弱」であるが、他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があったと考えられる出来事がある。
はじめての海外業務を担当することについて「仕事の内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷があった。(心理的負荷としては「中」相当)
そして、パワーハラスメントについては次のように認定されている。
グループ長から、他の従業員の面前で、大きな声で叱責されたり、室長からも、同じフロアの多くの従業員に聞こえるほど大きな声で叱りつけられたりするようなことは,軽視できない。同様な叱責を受けていた○○をして、後日、本件会社の退職を決意させる有力な理由となるほどのものである。
このような事実を否定したグループ長、室長の証言は、他の証言等を理由に信用できないと退けられている。
そして、このパワハラを、2020年に改定された精神障害の労災の認定基準に当てはめをして
「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり、その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」と評価されるのが相当である。
と判示した。
さらに、その叱責は少なくともグループ長から週1回程度、室長から2週間に1回程度だったと認定している。
心理的負荷については、次のように判断している。
個々的にみれば「中」には相当する。
それらの精神的攻撃は、グループ長のみならず、室長からも加えられている。
そして、これらの行為は、平成20年末頃から本件労働者が発病に至るまで(発病は平成21年10月頃とされている)反復、継続されている。
判決は、これらの事実を踏まえ、
一体のものとして評価し、継続する状況は心理的負荷が高まるものとして評価するならば、上司からの一連の言動についての心理的負荷は、「強」に相当する。
と判断している。
判決は、
上記の出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度の精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。
と判示した。
この事案、リーマンショックの後で、時間外労働は厳しく制限しており、当該労働者もほとんど時間外労働は行っていない。
しかし、業務の変化の大きさや,パワーハラスメントの実態を認めて、業務上の疾病と認めている。
1審判決は、パワーハラスメントについて、
「本件労働者に対する業務指導の範囲を逸脱しており,その中に本件労働者の人格や人間性を否定するような言動が含まれ,あるいはこれが執拗に行われたものとは認められない。」
として、その心理的負荷が「強」とは認めなかった。
改正前の認定基準では、「人格や人間性を否定するような言動が含まれ」ていなければ、心理的負荷が「強」にはならないかのようにされていた。
判決からは、当のパワハラをしていたという上司の証言の信用性は否定されているが、パワハラをした当人が、そのことを全く認めないというケースは、私にも経験がある。これを立証するのは、なかなか困難である。現に1審判決は控えめな評価で労災と認めなかった。
高裁の事実認定をみても、原告側でいろいろな角度から立証の努力をしたのだろうと推測される。当事者と弁護団の相当の努力が会ったのだと考えられる。
これを記載している9月19日は、上告、上告受理申立の期間内ではあるが、事実認定が大きな争点であるから、上告、上告受理申立理由はなく、被告国も上告、上告受理申立はしないのではないかと予想される。
損害賠償請求訴訟が別に1審に係属している。被告トヨタ自動車株式会社は、労災が認定された事案とは異なり、本件では、争う姿勢を見せているようであるが、高裁判決がパワハラ等を認めて労災であると判断したのであるから、これを尊重し、早期に全面的な解決に向けて態度を変更するべきである。
2020年6月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会が厚生労働省に設置されました。そこで、2001年に発出された脳・心臓疾患の労災認定の基準について、検討がなされてきました。
2021年7月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書が公表されました。
これにもとづいて2021年9月頃、あたらしい認定基準が策定されようとしています。
新しい認定基準の概要はパブリックコメントの頁に掲載があります。これについて、現在、パブリックコメントの募集がなされています。期限は本年8月19日まで。
2001年から20年ぶりの認定基準の改定です。
これまで、仕事が原因ではないかと考えられる事案でも時間外労働時間が少ないために認定されず、裁判になった事案がありました。
幸い、訴訟において認定されることになった事案もありますが、認定されなかった事案もあります。
より適切なないようになるように、さらに毛一歩声を上げたいと思います。
2021年の過労死110番
2021年6月19日土曜日 午前10時から午後4時
今年は全国統一ダイヤル 0120-222-751
ここに電話をすれば、最寄りの地域の弁護士等の相談担当者に電話がつながります。
この電話番号は6月19日にしかつながりません。
全国の問い合わせ先は こちらをクリック
過労死110番は1988年に始まりました。
それから毎年行われてきました。
当時は、長時間労働があっても労災と認定されず、辛い思いをした遺族もいました。
いまでも、認定されずに、苦しい中にいる方もいますが、当時よりも認定される件数ははるかにふえました。
使用者に対する損害賠償についても使用者に厳しい判断が出るようになりました。
発生してしまった過労死等については、しっかりした補償と、責任の所在が明らかにされなければなりません。
しかし本当は、そのような自体になる前に予防されなければなりません。長時間労働やパワーハラスメントをなくすこと、良い職場作りがなされるここと、有給休暇が取りヤイ職場になること、いろいろ方策があるはずです。
そして、サービス残業は厳しく規制されなければなりません。そうでないと、正直者ただしく労働基準法を守った会社が競争に負けてしまいます。
労働組合が、厳しく監視することも大切だと思います。
当日は電話で相談が受けられます。
※ 2021年の過労死110番は6月19日午後4時で終了しました。
全国一斉で行われ、当地では取材はありませんでしたが、各地で報道されたようです。多くの、相談がよせられました。(6月19日追記)
司法修習生は、司法試験に合格した、最高裁判所司法研修所に所属するものです。
弁護士・検察官・裁判官になるため1年間の研修を受けています。
現在、当事務所にも司法修習生が配属されています。5月から6月下旬までの約2か月間の予定になっています。
私も、司法修習生の時代に修習を受け、弁護士活動の基礎を学んできました。
司法修習生は、最高裁判所規則により守秘義務を負っており、ここで知り得た事柄については他に決して漏らすことはありません。もちろん、私からも指導をしております。
司法修習生がより良い法律家となるため、相談、打合せ、裁判の期日の同席について、ご承認をお願い致したく、何卒よろしくお願い申し上げます。
令和3年4月1日より、税込価格の 表示(総額表示)が必要になるとのことですので、当ホームページの表示も総額が分かる表示に修正しました。
相談料は、「30分あたり5000円と消費税」、と表示していましたが、「30分あたり5500円(税込)」に訂正しました。
もっとも弁護士費用の表示は、経済的利益の額を基準にその割合の計算方法によって決まると言うことですので、税込み金額を表示することが困難な場合もあります。
そこで、適宜1.1倍したものという注を付けました。
今後とも、わかりやすい表記につとめます。
2020年12月7日、名古屋市を訴えた名古屋市バス事件で損害賠償請求が認められる判決を得ました。
この事件は、2007年6月14日、30台の名古屋市バスの運転士が自殺したことについて、その後両親が、名古屋市を訴えた事件です。
父親は、夫婦を代表して地方公務員災害補償基金名古屋支部に公務災害を申請していました。しかし、地方公務員災害補償基金名古屋支部は、公務災害と認めず、名古屋地方裁判所に、行政制訴訟を起こしていました。2015年3月名古屋地方裁判所は、父親の訴えを退け、公務災害と認めませんでした。父親は控訴し、2016年4月、名古屋高等裁判所は、地裁の判決を取り消し、公務災害と認める判決をしました。
この判決については ブログ をご覧下さい。
また、この裁判の経過については 奥田雅治さんの書かれた「焼身自殺の闇と真相:市営バス運転手の公務災害認定の顛末」を是非お読みください。
これをうけて、父親は、名古屋市交通局に、息子が自殺したことについて、非を認めて、謝罪するように求めました。
しかし、名古屋市交通局はこれを拒否し、責任を認めませんでした。
このため、両親は、2016年10月名古屋市に対し、名古屋市の責任を認めて損害を賠償することを求めて提訴しました。
判決は、1カ月のあたりの労働時間数は80時間を超えないものの、長時間労働であって、一定程度、被災者の心身の疲労を蓄積させ、そのストレス対応能力を低下させるものであったと認めました。
そして、2007年2月の添乗指導をうけて「葬式の司会のような」アナウンスをやめるように伝えられたことは客観的にみても相当程度の心理的負荷であったと認めました。
さらに、 2007年5月に九条があったことについて、事実関係を自覚することができずに指導をうけたことについて相応の心理的負荷を受けたと認めました。さらに、その後の指導による心理的負荷は相当大きかったと認めました。
加えて、2007年6月に、転倒事故を起こしたとして、認識がないにもかかわらず、指導を受け、警察署に出頭し取り調べを受けたことが、相当おおきな心理的負荷であったと認めました。
判決は、これらの出来事により精神障害を発病させたと認めました。
そのうえで、名古屋市は、被災者の労働時間が長いこと、不適切な指導を認識していたこと、さらには、被災者が、自分に認識がないと告げていたにもかかわらず、特段の配慮もしていなかったことから、相当大きい心理的負荷が生じたことについて、名古屋市は認識できたと認め、予見可能性があること、安全配慮義務違反があることを認めました。
また、名古屋市は、被災者が本件苦情や転倒事故について曖昧な会頭をしたことや、健康状態の申告をしなかったことについて、過失相殺が認められるべきとした主張について、被災者の責任にすることができないとしてこれを認めませんでした。
損害賠償請求について、原告の主張を全面的に認めた判決でした。
名古屋市は、この判決に控訴せず、2020年12月16日には、名古屋市交通局の幹部が両親の自宅を訪問して謝罪をしました。
被災者が死亡してから13年半の歳月が過ぎましたが、名古屋市の責任が認められて、謝罪をうけたことで、ご本人と御両親の無念も癒されたと思います。
このようなことが起きたのは、当時の名古屋市交通局の運転士の労働環境全体についての配慮が適切でなかったことが原因だと思います。一人一人の労働者をたいせつにする姿勢があれば、このようなことは起きなかったと思います。
調査にもっと協力的であれば、長年の裁判にもならなかったと思われます。
この裁判が、再発防止のための警鐘になればと願います。
弁護団は、水野幹男弁護士、西川研一弁護士、伊藤美穂弁護士、澁谷望弁護士 そして私でした。
2020年9月1日、改正された労働者災害補償保険法が施行されました。
これによって、複数職場で働いていた方が、双方の仕事の過重性をあわさって脳、心臓疾患、若しくは精神障害を発病した場合には、労災保険から必要な補償がなされることになりました。
また、複数職場で働いていた方が労災認定された場合に支払われる労災保険の各種補償の基礎となる給付基礎日額について、複数職場の収入を元にして計算することになりました。
脳・心臓疾患に関する事案については次のとおり報告されています。
1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1) | 請求件数は936件で、前年度比59件の増となった。【P3 表1-1】 |
(2) | 支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件であった。【P3 表1-1】 |
精神障害に関する事案については次の通り報告されています。
2 精神障害に関する事案の労災補償状況
(1) | 請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件であった。【P15 表2-1】 |
(2) | 支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件であった。【P15 表2-1】 |
厚生労働省は、2020年5月29日、心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正を発表しました。(厚生労働省のホームページ)
この改正は、2020年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加するなどの改正です。
厚生労働省は、「厚生労働省では、今後は、この基準に基づいて審査の迅速化を図り、業務により精神障害を発病された方に対して、一層迅速・適正な労災補償を行っていきます。」とコメントしています。
改正の概要は以下の通りです。
■「具体的出来事」等に「パワーハラスメント」を追加
・「出来事の類型」に、「パワーハラスメント」を追加
・「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を
「具体的出来事」に追加
■評価対象のうち「パワーハラスメント」に当たらない暴行やいじめ等について文言修正
・「具体的出来事」の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を
「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ、嫌がらせなど
を評価する項目として位置づける
実際の認定基準はこちらです。
この改正ではまだ不十分だと考えています。その点は、以前ブログで述べました。
2020年5月15日、厚生労働省は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表しました。ホームページでみることができます。
この専門検討会は、「労働施策総合推進法」により、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しについて検討を行い、取りまとめたものです。
その要点は、厚生労働省のホームページに次のようにまとめられています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
報告書のポイント
■具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加
・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加
・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加
■具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を
「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等
を評価する項目として位置づける
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、この報告書及びこの報告書の内容には問題があります。
1 パワーハラスメントの概念について
パワーハラスメントについて、労働施策総合推進法第 30 条の2第1項が、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
法律がパワハラの定義を定め、事業主に必要な体制の整備や雇用管理上必要な措置を命じることは一歩前進です。それでは何がパワハラかということについて、この法律の解釈の指針として「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が定められています。しかし、これについては日本労働弁護団が、2019年12月10日の意見書で、「パワハラの定義を著しく狭く限定的に解釈し、まるで「加害者・使用者の弁解カタログ」とも言えるような「パワハラに該当しない例」を掲載するなど、パワハラ防止に資するどころか、むしろパワハラを許容し、助長しかねない危険性を有する内容である。」と批判するものです。この指針によってもパワハラと判断される場合はよいでしょうが、解釈が分かれるところでは、この指針でパワハラを否定されれば、労災認定もされなくなる危険があります。
2 「執拗」は厳しすぎる。
報告書は、次のような場合を心理的負荷が「強」の例であるとしています。
・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は
業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における
大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容
される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合
であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合
確かに、1回だけの暴行、1度だけの精神的攻撃で、精神障害になる場合というのは、相当ひどい攻撃というべき出来事でないと労災とはいえないかもしれません。しかし、「執拗」とは「過度なほどしつこいこと」(広辞苑第7版)という意味です。身体的攻撃を執拗に受けた場合や精神的攻撃を執拗に受けた場合でないと心理的負荷が「強」とは判断されず、精神障害の発病が労災とはならないというのは不合理だといわざるをえません。
平成23年の専門検討会の報告書の資料となっている、「ストレス評価に関する調査研究
~健常者群における 43 項目、および新規 20 項目のストレス点数と発生頻度~ 大阪樟蔭女子大学大学院 夏目 」によれば、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」はストレス点数のランキングで1位、点数は7.1とされています。(2位は「退職を強要された」の 6.5、3位は「左遷された」の 6.3、4位は「1か月に 140 時間以上の時間外労働(休日労働を含む)を行った」の 6.3。)
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことが、これほど上位のストレスであるのに、さらに「執拗」にされたことが必要だとすれば、労災認定のハードルをあまりにあげすぎているといわざるを得ません。
ところで、専門検討会の報告書の4ページには、「また、人格や人間性を否定するような精神的な攻撃が執拗に行われた場合や、精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合にも、強い心理的負荷を生じるものと評価されている。こうしたことを勘案すると、心理的負荷の強度が『強』となる具体例については、次のように示すことが適当である。」と書いてあります。そうであれば、認定基準の具体例は「精神的攻撃が執拗に行われた場合」とまとめるのではなく「精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合」とするべきです。
さらに専門検討会の報告書については、
第4回に出された案文の 4頁
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け
た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷
を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみると、治
療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身体的
な攻撃が繰り返し行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。
とあった部分が、
第5回に出された案文の 8頁では
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け
た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷
の強度を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみる
と、治療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身
体的な攻撃が執拗に行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。
となり、最終的な報告書も同じ記載になっています。
専門検討会の第4回に出された報告書案は暴行について、過去の事例に「繰り返し行われた場合」で認定されていたと紹介しておきながら、その後第5回の案では、「執拗に行われた」認定例があると認定例の紹介の内容を変えているのです。
セクシュアルハラスメントの場合には、現在の認定基準も、「継続して行われた場合」には心理的負荷が強とされるとなっています。パワーハラスメントの場合にも、同様に「継続して行われた場合」とするべきです。
3 「人格や人間性を否定するような」は不要である。
精神的攻撃の「強」となる例として、「・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」が挙げられています。
しかし、ここで「人格や人間性を否定するような」という限定が必要でしょうか。
人格や人間性を否定するような精神的攻撃の典型例は「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」のような言葉を使うことです。
現在の認定基準における「ひどい嫌がらせ、いじめがあった」という項目で「強」の例は、「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」となっています。このような基準になっている関係で、労災の申請をすると、「人格や人間性を否定するような言動」があったかなかったかを確認され、これがないとして、心理的負荷が「強」ではないと判断されることがよくあります。しかし、人格や人間性を否定するような言動がなくても、精神的に辛い思いをする言動はたくさんあります。そして、そのために精神障害になる例があります。そのような場合に、その程度では平均的な人は精神障害にならないから、個人が精神的に弱い人だったんでしょう。労災とは認めません。というのは、余りにも厳しい基準と言わざるを得ません。「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」などという言葉を使わずに被害者を追い込むパワハラ、モラハラ上司による精神障害はすべて労働者の弱い性格のせいになってしまいます。
「業務上明らかに必要がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」は、表面上「人格や人間性を否定するような」ものでなくても精神障害を発病させることはあります。「人格や人間性を否定するような」という表現を使う必要はありません。
新しい認定基準では、「・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」という項目も新設されました。この項目が「人格や人間性を否定するような」を要求してないとすれば、以前の認定基準より、「強」となる場合がひろがったものとして評価できると考えられます。
4 「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」も「強」と評価すべき
今回の認定基準では「心理的負荷としては『中』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合」を心理的負荷が「強」の例にあげられました。心理的負荷が「中」程度のパワーハラスメントであってもその後の対応によって心理的負荷が強くなることは経験するところでですから、この 指摘は評価できます。
しかし、セクシュアルハラスメントの場合には、「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」についても心理的負荷が「強」の例にあげられてします。
パワーハラスメントの場合にも、会社に相談等をして、さらに当該上司からパワーハラスメントを相談したことを指摘されて関係が悪くなることも側聞するところです。さらに、被害者が相談できなくても、会社が把握していながら適切な対応をしない場合には、パワーハラスメントが継続され、被害者本人の孤立間も高まり、心理的負荷が強くなることはセクシュアルハラスメントと同様の構造を持っています。
今回、なぜ、セクシュアルハラスメントと同様にしなかったのか理解できません。
厚生労働省は2020年5月15日(金)から5月25日パブリックコメントを募集しています。
上記批判については本来専門検討会の議事録をみないと確認できず意見もいえません。時間がありませんが「執拗」「人格や人間性を否定するような」などという制限的、限定的な認定基準では、これからも理不尽に労災と認められない被災者や、家族が今後も発生することになってしまいます。
適切な認定基準となるように厚生労働省に再考を求めます。
2020年4月28日、厚生労働省から、「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発 0428 第1号)が発出されました。
「新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)に係る労災補償業務における留意点については、令和2年2月3日付け基補発 0203 第1号で通知していると ころであるが、今般、本感染症の労災補償について、下記のとおり取り扱うこととしたので、本感染症に係る労災保険給付の請求や相談があった場合には、これを踏まえて適切に対応されたい。」とのことです。
このなかで、医療従事者の方については、「医療従事者等患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、 介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。」と定められました。
感染経路が明らかでなくても、原則として業務起因性が認められるとされています。
次に、それ以外の方でも「医療従事者以外の労働者であって感染経路が特定されたもの感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。」と定められました。
さらに「医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの」についても「 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が 感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
感染経路が明らかでなくても労災と認められる場合があります。
厚生労働省のホームページ
新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け) 労災補償
賃金請求権の消滅時効が、令和2年(2020年)4月施行の改正民法と同様に5年に延長されました。といっても例外的に当面の間は3年ということになりました。
民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により、使用人の給料に係る1年の短期消滅時効が廃止され、債権の時効は5年になりました。
ところで、労働基準法では、賃金請求権の消滅時効は2年となっていました。これは、民法で定められていた1年では短すぎるから労働者保護のために修正されたのです。
ところが、民法が改正され、一般的な債権の時効が5年になりました。したがって、労働基準法の2年も時代遅れ、不合理になってしまいます。
そこで、労働基準法における賃金請求権の消滅時効期間等を延長することになりました。
しかし、この法改正について使用者側が強く反対しました。そのため、当分の間の経過措置を講ずるとして、時効は3年となりました。
なお、改正になるのは、施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権についてです。
つまり、今月支払われる給料から3年の時効になるのです。
今回の改正の変化が体験できるのはあと2年たってからです。
本改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じることになっています。そうすると、実際に5年になるのはその先でしょうか。
1 残業代請求で相当額の支払いを受ける内容の判決を得ました。
名古屋地方裁判所半田支部平成28年11月30日判決(労働判例1186号31頁)
名古屋高等裁判所平成30年4月18日判決(労働判例1186号20頁)
最高裁判第三小法廷所令和元年12月17日判決
2 事案の概要
本件は,被告が経営する居酒屋に店長として勤務していた原告が,被告に対し,
〔1〕賃金支払請求権に基づく未払残業手当金,
〔2〕〔1〕に対する各支払期日の翌日から退職日の後の賃金の支払日までの商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金合計
〔3〕〔1〕に対する退職日の後の賃金の支払日の翌日から支払済みまで賃金の確保等に関する法律6条の定める年14.6パーセントの割合による遅延損害金
〔4〕労基法114条に基づき付加金並びにこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金
の支払を求めた事案です。
3 争点
本件の争点、① 労働時間 ② 固定残業代が認められるか ③ 付加金が認められるか ④ 賃金の確保に関する法律の適用があるか です。
それぞれの意味と、1審、2審判決の内容を説明します。
4 労働時間
⑴ 始業時刻
原告は、原告は,主として仕込みをするために1時間以上早く出勤していた旨の主張をしていました。しかし、1審判決では、早い時間に出勤すべき業務の必要性がうかがわれないことに照らすと,始業時刻である午後2時とするとされました。2審判決も同様です。
なお、午後2時以降にタイムカードが押された日もあったのですが、2審判決は次のように判示しています。
「一審原告のタイムカードの打刻時刻は,午後2時より前のものが圧倒的に多く,上記のとおり,午後2時より前の労働時間を具体的に認めるに足りる積極的な証拠がないためこれを労働時間と認定しないものの,上記打刻時刻以後午後2時までの間も相当時間労働していたと認められることからすると,彼此勘案して,上記の日についても,一審原告の労働時間を算定するに当たっては,午後2時から労働したものと認めるのが相当である。」
⑵ 休憩時刻
原告は、繁忙で休憩は取れなかったと主張しました。1審判決は、一般的に繁忙であったと推認される金曜日,土曜日及び祝日の前日については30分としても不合理とはいえないから,これらの日については30分,その余の日については1時間の休憩を取得したと推認する、としました。
⑶ 終業時刻
原告は、タイムカードは被告の指示により操作をしていたのであるから信用できないと主張しました。
これに対し、1審判決は、原告と他の従業員らのタイムカードにおける退勤の打刻時間が分単位でおおむね共通していることに加え,閉店時間である午後11時又は午後12時の直後に打刻されているものが少なからずあるところ,閉店前から可能な範囲での清掃などの業務を行っていたとしても,閉店後に直ちに従業員らが退勤をすることは困難であると考えられることも併せ考慮すると,被告が原告に対して指示していたか否かの点についてはおいても,タイムカードにおける原告の退勤時間として打刻された時間を,勤務を終了した時刻とすることはできない、と判示しました。
そして、終業時刻については、閉店後1時間をもって原告による時間外労働の時間であったと推認される、と判示しました。
⑷ 控訴審判決
控訴審もほぼ同じ事実認定をしています。
4 固定残業代
⑴ 被告の賃金は次のように決められていました。
ア 基本給
14万円
イ 役職手当
平成24年6月分(同年7月支払)から平成25年4月分(同年5月支払)
13万円
平成25年5月分(同年6月支払)から同年12月分(平成26年1月支払)
14万円
平成26年1月(同年2月支払)から同年4月分(同年5月支払)まで
16万円
ウ 〈役職手当には,以下の固定割増手当含みます。内訳〉固定残業手当(残業時間数26時間に相当する額) 固定深夜割増手当(深夜労働80時間に相当する額) 固定休出手当(休日出勤3日に相当する額)
⑵ 原告の主張
原告は、被告の定めのように解すると,原告の場合には必ず被告が主張する固定残業代を上回ることとなり,上回った部分は純粋に役職手当と解するべきことになるが,役職手当は固定割増手当の基礎となる割増基礎賃金から除外することができない(労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条)ことに照らすと,そのような賃金規程の定めは無効であるというべきである、等と主張しました。
⑶ 被告の主張
被告は、原告については,基礎給のみならず役職手当の固定割増手当分を上回る部分が割増賃金算定の基礎賃金とされることとなるが,その算定に当たっては,基礎給に役職手当を加えた金額を249.8時間(基礎時間173.8時間+26時間+20時間〔80時間×0.25〕+30時間〔8時間×3日×1.25〕)で除することにより算出される金額を基礎賃金(原告については基礎給14万円+役職手当13万円のとき1081円,基礎給14万円+役職手当14万円のとき1121円,基礎給14万円+役職手当16万円のとき1201円)として固定割増手当分を超える時間外労働の賃金を算出,支払すれば足りるから,明瞭性の観点からも問題ない、と反論しました。
⑷ 1審判決
1審判決はおおむね次のように判示して、原告の主張を認めました。
原告の役職手当については,固定割増手当における算定の基礎とされるのは,基礎給のみであるから(賃金規程2条),原告の基礎給をもとに固定残業手当について計算すると,必然的に役職手当のうち,割増賃金として支給される部分と純粋な役職手当として支給される部分に区分されるはずであり,かつ,純粋な役職手当として支給される部分については,割増賃金の算定の基礎として除外されないから(労働基準法37条2項,労働基準法施行規則20条参照),割増賃金の算定の基礎とされるべき金額は,上記の基礎給を上回るものとなるが、賃金テーブルにおいて,明瞭性を確保することができていない。
被告の主張は、基礎給のみを割増賃金の算定の基礎とする旨の賃金規程の本文における定めに真っ向から反するものであって,その解釈に疑義を生じさせるもの等として退けました。
5 付加金
⑴ 付加金とは
労働基準法には次の定めがあります。
第114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。
賃金を未払だったときには、裁判で2倍の支払が受けられるというものです。
ただし、2年以内に裁判で請求しなければなりません。賃金自体は、催告をすれば、それから6か月以内に裁判をおこせば全額請求できるので、厳密には2倍になりません。
⑵ 1審判決
1審判決は、次のように指摘して、付加金の請求を認めませんでした。
被告による割増賃金の未払の原因は,役職手当の支払が割増賃金の支払として有効か否かという法律的な問題についての労働基準法の解釈の相違に起因するものであること,上記2で判示したとおり,被告による固定割増賃金の定めのうち,役職手当を除く固定割増手当についての定めとしては明瞭性の観点から不合理なものであるとはいえず,被告において役職手当についても同様に解したとしても,やむを得ない側面があることのほか,原告も自身の賃金に固定割増手当が含まれるとの認識を有していたことも併せ考慮すると,被告による割増賃金の不払が違法であるとしても,制裁としての付加金の支払を命ずることは相当でない。
⑶ 2審判決
2審は、次のように指摘して、付加金の支払いを認めました。
一審被告の割増賃金の不払は違法であり,一審被告がタイムカードの打刻について実際の労働時間より少なめな打刻をするよう指示していたこと,みなし割増賃金(役職手当)について不合理な主張をしており,その不合理性は賃金規程の文言からして明らかであったことを併せ考慮すると,付加金の支払請求については,これを認めるのが相当である。
6 賃金の確保に関する法律
⑴ 賃金の確保に関する法律に関する争点
賃金の確保に関する法律6条1項は次のように定めています。
「第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。」
賃金を支払わなかった場合には、退職したあとは14.6%の割合の利息も支払わなければならないのです。
ただし これには例外があります。同法6条2項は、次のように定めています。
「2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。」
そして、この厚生労働省令である賃金の確保に関する法律施行規則6条5項はつぎのように定めています。
「四 支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。」
合理的な理由で裁判所で争っている場合には、14.6%の利息は適用しないとされているのです。この「合理的な理由」というのは何かについての解釈には争いがあります。
⑵ 1審判決
1審判決は、次のように指摘して、賃金の確保に関する法律の適用を認めませんでした。
被告による割増賃金の未払の原因は,上記4における判示のとおり,労働基準法の解釈の相違に起因するものであって,支払が遅滞している賃金の存否に係る事項に関して合理的な理由により,裁判所で争っていると認められるから,原告の賃金の支払の確保に関する法律6条に基づく請求については,理由がない。
⑶ 2審判決
2審判決は、次のように指摘して、賃金の確保に関する法律の適用を認めました。
この点について,一審被告は,本件の争点(未払賃金の存在)は,一審被告の賃金規程等の賃金体系の解釈(明瞭性の観点)に係るもので,一審被告が支払を拒絶して裁判所で争うことが不当とはいえない合理的な理由が存するから,賃確法6条1項の適用は排除されるべきであると主張するが,前記のとおり,一審被告の主張は不合理なものであり,本件において,賃確法6条2項の定める「天災地変」はもとより,裁判で争うべき合理的な理由があったとは認め難いから,割増賃金に対する賃確法6条に基づく附帯請求にも,理由がある。
7 最高裁判決
2審については1審被告だけが上告受理申立をしました。
最高裁は、2審が付加金を、1審原告が請求していなかった裁判を起こす2より前の分も認めていたとことについて上告を受理し、訂正しました。
その他の論点については上告は受理されませんでした。上記高裁判決は、付加金を減額して確定しました。
8 コメント
⑴ タイムカードが適正に打刻されていない場合でも、残業代を請求できる場合があります。諦めずに立証手段を考えてみましょう。
⑵ 固定残業代が支払われているからといって残業代を支払わなくてよいとは限りません。固定残業代の規定や運用が法律に違反する場合もあります。おかしいと思ったときには弁護士に相談してみましょう。
⑶ 裁判をおこした場合には付加金、退職した後であれば賃確法に基づく高額な利息まで請求できる場合があります。ただし、その適用については裁判所によっても判断がわかれています。本件でも1審と2審で裁判官の考え方が分かれました。いつも付加金や賃確法の利息まで認められるとは限りません。
しかし、2審のような裁判例が多くなることが、使用者の違法な賃金制度を是正させ、適正な法適用をさせることにつながるはずです。もっと広がってほしいと思います。
9 本件についてのweb記事
弁護士が精選! 重要労働判例 (固定割増手当(役職 手当)の有効性)
https://www.law-pro.jp/wp-content/uploads/2019/02/news20190215.pdf
労働判例を読む#47 労判1186.20
https://ameblo.jp/wkwk224-vpvp/entry-12421914403.html
タイムカードの時刻と実際の労働時間がずれているときの対処法
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201811177084.html
精神障害についての専門検討会が開催され、すでに2回の会議が行われています。
まだ議事録は公開されていませんが、資料がアップされています。過労死弁護団の意見書もアップされています。
適正な認定基準となるよう注目していきたいと思います。
労働政策審議会の労働政策審議会 (労働条件分科会労災保険部会)は、「複数就業者について、それぞれの就業先の負荷のみでは業務と疾病等との 間に因果関係が見られないものの、複数就業先での業務上の負荷を総合・合 算して評価することにより疾病等との間に因果関係が認められる場合、新たに労災保険給付を行うことが適当」という方針を示しました。
これにより、いままでは複数の職場の労働時間を合算した場合に過労死基準に達するほどの長時間労働をしていても、各職場で基準を満たしていない場合には労災と認められないという問題が、是正されることになります。
2019年12月10日の部会で方向性が示され、同月23日の部会ではここでしめされた方向性については、厚生労働大臣あて建議を行うこととなりました(別紙参照)。
過労死弁護団では、過労死認定基準についての意見書を作成して厚生労働省にも提出していました。
厚生労働省は11月1日の大臣の記者会見で次のような発表をしています。(厚生労働省ホームページ)
(引用開始)
記者:
先日議員連盟の総会で過労死の認定基準の見直しの検討をすることが明らかになったのですけれども、今後の検討の予定とポイントとなる認定基準の内容がどのあたりなのかというのを教えてください。
大臣:
今労災認定基準には脳、心臓疾患と精神障害の労災認定基準、これが二つあります。まず脳・心臓疾患の労災認定基準については、昨年度と本年度に医学的知見を収集をさせていただいております。それを踏まえて、令和2年度、来年度に有識者の検討会を設置して、労災認定基準これは全般にわたってご議論をいただきたいと、もう既に平成13年に作成をされておりますからもう15年、20年たっているということであります。それから精神障害の労災認定基準については、これは2つあります。1つはパワハラについて法制化され定義が明確化されて、指針等が今議論されているわけでありますけれども、本年中に有識者検討会議を設置して、検討を行う、これはパワハラから生ずる精神的な障害に対してであります。さらに全般については、来年に医学的知見等を収集し、それを踏まえて3年度に今度有識者検討会議を開いて検討を行うということにさせていただいているところであります。検討の期間はまだ見極められませんが、前回の検討においてはおおむね1年間ぐらいの議論をしていただいて答えを出していただいたということでございます。そんなことも踏まえながら対応していかなければいけないと思っております。(引用終わり)
この会見の内容によれば
・パワハラによる精神障害の発病については2019年に専門検討会を設置し、検討する。
・令和2年度には脳・心臓疾患の認定基準に関して専門検討会を設置して、検討する。
・令和3年度には精神障害の認定基準に関して専門検討会を設置して、検討する。
とうことが明確にされました。
今も不十分な認定基準のために、認定されないご遺族があります。
新しい認定基準が、より一歩進んだ過労死の認定基準になるように期待します。過労死弁護団としてはすでに意見書を発表しています。これからも意見を述べて行く予定です。
2019年12月24日、労働政策審議会では、賃金の消滅時効について、公益委員から見解が示されました。
その要点は
・ 賃金請求権の消滅時効期間は、民法一部改正法による使用人の給料を含めた短期消 滅時効廃止後の契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、5年とする
・ 起算点は、現行の労基法の解釈・運用を踏襲するため、客観的起算点を維持し、こ れを労基法上明記する こととすべきである。
というところにあります。
5年とするところは是認できます。
しかしながら、次のような妥協案が示されています。
ただし、賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消 滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要がある。このため、当分 の間、現行の労基法第 109 条に規定する記録の保存期間に合わせて3年間の消滅時効期間とすることで、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金等に係る 一定の労働者保護を図るべきである。
消滅時効期間を「当分の間」3年にするというのです。
今回の民法改正で2020年から短期消滅時効はなくなり、すべての債権が5年となる。それにもかかわらず、賃金だけは「当分の間」3年というほかの債権より短い期間で消滅するというのは不均衡である。
日本労働弁護団は12月26日「民法よりも労働者に酷な条件を労働基準法において定めることは、労働者保護を目的とする労働基準法と根本的に矛盾する。公益委員見解のうち⑵の適用猶予は、労働基準法に違反して賃金の支払いを怠っているにもかかわらず、その支払いを免れるための使用者側の居直りを受け入れたものであって、到底受け入れることはできない。」
と厳しく批判しています。(賃金請求権の消滅時効について「当分の間3 年間とする」との公益委員見解に反対する声明)
しかし、労政審議会は、翌日27日にも審議会を開き、意見をとりまとめたようです。
あらためて、賃金債権の消滅時効はただちに5年するように主張したいと思います。
今日は勤労感謝の日でした。
私が特任教授を務める愛知学院大学法務支援センターでは毎週土曜日に市民向けの公開講座を開いています。今期の講座は10月5日から12月7日まで以下のラインナップで行われています。
開 催 日 | 講 座 内 容 | 講 師 |
10月5日 | 再審に関する議論の欠落点-再審有罪判決への対応- | 教授 原田 保 |
10月12日 | 国際人権法とは? | 教授 初川 満 |
10月19日 | 交通事故と法律-いざというときに困らないために- | 教授(弁護士) 浅賀 哲 |
10月26日 | 裁判と真実について | 教授 梅田 豊 |
11月9日 | 税金の憲法問題-消費税は合憲か?- | 教授 高橋 洋 |
11月16日 | 募集株式の発行 | 教授 服部 育生 |
11月23日 | 過労死を防止するために | 教授(弁護士) 岩井 羊一 |
11月30日 | 土地の所有権は放棄できるのか | 教授 田中 淳子 |
12月7日 | 改正相続法について~従前の相続法とどのように変わったか~ | 教授(弁護士)國田 武二郎 |
今日は、私が「過労死を防止するために」と題してお話しをさせていただきました。
11月は過労死防止啓発月間です。(過労死等防止対策推進法5条2項)
過労自殺が社会問題になった電通事件の平成12年3月24日最高裁判決判決。そのときになくなった方のあとに生まれた高橋まつりさんが、亡くなった電通事件。いまもなくならない過労死の実態。どういった事案が過労死とされているのか。過労死がおきた場合の法律問題。労災の仕組みや法律の構造。パワーハラスメントの問題などお話しをさせていただきました。
愛知学院大学法務支援センターでは、春と秋に市民向け講座を行っています。
どの先生の講座も役に立つし、法律的な好奇心を誘うものです。
私は、来年の春は、裁判員裁判について語る予定です。乞うご期待。
2019年の春日井市が主催する かすがい熟年大学 で講義をさせていただきました。今回は、愛知学院大学法務支援センター特任教授として担当させていただきました。
生活コースといって、身近な幅広い話題の講座になっています。私は法務支援センターの教授ですからお話しするのは法律のこと。
今回は、「相続について」と題し、相続に関する法律の原則。そして、最近行われた相続法の改正までを解説しました。
おすすめしたのは遺言の作成。最近の法改正も遺言の作成について自筆遺言証書の要件緩和。法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度の創設(2020年7月10日施行)。等、遺言の作成をすすめるものです。
そんなお話し、そして、弁護士への相談の方法、気になる料金のことも説明しました。
多くの方が聴講していただき、熱心にお話を聞いて下さりました。楽しくお話しさせていただきました。
春日井市のホームページから、講座全体を引用しておきます。
月日 |
講師 | 演題 |
---|---|---|
6月5日 | 元東山植物園園長 森田高尚 | 童謡に歌われた植物 |
6月12日 | 愛知工業大学教授 横田崇 |
頻発する自然災害にどう備えるか ー春日井の地形・地質と減災対策ー |
6月26日 |
愛知県警のぞみ 春日井警察署生活安全課 |
侵入盗を防止するには |
7月10日 | 修文大学准教授 小田雅嗣 |
健康食品 |
7月24日 | 愛知教育大学教授 戸田茂 | 未知の世界「南極」 |
8月28日 | 中部大学准教授 草野由理 | 愛知の農産物がもつチカラ |
9月11日 | 名古屋大学大学院准教授 西田佐知子 | 植物から学ぶ生物多様性 |
9月25日 | 葉っぱの会 歯科衛生士 中村和子 | 口の健康は、体の健康 |
10月9日 | 名城大学准教授 間宮隆吉 | 知って得する薬の知識 |
10月30日 | 名城大学教授 林利哉 | お肉の魅力 |
11月13日 | 愛知学院大学特任教授 岩井羊一 | 相続について |
11月27日 | 地域福祉課 |
人生百年時代の地域福祉 ー幸せの黄色いハンカチのさがし方ー |
12月4日 | 名古屋学院大学教授 木船久雄 | 日本のエネルギー問題を考える |
2019年11月12日に開催された過労死等防止対策推進シンポジウム岐阜会場に参加してきました。
その内容をレポートします。
会場では開会前に「マー君のうた」が流れました。ダカーポさんの歌で、和歌山の過労自死遺族の当時小学生のマー君が作詞した歌です。『タイムマシーンに乗ってお父さんの死んでしまう前の日に行くんや。』という歌詞をきくといつも泣けてきます。
開会後、まず岐阜労働局、労働基準部長の子安成人さんから挨拶がありました。昨年度も703名が労災認定され、そのうち死亡、自殺未遂したかたは158名となっているという実態が報告されました。
労働時間の上限規制、労働時間把握義務などの法改正がありました。労働時間の上限規制は大企業ではすでに施行されている。中小企業でも4月に施行される。労働局としてもこの施行にあわせて取り組んでいきたい。本日の内容を参考に、過労死を0にする取組をすすめていきたいとの挨拶がありました。
つづいて、岐阜労働局労働基準部監督課長の大谷徹さんから、過労死等防止対策の取組に関する報告がありました。主に過労死等防止対策白書にもとづいての報告でした。
まず労働時間の現状について、労働時間は低下傾向にある。昨年は1週間に60時間以上働いている雇用者の割合はピーク時の12%から昨年は6.9%まで減少傾向に有るとのとでした。ただ、岐阜県内の約2割の事業所では月80時間以上の時間外・休日労働を行った労働者がいます。休日労働まで入れると、長時間労働をしている人もまだまだいるそうです。
過労死等の状況については、最近では精神障害事案が増えており流れが変わってきているという指摘がありました。過労死の件数については、高止まりとなっているとの報告がありました。
事案については、男性の場合には、仕事の内容・仕事量の大きな変化による出来事による発病が多く、女性の場合には、悲惨な事故や災害の体験、目撃をしたという出来事多いとの違いが示されました。ただ、岐阜の場合には、連続勤務、長時間労働が多く、それからセクハラ、職場のいじめ、嫌がらせが主な理由になっているとのこと。私の実感からすると岐阜の方が一般的な傾向を表しているのではないかと思いました。
監督行政についても説明がありました。労働時間に関する法違反の事業所に対する指導、啓発活動の実施を行っているとの説明もありました。
厚生労働省は今後も過労死防止の取組を実施していくとのことでした。
つづいては、フロンティーク株式会社の代表取締役三鴨正貴氏からの報告がありました。
フロンティークは、デイサービスの会社です。機能訓練をするデイサービスを行っているとのことでした。
離職率は33.3%であったり、赤字経営であったりという過去がありました。
いまでは60社、150人が見学に来ているそうです。赤字の際にはスタッフにはゆとりがなく、33.3%の人が会社を辞めていった。仕事量が多くて休みが取れない。仕事が多くて残業になる。そんな不満が聞かれたそうです。
これを解消するために、有給休暇を取りやすい環境を作ろうとして、毎週水曜日はノー残業デーとしたそうです。しかし、残った社員に迷惑がかかるので有給休暇はとらない。仕事が終わらないので持ち帰り残業を行うなどのことが起こったそうです。
そこで、問題は仕事量に目をつけました。しかし、仕事量を減らしたらさらなる赤字になってしまう。そこで、仕事の効率化を目指すことにしました。
ほうれんそう(報告、連絡、相談)を簡単に。インカムを導入し、離れた人に、みんなに伝わるようにしました。
この会社では、日々の記録を残すことが重要な業務でした。手書きで1日4時間かけてかいていました。これについて、社長自身で入力ソフトを開発しました。9割の記録業務を削減しました。
そのおかげで業務が標準化し、他の職種間でも協力できるようになりました。複数ある施設間どうしでヘルプに行けるようになりました。
時間短縮になり、残業は月5時間(1人)となりました。また、従業員が6人減っても、有給取得率は85%。離職率も8.8%と劇的に変化がありました。辞める人もその人の事情で、会社が嫌で辞める人がいなくなりました。
決算も黒字になりました。会社の負債も解消されました。
いまは、みんなで会社の将来を話すようになったそうです。社長と従業員との溝もなくなったそうです。
今、全ての社員に歩数計をつけているそうです。それは、歩数=疲労度ではないかと考えたから。そして計ってみたら介護士より看護師の方が歩数が多かった。そんなことから、看護師の業務と介護士の業務の見直しを考えているそうです。
三鴨社長は、赤字改善のために、働き方を考えた結果、従業員も会社もみんながよくなるという理想的な会社経営につながったとのことでした。
つづいて朝日新聞記者の牧村昇平さんのお話がありました。
牧村さんからは、過労死等の遺族50人超を取材した経験からお話しがありました。
亡くなる方は、本当にさまざま。年齢、仕事、家族構成、仕事ばかりしている人だけではなく、オンオフを切り替えていた方でもなくなる例がある。どんな人も亡くなる可能性があるとの指摘がありました。そんなことから、過労死は「他人事」から「自分事」にとらえたいとのお話しをされました。
つづいて、自分事といっても自己責任というのはありえない。仕事がすきでやっているという人がいたとしても、それを放置して健康に配慮しなかった会社に責任が生じるのだ。自分だけでなく、職場全体で考えてほしいと訴えがありました。
牧村さんは、マー君の歌のお父さんの自死の事件の取材のお話をしてくれました。死ぬくらいなら、やめればいいという自己責任論は通用しない。
マー君のお父さんも、正常な考えができなくなる。それほど追い詰められた。その前に長時間労働を防止し、そうなるまえに食い止め無ければならないと思う。「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない状態なのです。
牧村さんの講演はここからご自身の話でした。次のような内容でした。
自分が過労死の取材をするのは「マー君」の「ぼくの夢」に接してでした。子どもが生まれて、自分がこのような働き方をしていて、妻や子どもが残されたらどうなるんだろうという思いをしました。
入社して福島県で警察などをまわる仕事に従事しました。5年後、東京の財務省、国際経済の記事を取材して書いていました。世界中を出張して回っていました。
ハードワークにたえられたので、評価されていたと思います。毎日朝5時半に起床して深夜2時に寝るという生活でした。自分自身が過労死候補生。労働時間は記録していないので分からないくらいでした。心身共にひどい状況でした。
そんな状態の中で、妻はワンオペ(1人だけで行う)育児という状態でした。妻がある日、死にたいと言い出しました。うつ病でした。そのため、自分は、経済部の内部で話しあいました。国際経済から労働問題の部署へ配置替えになりました。当時は、とても不満でした。メインストリームからの挫折だと感じていました。いまとなっては、妻に助けられた。あのまま働いてたら倒れた、命を落としていたかも知れないと思います。
いま心がけていることはつぎのようなことでです。
働く時間の管理をする。
深夜は働かない。
心の病のケアをする。
妻も自分も心の病にならないように。脱ハラスメントを考えて、職場全体を守るということを考えています。
記者の世界は平準化されていません。それでも平準化する方がいいです。特に事務の方は職場のなかで少数。こういうかたに声をかけるようにしています。一番大事なのは、心のゆとりをもつことだと思っています。自分の中ではもっと記事を書きたい、とゆらぐけれども、逃げていい,とも思っています。危ないというもっと手前で。
長時間労働による過労で、交通事故を起こしてしまう方もいます。危ないと思ったときには手遅れになっています。そのもっと手前で逃げる。逃げてもいいんだと思っておかないと駄目になってしまうのではないかと思っています。逃げてはいいんだと思っています。具体的に考えている訳ではないけれども、心の中では転職活動を、と思っています。高校生に話すときには、いつも転職活動を、と話しています。
いまは、夜は仕事をしないというライフスタイルで生活をしています。それは、会社の理解で、成り立っています。朝日新聞という大きな会社で、多くの記者がいるので自分がそのようなスタイルで仕事をすることができます。
いまは働いている時間は1日8時間くらい。家事、育児もしているので、結構つかれます。これ以上働いたら、地域生活、育児ができません。8時間働いて、その他の時間は、自分のために使う。自分がリフレッシュできる。休まなければならない。それを身をもって実感しています。
ここから、また、事例の紹介をされました。
外食チェーン店の事例の紹介です。
エリアマネージャーは、暴力をふるっていました。そのため24歳で死亡した方の事案です。自分は、エリアマネジャーに取材をしました。そのエリアマネージャーはそっとしておいてほしいというだけで、記者からの取材は迷惑そうでした。自分は、心から反省している、遺族に謝罪したい、という対応を期待しました。そのような考えを遺族につなげたら、遺族の悲しみも少しは影響があるかと考えていました。でも、それは無理だということが分かりました。
牧内さんは、自分がパワハラをしてしまった経験も話しをされました。入社3年目の頃、自分の私生活も大切にしたいという後輩に対し、厳しく叱責をしてしまった。いまは、後輩の置かれている立場や,考え方をよく理解せずに対応したことを後悔しているという率直な話しをされました。そして、それは自分の未熟さに責任があるが、重要な記事を書けという会社の構造が、自分をそうさせているという問題点についても指摘されました。
過労死の取材を通して、自分自身の働き方を考える。そして、自分の今までのは働き方やパワハラも顧みて、講演をするというスタイルに、大変感銘を受けました。とてもいい講演だったと思いました。
つづいて、過労死遺族の伊藤左紀子さんのおはなしでした。
その内容は、以下のとおりでした。
市役所につとめていた夫の哲さんが市役所から飛び降りてなくなりました。
公園整備の仕事が多忙で、過酷であったこと。パワーハラスメントが行われたことが原因でした。公務災害申請しました。基金では自分の訴えを全面否定されました。裁判では地裁、高裁で私の言い分を認めてもらうことができました。10年かかった争いをおえることができた。市長と面談し、パワハラ防止対策などを約束させた。条例も作られました。市長や、部長も哲さんに謝罪をしました。ことし3月に岐阜過労死をなくす会を立ち上げて、過労死を防止するための活動をしています。
2018年、岐阜市役所で2人の職員が自死している。無念でなりません。過労死がおきると、家族だけでなく回りも辛い思いをします。基金は、すみやかな認定をしてもらえません。悩みがある人はぜひ相談して欲しいとおもいます。
質疑応答でも、牧内さん、三鴨社長に講演の内容についての質問があり、お二人とも熱心に回答をしてもらいました。
シンポジウムの開催は、厚生労働省、会社の社長、新聞記者、過労死遺族、みんなを結びつけて過労死防止の輪を広げる機会として着実に根付いて、少しずつ効果を発揮していくと思います。過労死をなくすために、これからも続いていってほしいと思います。
厚生労働省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムが、今年(2019年)も全国の都道府県で行われます。
愛知県でも2019年11月15日に行われます。
今年の内容は以下のとおり。
愛知労働局からの現状報告 愛知労働局 労働基準部監督課
キャッチネットワークの働き方改革
株式会社キャッチネットワーク 代表取締役社長 松永 光司 氏
基調講演
「息子の過労死から過労死ゼロを願う」
西垣 迪世 氏(全国過労死を考える家族の会 兵庫代表)
申し込みはホームページから。
「未払い賃金請求期間、まず3年に延長へ 厚労省」
しかし、まず3年という考え方はあり得ません。
民法の改正で2020年から、短期消滅時効がなくなり、債権の時効は5年になります。労働基準法が賃金債権の時効を2年としたのは、民法が短すぎる(1年)ので、労働者保護のために2年としたという経緯があるのです。民法が短期消滅時効をなくし、5年とすることになったのです。労働基準法で労働者保護をする必要はなくなりました。当然に賃金債権も5年になるのが「すじ」です。
厚生労働省の労政審議会(労働条件分科会)は、まだ2019年9月25日、10月18日の議事録を公表しておらず、ここでどの様な議論がなされたのか正確なところはわかりません。
また、消滅時効をどうするのかは、有識者で構成する労政審議会(労働条件分科会)
の意見をきいてきめることになっているのであり、厚生労働省がきめたとするのは、正確ではありません。(いや、審議会はおかざりなので、厚生労働省がきめればその方向へ進むということで正確、なのかも知れません。)
記事によると「労務管理のシステム改修などに1社あたり数千万円かかることや、残業時間の上限規制が20年4月から中小企業にも適用されるため、経営側が負担増に反発した。」などとあります。
しかし、民法でも2020年4月よりまえに時効が完成している債権については適用がない。実際に大きな影響が生じてくるのはまだ先です。1年目は3年に改正するのと変わらないはずです。
それに加えて何よりもきちんと賃金を支払っている企業には何の影響もないはずです。
民法改正がなされたのは2017年5月26日です。あわせて時効が延長される可能性は十分に予想できたと思います。
民法が改正施行されるのにあわせて、5年とするのがすじです。3年案はすぐに撤回するべきです。
1 問題の所在
議論の発端は民法の改正です。現行の民法の規定は、原則、債権は10年間行使しないときは消滅することになっていました。例外として短期消滅時効という制度があり、使用人の給料に係る債権については、1年間行使しないときは消滅という規定が設けられていました。この民法の短期消滅時効の特別法といたしまして、労働基準法における賃金等請求権の消滅時効の関連規定が設けられています。
具体的には、労働基準法第115条は、賃金、災害補償、その他の請求権は2年間行使しないときは消滅するとされています。労働基準法ができた昭和22年、民法の短期消滅時効と比較して、労働者にとって重要な請求権の消滅時効が民法の1年ではその保護に欠けるが、10年では使用者に酷に過ぎ、取引安全に及ぼす影響も少なくないため、2年とされたという経過がありました。なお、このうち、退職手当の請求権につきましては、昭和62年に法律改正がされて、一律2年だったのを退職手当だけ5年に現在は引き上げられています。
あわせて、労働基準法の規定上、賃金台帳などの書類は3年間保存しなければならない旨の規定があります。
ところが、民法が改正されました。平成29年の6月に改正民法が成立して、2020年、来年4月に施行となっています。
改正後の民法につきましては、時効の簡素化、統一化のために、使用人の給料などに係る短期消滅時効は廃止した上で、債権は、
1 権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年間、
2 権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間、
この2種類に一本化されました。
この民法の改正を踏まえて、特別法たる労働基準法の扱いはどうすべきかを検討するために設けられたのが「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」でした。この検討会は、平成29年6月の改正民法の成立を受けて、その年の12月に設置されました。
この検討会の最終会が令和元年6月13日に行われて、その場で検討会の論点の整理案が示されました。
2 検討会の整理案
検討会の整理案は次のような内容です。
⑴「賃金等請求権の消滅時効の起算点、消滅時効期間について」。
「以下のような課題などを踏まえ、速やかに労働政策審議会で議論すべき」として「消滅時効期間を延長することにより、企業の適正な労務管理が促進される可能性等を踏まえると、将来にわたり消滅時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる」。
「ただし、労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やそのあり方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については引き続き検討が必要」
起算点に関しては、これは民法の改正を踏まえた形で「新たに主観的起算点を設けることとした場合、どのような場合がそれに当たるのか専門家でないと分からず、労使で新たな紛争が生じるおそれ」があるのではないかというようなまとめがされています。
⑵「年次有給休暇と、災害補償請求権の消滅時効期間について」
主に2つの意見がありました。まず、年休ですが、「年次有給休暇の繰越期間を長くした場合、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれがあることから、必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方でおおむね意見の一致がみられる」という整理がされました。
災害補償については、「仮に災害補償請求権の消滅時効期間を見直す場合、労災保険や他の社会保険制度の消滅時効期間をどう考えるかが課題」であるという整理がされました。
⑶「記録の保存期間について」
公訴時効は、労働基準法違反である場合は原則として3年とになりますが、「公訴時効との関係や使用者の負担等を踏まえつつ、賃金請求権の消滅時効期間のあり方と合わせて検討することが適当」ではないかというまとめをしています。
⑷「見直しの時期、施行期日等」
民法改正の施行期日は来年の4月1日です。「民法改正の施行期日も念頭に置きつつ」、来年(2020年)4月は中小企業の労働時間の上限規制や大企業の同一労働同一賃金の施行などありますが、「働き方改革法の施行に伴う企業の労務管理の負担の増大も踏まえ、見直し時期や施行期日について速やかに労働政策審議会で検討すべき」とされています。
「仮に見直しを行う場合の経過措置については、以下のいずれかの方法が考えられ」ということで、両論を併記しています。
1つ目の経過措置の考え方は「民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法」
2つ目は「賃金等請求権の特性等も踏まえ、賃金等請求権の発生日を基準に考える方法」、
この2つの方法を両論併記しています。
3 労政審議会の議論
令和元年2019年7月1日 第153回労働政策審議会労働条件分科会では、以下の豊国を踏まえ次のような議論がありました。
労働者代表の川野秀樹委員(JAM副書記長)からは次のような発言ありました。
○川野委員 ありがとうございます。
御説明いただいた資料No.4の内容について、考え方をお話しさせていただければと思います。御説明いただいたとおりでございますけれども、改正前民法において使用人の給料に係る債権が1年で消滅するとされていたことは労働者保護の観点に欠けるということから、労働基準法第115条に定める賃金等請求権の消滅時効は、民法の適用を排除して、1年を上回る2年とした経緯があります。
また、会社の倒産や解雇があった際に、未払い賃金、いわゆる労働債権の請求のために労働者側が資料を整理して労働審判や訴訟の準備をしますが、その準備においては数カ月から半年以上かかる場合もあって、そうしたことを踏まえると、現行の2年の消滅時効期間では短いという声が聞かれます。
今回、民法改正によって消滅時効期間が5年と10年に整理されましたが、労基法上の労働者保護という趣旨を踏まえれば、一般的債権の時効を定めた民法の消滅時効期間を労基法が下回るということはあってはならないと考えているところでございまして、労働関係の債権についても改正民法同様の5年とすべきであると考えるところでございます。
また、2017年の民法改正の決定から2年が経過して、施行期日の2020年4月が目前に迫る状況でございます。ようやく労基法上の消滅時効について論点整理がなされたわけでございますが、時間がかかり過ぎていると言わざるを得ないと思っています。早急に改正の議論を進めて、改正民法施行と同時に5年の消滅時効期間の適用が受けられるようにすべきであると考えているところでございます。
これに対し使用者代表委員の輪島忍委員((一社)日本経済団体連合会労働法制本部長)は次のように発言しています。
○輪島委員 初めて見るというわけではないでしょうけれども、最終的なものということを踏まえて発言したいと思います。先ほど分科会長がお取りまとめといいますか、解説していただいたとおりだと思っておりまして、今後、本格的に労働条件分科会で議論するということでございますので、使用者側としては真摯に対応してまいりたいと思っております。
そこで、きょうは、参考資料No.4の16ページにございますけれども、昨年6月26日にこの検討会でヒアリングということで私ども経団連としても意見を述べさせていただきましたので、繰り返しになりますが、懸念事項ということで述べさせていただきたいと思います。
第1に、賃金等請求権の消滅時効期間を延長した場合には、賃金台帳、それに関連する記録の保存期間も延長するということになりますので、それによるコストの増加が企業経営に非常に大きく影響するのではないかと心配しているということでございます。
第2に、実際に労働者から未払い賃金の請求がなされた場合に、時間外労働等の過去の業務の指示の有無とか、さまざまな状況の確認が必要になるということで、この場合に、過去にさかのぼって時間外労働、休日労働の有無を確認するということは、単に保存義務があります賃金台帳等を確認するだけではなくて、メールの送受信や入退館の記録であるとか、法律で求められている以上のさまざまなものを残しておかなければ対応できないという、実務的には非常に難しい点があるのではないか。
加えて、組織再編が非常に激しい時期でございまして、例えば異動、転勤、退職等、5年前のそのセクションといいますか、関係する職場というものも、当時のことを知る人が誰もいないということもあるのではないか。5年、10年さかのぼって事実を確認するということは現実的ではないのではないかと考えております。
そういう意味で、現行の規定は、実務では定着していると考えておりまして、実際にそんなに不都合があるということでもないと思いますので、労働者保護という点についてもそれなりに担保されているのではないかと考えているところでございます。
最後に、現行の規定は、賃金債権の特殊性を踏まえて、企業の取引の安全性、労働者保護の双方に配慮されたものということで、民法では先ほど来御説明のあったとおりでありますが、民法とは独立してそのあり方を検討することも必要なのではないかと考えているところです。
以上です。
労働者代表委員の村上陽子委員(日本労働組合総連合会総合労働局長)からは次のような発言がありました。
○村上委員 先ほど川野委員からも申し上げたのですけれども、賃金請求権の消滅時効について、私どももヒアリングで対応させていただいております。今、輪島委員から使用者側の立場で懸念点などをおっしゃいましたけれども、その点に関しても改めて、繰り返しになりますが、申し上げておきたいと思います。
主に輪島委員からは、資料や記録などの保管やデータの問題についての御指摘がありました。その点に関しましては、参考資料No.4の8ページにもございますが、ほかの運送費などでも短期消滅時効は廃止されておりまして、その点に関して、事業者側から負担を軽くするために短期消滅時効を残すべきであるという意見は出されておりません。労働に限って負担が重くなるというのはどうなのかということはございます。賃金だけ、データの保管が必要になってくるという話ではないのではないでしょうか。
また、現行の2年が定着しているという御指摘につきましては、確かに2年でずっと運用されておりますが、労働組合のない職場で解雇された労働者からの相談などに対応しておりますと、解雇されてしばらくたってから相談などに来られて、労働組合に入ったり、あるいは弁護士に相談したりして、ようやく申し立てをするときには半年ぐらい経過していることがよくある話でございまして、そうすると、残り1年半ぐらいしか請求できないということがケースとしてはよく見られるところでございます。働いた対価として、本来、支払われるべきものが支払われていないということが課題でございますので、その点、やはり早く民法と同様の5年にするべきという考え方でございます。
また、要望としては、2017年に民法改正が成立したわけですが、施行は2020年4月ということで、1年を切っているところでございまして、このままで2020年4月に賃金債権に関する労基法の改正も一緒に施行できるのかというと、大変不安があるところでございます。ぜひ早急に検討を開始していただくとともに、論点を整理して議論しやすいようにしていただきたいという要望でございます。
以上です。
使用者代表委員の佐久間一浩委員(全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長)からは次の発言がありました。
○佐久間委員 ありがとうございます。
これから労働条件分科会で議論が進んでいくと思います。ただ、私ども中小企業としましても、賃金債権が5年以上になってくるとなると、先ほどの事務の関係、賃金債権以外のものでも同じだということがありますけれども、実際にはデータで管理している中小企業ばかりではありません。紙ベースでファイルをつづってやっているところもいっぱいあると思います。そこの中で、中小企業の場合、担当者はいろいろなことを担当したり、また流動性が多い職場ということもあれば、過去のものがどれだけの期間、存在しているか、非常に疑問なところでございます。また、これが延びたからといって、5年以上のものをいろいろさかのぼってくると、そこまでなかなか見切れないということが出てくるのではないかと思っています。
私どもは、労働側にとっては長ければそれなりの対応ができると思いますけれども、今までの実態等々を考えれば現状どおりということを望みたいと考えております。紙で管理していること、それから、労使間でも円滑に有効に機能していくためにも話し合いを持たなければいけないということもあると思います。書類が整っていない、そして期間が単純に5年になれば事務作業等も2.5倍になってしまいますから、それによって税理士、社会保険労務士、弁護士にお互いが依頼する費用というのも2.5倍以上になってくることになります。かなりの費用の問題も出てくると思いますし、賃金債権は優先的な債権でございますので、こういう債権があれば必ず優先的に払わなければいけないということはあると思いますが、それによってほかの債権者に対しても支払いがおくれてくる、また、支払いができなくなることもあると思います。そういうことで2年の現状どおりというのをぜひお願いしたいと考えております。
以上でございます。
さらに使用者代表委員の鳥澤加津志委員((株)CKK代表取締役)から次のような発言がありました。
○鳥澤委員 今回から参加させていただきます鳥澤でございます。
私は、本当に小さな会社でございますので、今、佐久間さんが言ったことと同じなのですが、中小企業の立場としてお話をさせていただきたいと思っています。
3点あるのですが、まず1点目は、先ほど言われましたように、中小企業の多くが未だに紙ベースで行っております。実際、うちの会社でもそれをデータ化しようという動きはあるのですが、データ化する人材がいない。そこになかなか手をつけられないというのが非常に大きな問題でございます。また、期間が延びることによって保管の場所等を含めて、いろんなものが、今、書類のハンディがあるのですが、増えていくのは大変というのがございます。
2点目が、労働者から未払い賃金の支払い請求があった場合の対応についてです。そういった問題になるのは恐らく簡単にできるような問題ではないと思います。複雑な経緯、要因がある場合ということでございますので、期間が長くなればなるほど、お互いにとって、記憶をさかのぼる、書類をさかのぼる、ここが非常に難しい作業になってくるのではないかと思っております。先ほどの話にもありましたように、5年となると担当がいなくなってくるのと同時に、今、中小企業同士のM&Aも非常に増えてきておりまして、5年たつと企業そのものがどこかに変わっているという状況も出てきております。そういったことを踏まえますと、期間が長くなるというのは、ある一定のところの期間で、今の2年というのはいいところではないかと思っております。
3点目は、有給休暇の問題でございます。これについてはまだどういう形がいいのかというのは書いてありませんでしたが、単純な考え方として、これも5年間になると、年20日として、5日間は必ず取得義務があるわけですけれども、残り15日間の4年間分、プラスその年と考えると、最大80日分を一挙に取得することも出てきます。果たして中小企業にとって、一人の方が80日間有給休暇をとったときに対応ができるほどの体力があるのかというと、非常に難しいと思っております。
中小企業の立ち位置を改めてお話しさせていただくと、なぜ存在できているのかということで言えば、中小企業というのは間接部門の人員が少ない、費用が少ないから存在できているのだと思っております。一般的な大企業に比べて、例えば事務職だとか、本業以外の部分にかかる人数が少ないから運営できているというのがあります。企業によっては、社長一人が全て事務職を行って、ほかの社員は全員、事業部門となってくると、一人にかかる負担が非常に大きいのが現状でございます。
こういった中で、さまざまな事務処理が増えていくということは非常に厳しくなってくるのと同時に、消滅時効の延長だけではなく、働き方改革によって事務職の負担が非常にふえているというのが現実でございますので、ぜひとも今後の延長に関しては深い配慮をいただきたいと思っています。特に労働基準法というのは罰則規定でございますので、民法とは性格が異なるものだと私は思っております。ぜひ、中小企業の活力が損なわれないようなことに留意していただきたいと思います。
以上でございます。
村上委員が
「2017年に民法改正が成立したわけですが、施行は2020年4月ということで、1年を切っているところでございまして、このままで2020年4月に賃金債権に関する労基法の改正も一緒に施行できるのかというと、大変不安があるところでございます。ぜひ早急に検討を開始していただくとともに、論点を整理して議論しやすいようにしていただきたいという要望でございます。」
と述べているように、民法改正の施行が間近であり、民法改正の趣旨からすれば、賃金債権の時効だけが2年というのは合理性がありません。来年4月の段階で間に合いませんでしたというのでは、民法改正に例外を認めることになってしまいます。
早期に労働政策審議会での議論が進められることが望まれます。
複数就業者への労災保険給付について、現在議論がなされています。
第78回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料として、現在の労災認定制度の不合理性について分かる資料があります。
同じように週70時間の長時間労働をしても、一つの職場で長時間労働があった場合には、労災認定がなされるのに対し、一つの職場では週40時間、一つの職場では週30時間の労働をした場合には労災認定がされない可能性があることを指摘しています。
「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」 (令和元年6月 21 日閣議決定)においては、 「副業・兼業の 場合の労災補償の在り方について、現在、労働政策審議会での検討が進められ ているが、引き続き論点整理等を進め、可能な限り速やかに結論を得る。」とされました。
実際の論点は二つあります。
〇 複数就業者の業務上の負荷について
現行制度では、一方の就業先での業務上の負荷だけでは労災認定さ れないが、複数の就業先での業務上の負荷を合算したのと同様の業務 上の負荷が1か所の就業先であったものと仮定すれば労災の認定基準 を満たす場合についても、労災認定されていない。
〇 複数就業者の労災給付額の在り方について
災害発生事業 場の使用者から被災労働者に支払われていた賃金を基本に算定する 「給付基礎日額」等により給付額を決定しており、複数就業先の全て の賃金額を合わせたものを基礎として給付額を算定していない。このため、現行制度では、必ずしも労災保険制度の目的である被災 労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の填補を十分果たしてい ない可能性がある。
これらについて第77回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料で、労働者側、使用者側の意見をまとめた資料があります。
使用者側の意見をみると、
給付の在り方について
「生活が苦しいといった事情により、やむを得ず兼業・副業をしている労働者も多く、そうした労働者が労働災害で被災した場合に、労働災害が発生した就業先の賃金のみを基礎として労災保険給付が行われ ている現状は、労働者保護という観点から見直すべきであるというこ とについては理解する。 」
などの意見もあり、一部理解されているものの、まだ、様々な論点をしてきしており、抵抗の大きさを感じます。
業務上の負荷については、
「負荷の合算については、企業の安全配慮義務にも関係し、労働時間の通算をする、しないという点が煮詰まっていない中で、業務上の負荷の合算という議論だけが先走りするのは危険ではないか。むしろ、 業務上の負荷が合算されるということで、長時間労働を引き起こす危 険性があるのではないか。 」
など、使用者側の反対意見が主張されています。
日本労働弁護団は、2019年6月12日「本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま副業・兼業を推進することに反対する緊急声明」を発表しています。
そのなかで、日本労働弁護団は、「現状の労災実務では、副業・兼業をしていたとしても、本業先と副業先との労働時間の通算が認められていない上、労災の支給額の算定は、労災に遭った勤務先から得ている賃金のみを基に行われている。そのため、本業と副業とを合わせて過労死ラインを超える長時間労働をしていたとしても、労災としては認められない上、仮に労災認定がされたとしても、労災に遭う前の賃金保障はされないため、被災者は生活の困窮に直面することになる。これでは、安心して副業・兼業に従事することなどできない。国家的な方針として副業・兼業を推進していくのであれば、これまでの実務運用を改め、万が一労災に遭ってしまった場合の補償をきちんと行うための法整備を進めていく必要がある。」と指摘しています。
過労死弁護団全国連絡会議の共同代表松丸正弁護士は、中日新聞2019年8月12日の記事で取材に答えて「副業、兼業する大部分の人は収入が少なく、暮らしに困っている。長時間労働の末に過労死するケースもある。川口労働基準監督署(埼玉)が七月、副業をして死亡したトラック運転手を過労死認定したケースでは、本業と副業の労働時間を合算した結果、一日の法定労働時間(八時間)を超えていた。
また、副業先で法定労働時間を超えて働いた場合、副業先が割増賃金を払う必要があるが、私は時間外手当が払われているケースを聞いたことがない。労働者も解雇を恐れ、「払ってくれ」とは言えない。」などと指摘し、副業についての条件が整わないまま推奨されると、過労死の危険が増加すると指摘しています。
今後労働法制審議会労働条件分科会労災保険部会では次のような日程で議論がすすめられる予定です。早期にこの問題点を適切に改正することが望まれます。議論の推移を見守りたいと思います。
第78回 ○複数就業者への労災保険給付の在り方について(労災認定等現行制度の説明)
第79回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討①
《負荷の合算について》
・負荷の範囲・認定方法に係る論点整理案
《特別加入制度の在り方について①》
第80回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討②
《負荷の合算について》
・負荷の範囲
・認定方法に係る論点整理案
・責任と負担に係る論点整理案
《特別加入制度の在り方について②》
第81回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討③
《額の合算について》
・保険料負担の軽減策、賃金額の把握等に係る論点整理案
《負荷の合算について》
・負荷の範囲
・認定方法に係る論点整理案
・責任と負担に係る論点整理案
《特別加入制度の在り方について③》
第82回 ・その他の論点
厚生労働省は、「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(座長 山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授)がとりまとめた「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」を公表しました。
民法については、第 193 回国会において民法の一部を改正する法律(平成 29 年 法律第 44 号。以下「改正民法」という。)が成立しました。2020年4月から施行されます。
消滅時効関連規定について も大幅な改正が行われました。
一般債権に係る消滅時効について
①債権者が権利を行使する ことができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は
②権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10 年間行使しないときに 時効によって消滅する、
と整理されました。
ところで、労基法に規定されている賃金等請求権については、労基法第 115 条の規定 により2年間(退職手当については5年間)行わない場合は時効によって消 滅するとされています。
労基法の賃金等請求権の消滅時効規定は、民法の特別法として位置づけられるています。そこで民法改正をしたと、労基法については、改正をしなくてもいいのか、が問題になりました。
考え方として、
あくまで民法と労基法は別個のも のとして位置づけた上で労基法上の消滅時効関連規定について民法とは異 ならせることの合理性を議論していけばよい。仮に特別の事情に鑑みて労 基法の賃金等請求権の消滅時効期間を民法よりも短くすることに合理性があるのであれば、短くすることもありえるという考え方もあるのではない か、という意見があります。
一方で、民法よりも短い消滅時効期間を、労働者保護を旨とする労基法に設定する のは問題であるとの考え方もあるのではないか、という意見もあります。
この問題についての意見の状況や私の意見は2019年5月4日のブログでのべたとおりです。
上記検討会は、これについて次のように結論づけています。
「…現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来に わたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向 で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。」
よって、2年が延長されることはほぼ確実と考えられます。
しかし何年にするのかについては、「この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、 賃金請求権の消滅時効期間を5年(※)にしてはどうかとの意見も見られたが、」と「が、…」とあるように結論は出ていません。
「この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい 現状も踏まえ、また、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債 権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間
を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏 まえて一定の結論を出すべきである。」
私には、使用者が反対しているから簡単にできないので、少し譲ってはどうか?と読めます。しかし、民法で様々な短期時効があり、これを廃止した民法改正の趣旨からすれば、例外をもうけることは理論的にはありえないように思えます。
いずれにしても、権利拡大の方向性は明らかになったのですから早期の改正が望まれます。
なお、経過措置について、
① 民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法
② 賃金等請求権の特殊性等も踏まえ、賃金等の債権の発生日を基準に考える 方法
いずれにするかという論点がありますが、これについては、方向性は示されていません。
2020年4月の民法改正施行が近くなってきました。早期の改正がなされることを期待します。
厚生労働省は、労働基準法第115条における賃金等請求権の消滅時効の在り方について検討を行うため、学識経験者及び実務経験者の参集を求め、「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を設置しています。
この検討会の趣旨について、開催要項には、次のように記載があります。
「一般債権の消滅時効については、民法(明治 29 年法律第 89 号)において、 10 年間の消滅時効期間及び使用人の給料に係る債権等の短期消滅時効期間が定められているところであるが、この規定については、今般、民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号。第 193 回国会において成立)によって、消滅時効の期間の統一化や短期消滅時効の廃止等が行われた。
現行の労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)においては、労働者の保護と取引の安全の観点から、この民法に定められている消滅時効の特則として賃金等請求権の消滅時効期間の特例が定められており、今般の民法改正を踏まえてその在り方を検討する必要がある。」
これまでは、民法で、使用人の給料についての消滅時効は1年と定められていました。(改正前民法173条) 労働基準法で、労働者の保護と取引安全の観点から、この1年を2年にしていたのです。(労働基準法115条)
また、労働基準法は、災害補償の請求権も2年、退職金については5年と定められています。
しかし、民法の改正で、短期消滅時効の特例が廃止されることになりました。短期消滅時効の趣旨は、比較的少額な債権は、時効期間を短期間にしてその権利関係を早期に決着させることにより、将来の紛争を防止するところにあると言われてきました。しかし、制定後、社会状況の変化によって多様な職業が出現し、取引内容も多様化するなどしたため、特例の対象とされた債権に類似するものも現れました。そうした債権には特例が適用されず、特例の対象債権との間で時効期間に大きな差が生じることから、特例自体の合理性に疑義が生じていました。このため、改正民法では、旧法170条から174条までに定められた職業別の短期消滅時効の特例及び商事消滅時効の特例を廃止したのです。(一問一答 民法(債権関係)改正・筒井健夫・村松秀樹編著 Q27・53頁)そして消滅時効は、「権利を行使することができることを知った時から5年」「権利を行使することができる時から10年」と定められました。
このような民法改正の趣旨からすれば賃金について2年間の時効、労災補償についての2年の時効というのも廃止し、改正民法と同様にするべきではないかというのが問題の所在です。
民法より長い時効期間を定めていたところ、その期間が民法よりも短くなってしまったのですから、民法改正の趣旨によれば、この期間も5年にするのが自然です。
この点、検討会で、労働者側からは、5年にするべきであるという意見が出ています。
第2回検討会で、日本労働弁護団の古川弁護士からは「改正後の民法を適用すべきで
ある。」という意見書が提出されています。また、第2回の検討会で「労働契約に該当しない請負契約に基づく報酬請求権の時効消滅期間と均衡を取るべきであると考えます。」等を理由に改正民法を適用するように法改正するべきという意見を述べています。一方、経営法総会議の伊藤弁護士は、労働基準法115条の改正は必要ないという立場から意見を述べています。
第5回検討会では、経団連、商工会議所などの使用者団体が同様に労働基準法115条の改正が必要ないという意見を述べています。労働団体である連合は、労基法115条を廃止し、民法の適用をするべきであるという意見を述べています。
短期消滅時効は廃止するという民法改正の趣旨は、賃金にもあてはまります。また、労基法は、そもそも労働者保護にその趣旨があったというのであれば、民法改正あわせ、労働者の権利を拡張するのは当然のことです。
労働弁護団の請負との比較で不均衡になるという指摘は、まさに改正民法の短期消滅時効を廃止するときの議論が当てはまります。
これまで長時間労働でサービス残業してきた労働者が、最後の2年分の未払残業代しかもらえませんでした。改正民法によりそのほかの短期消滅時効は廃止されたのですから、改正民法と異なる2年という消滅時効制度を残すことは制度として大きな矛盾をはらむことになります。
検討会は、当初平成30年夏を目途にとりまとめを行うと想定されていましたが、現在も検討会が続いています。
この問題について、日本労働弁護団は、2018年7月に意見書を発表しています。また、2018年末、検討会に対し、早期に労基法115条の廃止、改正民法に従って消滅時効は判断されるべき等を内容とする申入書を検討会に提出しています。
いつの債権から適用されるか?
ところで、改正されたとして、新法が定要されるまでの経過措置はどうなるでしょうか。この点、検討会の第2回で次のように説明があります。
「施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含むとされています。これを考えますと、施行日前に発生した賃金ではなくて、施行日前に締結した労働契約に基づいて発生した賃金については、施行日後についても旧民法の消滅時効が適用されるというように解釈するのが妥当ではないかなと思います。」
改正民法の附則からすれば、この指摘は改正民法と同じ考えかたになり、正当なように解されます。
ただ、これについては日本労働弁護団が、批判しています。
「施行日直前に新たに労働契約を締結した労働者の賃金等請求権の消滅時効期間は、2年間に据え置かれ、この状態は労働契約が終了するまで長ければ40年間以上にわたり継続されることになる。」
もう少し日本労働弁護団の申入書を引用してみます。
「そもそも、改正民法附則10条の趣旨は、「施行日前に債権が生じた場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者(債権者及び債務者)の予測可能性を害し、多数の債権を有する債権者にとって債権管理上の支障を生ずるおそれもある」(法制審議会民法(債権関係)部会資料85)というものである。
このような趣旨からすれば、「原因である法律行為が施行日前にされたとき」とは、当該法律行為をした時点において請求権の内容、金額等が具体的に決定されており、施行日前に債権が生じた場合と同視できるような場合に限られるというべきである。
賃金等請求権についてこれを見ると、労使間においては労働契約締結時に基本給等の金額について一定の合意はするものの、労働契約締結以降において就業規則または合意に基づいて降給・昇給がなされるのが通常であるし、賞与請求権については毎年の業績によって変動するのであって、労働契約締結時点において請求権の内容、金額等が具体化されているものとは言えない。さらに、雇用契約においては労務の提供が終わらなければ賃金請求権の額は確定せず、このため、民法は「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」(624条)と賃金後払い原則を定めており、この条項は民法改正後も維持される。
とりわけ残業代請求権については、労働契約締結以後の個々の残業命令とそれに基づく業務遂行によって初めて請求権の内容、金額等が具体的に決定され明確になり、初めて具体的な賃金請求権が発生するものであって、労働契約締結そのものを「原因である法律行為」とするのはあまりに不自然・不合理な解釈というべきである。」
たしかに、弁護士としても、相談に来た方に何年に会社と雇用契約締結したのですか、と確認しないと、請求できる残業代がどのくらい遡れるか分からないことになります。2020年よりまえに働いていたベテランは、仮に不当な賃金であって未払があったとしても今後も永久に2年しか遡れないのは不合理です。
これでは、いろいろな期間の事項があると混乱するという短期消滅時効をなくした趣旨が当面実現されないことになります。労働契約のように継続的な契約で、かつ債権の発生時期は「給料日」としてはっきりしているものについて、契約時期によって改正法適用の有無を判断するのは適切ではないと考えられます。債権発生時期によって区別する方が合理的であると考えられます。生命・身体に関する時効期間は、施行の日に時効が完成していない場合には延長されます。これは債権者保護のためですが、賃金等の債権もこれと同じように解することもできるはずです。
今後の議論が注目されます。
議事録、関係資料は、下記で公開されています。
平成31年4月25日の検討会の資料には、諸外国の賃金の時効制度、監督指導による賃金不払残業の是正結果の推移、賃金等に関する紛争はどのくらい起きているかなどの資料も掲載されており興味深いところです。
パワーハラスメントということばは、2001年、クオレ・シー・キューブ株式会社、の社長(当時)岡田康子さんが提唱した言葉でした。日本で作られた和製英語です。
「パワーハラスメント」という言葉が判決の中での指摘されるようになりました。
たとえば、当職が担当した中部電力事件名古屋高等裁判所平成19年10月31日判決では次のような指摘がありました。
前記認定のとおり,Fは,Aに対して「主任失格」 「おまえなんか,いてもいなくても同じだ 」などの文言を用いて感情的に叱責し かつ結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという独自の見解に基づいて,Aに対してのみ,8,9月ころと死亡の前週の複数回にわたって,結婚指輪を外すよう命じていたと認められる。これらは,何ら合理的理由のない,単なる厳しい指導の範疇を超えた,いわゆるパワー・ハラスメントとも評価されるものであり,一般的に相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきである(判断基準も,心理的負荷の強い出来事として 「上司とのトラブルがあった」を上げている。 )。なお,控訴人は,指輪に関するの発言を聞いたAの反応に照らし,同人に心理的負荷を与えるような発言であったとは認められないと主張するが,出来事に対する対応の仕方は人により様々であり,明白に不快感を表明しなかったからといって,心理的負荷が軽いとは判断することができないことは言うまでもないし,前記認定のように,Aが「星の指輪」という歌を好み,カラオケで練習していたこと,Fの命令にもかかわらず,死亡の前日まで会社でも家庭でも指輪を外さず,自殺当日これを外して妻のドレッサーの小物入れに入れていったこと等からすると指輪に対する強いこだわりが見て取れるところである。
また一方,Fも,前記認定のとおり,死体確認の際 「いつも指輪をしていたよね 」と発言し,N に対して 「私の指導や指輪のことがAの死亡の原因だとすれば,私も身の振り方を考えなければいけないね 」 と話したことを認めていること等からすると,指輪のことが気に掛かっていたか,あるいは,指輪がAにとって大きな問題であることを察していたものと認められるのである。これらの事実からして,上記の控訴人の主張は採用することができない。(名古屋高等裁判所平成19年10月31日判決)
過労死事案の救済方法には、労災請求と使用者への損害賠償請求という方法があります。
死亡事案の場合、労災請求の時効は5年。使用者への損害賠償請求については10年です(民法167条2項)。死亡した日の翌日から計算します。
交通事故の場合には、事故の日の翌日から3年で時効になります(民法724条)。
過労死事案の場合、まず、労災請求をし、労災が認定された後、使用者に対し損害賠償請求をすることがあります。
労働基準監督署長が、労災と認めてくれれば、3年以内に損害賠償請求をすることもまにあいます。
しかし、労災請求をするまでに時間がかかる場合もあります。労災請求をして認められず、審査請求、再審査請求をする場合もあります。
それでも認められず、行政訴訟を提起する場合もあります。高等裁判所、または最高裁判所でようやく結論が出る場合があります。10年近くかかる場合もあります。
損害賠償請求は、労災が認定されてから行うこともよくあります。労災の手続きの結果が損害賠償請求権のありなしの参考にされるからです。
名古屋市バス事件は、行政事件で名古屋高等裁判所で勝訴し、その裁判が確定した後に、損害賠償請求を提起しています。提訴したのは、息子さんが自死したときから9年をすぎていました。
2020年4月、改正民法が施行されます。
改正民法では、民法の債権の時効は「権利を行使することができることを知ったとき」から5年で時効になると定められました。(改正民法166条)
過労死事案の死亡事案の場合、死亡した日が、「権利を行使することができることを知ったとき」になるでしょう。
日弁連編集の「実務解説 改正債権法」(2018年・弘文堂)では「ただし、とりわけ労働契約上の安全配慮義務違反や医療過誤に基づく生命・身体の侵害など債務不履行による損害賠償請求については、そのような侵害が発生して確定したことが明らかな場合は、改正前民法に比べ、そのことを知った時から5年間で時効消滅する(民法166条1項1号)点で短期化しているので注意が必要である。」とされています。安全配慮義務違反のように権利行使をできることをが明らかな場合には、時効期間がこれまでの10年から5年に変わるのです。
なお、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特例に関する規程が定められ、不法行為に基づく損害賠償請求をする場合も時効期間は5年とされました。
人の生命・身体の侵害による損害賠償請求については、債務不履行を根拠にする場合も、不法行為を根拠にする場合にも「知ったとき」から5年で時効になるとされたのです。
冒頭の述べたとおり、労災申請をしている間に5年の時効期間はすぐに来てしまいます。
損害賠償請求と労災認定訴訟を同時に提訴をしなければならないケースが多くなるかも知れません。
2020年、改正民法が施行されます。
現在の法定利率が5%から3%になります。(その後、市中金利によって変動することが予定されています)
それでは、交通事故、過労死等、被害者が亡くなったり、後遺障害を負ったりした場合にについて、使用者に損害賠償請求をすることにどのような影響があるのでしょうか。
結論からいえば、損害賠償請求額は増額になります。
その理由は、中間利息控除が減るからです。
「中間利息控除」とは、不法行為等による損害賠償において死亡被害者の逸失利益を算定するに当たり、将来得たであろう収入から運用益を控除することです。この控除の割合は法定利率(年5%)によるというのが最高裁判決です(最判平成17年6月14日)。
改正民法では、 中間利息控除も法定利率によると定められました。(改正民法 722条1項)
そうすると、控除される金額が少なくなります。
法務省のホームページにある例を紹介します。
22歳のサラリーマンが死亡した事案
※損害額算定の基礎となる数値等について、稼働可能年数は67歳と認定、生活費控除率は0.5と認定、基礎収入は賃金センサス(平成24年)の大卒男子の全年齢平均を採用、弁護士費用は1割と認定、支払時まで事故時から2年と想定 。
現在の民法を前提に計算すると損害額は約1億円程度になりますが、改正法を前提に計算すると合計約1億2000万円程度になります。
改正法を前提に計算すると逸失利益が約2100万円程度増えます。そのため、弁護士費用も100万円程度増えます。2年間の利息が200万円程度減ることになります。それでも2000万円程度、損害額が増額になります。
もともと、法定利率は、民法制定当時の市中の金利を前提としたもの でした。現在の低金利時代になり、金利が低くなっているので、裁判で利息が認められると一件通常よりも高額な利息が付き、請求している側は、得をしているように感じます。
しかし、実際には中間利息控除も、市中金利よりも高い金利で差し引かれていたのです。つまり、交通事故や過労死で死亡した遺族側が請求する損害額は、少なめに抑えられていたのです。
法定利息が変更になると、請求する側はこれまでよりも多い計算で請求できることになります。
改正前、改正後はどうやって区別するか
それでは、2019年4月現在、すでに損害賠償請求ができる場合、つまりご家族が死亡したり、自分が後遺障害を負っていて逸失利益を請求できる状態にあるひとが、2020年4月1日の民法改正が施行されるのをまって、それから請求すれば、より高額な請求が出来るのでしょうか?
施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合の遅延損害金の額は、改正前の民法における法定利率によって定められることとなります。 施行日前に損害賠償請求権が発生した場合には,中間利息の控除に用いる法定利率については,改正前の民法が適用されます。
その結果、死亡した日、負傷や病気を発症した日が、2020年3月31日の場合には、改正前の民法の適用になります。2010年4月になるを待ってから請求しても、変わらないことになります。
時間が経てば、記録が散逸したり、当事者の記憶も曖昧になり、責任を追及しにくくなる可能性があります。待っていないで、早く請求をして払ってもらう方がよいということになります。
参考 法務省ホームページ
朝日新聞記者の牧内昇平さんの著書。過労死、その仕事、命より大切ですか を読みました。
すこしだけ、協力をさせていただいたので著者の牧内さんから献本していただきました。感謝です。
お礼をかねて、本の紹介をします。
この本では11の事例が紹介されています。
それぞれの事例は、新聞記者である牧内さんの視点から紹介されています。
弁護士の視点では気がつかない、遺族の言葉。気持ち。過労死,過労自殺を生み出す社会の問題点を具体的に指摘しています。
コラムや、事例の紹介の間に、過労死、過労自殺の労災の仕組みなどにも触れ、全体として過労死の問題を網羅的に知ることもできます。過労死の問題にとどまらず、固定残業代など労働一般に関する問題にも触れられています。
新聞記者の書いた文書ですので分かりやすい。
しかも、NHK記者の過労死の記事などは、自分の労働にも引きつけて感想ものべられていて親しみやすい内容にもなっています。
パワハラの加害者や、過労死を興した企業に対する取材もしており、その内容も紹介するなど踏み込んだ内容にもなっています。
とりあげられた事例の中には、労災と認められなかった事案も含まれていました。
行政訴訟の1審で勝訴しながら、高裁で逆転敗訴し、最高裁でも認められず、損害賠償請求訴訟でも敗訴だったという事例。本当に、苦労されたし、無念だったと思います。
労災と認定される事例は紹介されますが、労災と認められない残念な事例は、なかなか紹介されません。しかし、認められない事例こそ、過労死問題の問題点を示しているといえます。このような、事件報道では取り上げられることが少ない事例を取り上げて紹介していることも意義を感じます。
また、和解した事例もとりあげられています。和解の事案は、判決文が作成されないので、判例集などにも載らず、事案の経過が知られない場合もあります。そういう意味で和解の内容やそこに至る経過を取材し、本になるのは、記録としても貴重なものといえます。
個人的には、岐阜県庁の事件では、いつもご遺族を励まし、支え、証拠を集めて戦ってくださった岐阜県職員組合の内記淳司さんが紹介されていることが嬉しかったです。私も大変お世話になりました。
この本を作成するためには膨大な取材が必要だったでしょう。家族は様々な事情で、皆が取材に応じられるわけではありません。大変な苦労があったと思います。
ぜひ、これを読んで過労死、過労自殺の問題を知ってもらいたいと思います。
ご自身が、過労で病気したり、ご家族が過労で死亡したりした場合にも、参考になることがたくさん載っています。そういう方の元にも届くといいと思います。
多くの人に手に取ってもらいたい本です。
愛知学院大学法務支援センター教授として、中部大学の法律カフェの講師をしてきました。
題して「これってブラックバイト?」
中部大学の学生さんと一緒に、ブラックバイトの問題をとうして法律を学ぶ、という企画です。
中部大学のコモンズセンターの法律カフェ。わたしも2回目の登場です。
愛知学院大学の田中淳子先生が、事例を作ってくださり、それを学生さんと一緒に考えました。
また、事前にいただいた質問にわたしが、実務家、弁護士として回答しました。
学生さんからいただいた質問はこちらの壁。
法律問題からそうでないものまで。
今の学生さんのかかえているアルバイトの悩みがわかって、こちらも勉強になりました。
相談窓口として
というのもあります。
困ったら相談しましょう。
11月17日、私が所属する愛知学院大学法務支援センター(旧法科大学院)と、早稲田大学大学院法務研究科の連携事業として、早稲田大学大学院法務研究科の菅原郁夫教授をお迎えして、「法律相談のための面接技法」というセミナーを行いました。
今日は、若手の弁護士に、摸擬法律相談を行ってもらい、その実施した内容について摸擬相談者の感想を聞きながら、相談の技法を学ぶというものでした。
医師の世界でも、診療の面冊技法を学ぶカリキュラムがあり、今日の摸擬相談もそれを応用したものだとのこと。
2016年民事訴訟利用者調査によれば、弁護真の満足度を判断するのに重要だった要素は
1 言い分を十分に聞いてくれたと思う
2 信頼できる人物だと思った
3 熱心に弁護士してくれたと思う
だそうです。
私たち弁護士は、依頼者の希望する法的サービスを提供することが、満足につながると思ってきましたが、そのまえに話をよく聞く、信頼をしてもらうことが大切だと、あらためて知らされました。
法律相談で、専門的な知識や判断を提供することはもちろんですが、私たち弁護士が相談者に満足できる相談を提供したいとおもいます。
(写真は、本日のセミナーのひとコマ)
2013年の調査、全国928人の調査のうち法律問題で弁護士に接触した70人の回答。弁護士へのアクセス経路の実際は、テレビコマーシャルやインターネットは少なく、また弁護士会の法律相談センターや電話帳などもあまり多くない。親戚、知人の紹介が37.1パーセント。これにもとから知っていた、会社の顧問弁護士、職場での紹介など何らかの紹介でアクセスした合計が72.9パーセント。
弁護士へのアクセスは口コミがまだまだ大きな割合を占めているようです。
2018年11月14日 過労死等防止対策推進シンポジウム 岐阜会場が開催されました。
内容はプログラムにあるとおりです。
私も労働局のお話しのあと、安全配慮義務違反についてお話をしました。
労働判例を掲載している月2回発行の「労働判例」という雑誌。
私も定期購読しています。
このたび労働判例の2018年11月1日号 1185号の巻頭の「遊筆」の欄に、私のコメントが掲載されました。「過労死等の認定基準の改定を」と題し、まさに過労死等の認定基準の改定をもとめる内容のコメントです。
11月は、過労死等防止対策推進法に基づく過労死防止月間。その月間を踏まえてのコメント、ということと、今年過労死弁護団全国連絡会議発足から30周年。そのような節目のときに「労働判例」に過労死弁護団の立場からコメントさせていただきした。
■人権大会とは
日弁連は、弁護士の使命に基づき、人権問題の調査・研究、人権思想の高揚に資するため、毎年1回、東京都以外の地で人権擁護大会を開催しています。大会では、日弁連の人権擁護活動の報告、人権問題に関する宣言・決議が採択されています。
また、大会にあわせて、毎回多数の弁護士、市民の参加を得て、重要な人権問題をテーマにシンポジウムが開催されています。〔日弁連ホームページより)
略して「人権大会」といわれています。
今年は10月4日、5日と青森県青森市で第61回の大会が行われました。
■今年のテーマ
第1分科会
「外国人労働者100万人時代」の日本の未来
~人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化共生社会の確立を目指して~
第2分科会
組織犯罪からの被害回復
~特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に~
第3分科会
日本の社会保障の崩壊と再生-若者に未来を-
の三つのテーマでシンポが行われ、行われました。
■第3分科会に出席
私は、第3分科会に出席しました。
内容は、極簡単に要約すると、現在の社会保障の中で若者は行きづらさを感じている。
大学進学すると経済的に苦しく、奨学金を借りたり、アルバイトをしなければならない学生が多数い
る。ブラックバイトであったりすることもある。
そうすると、大学の選択、就職先の選択も、失敗することは許されないと感じる。
就職してもブラック企業といわれる企業も存在する。いつも「自己責任」が問われる。
過労死、過労自殺もこのような社会の仕組みの中で減っていかない。
諸外国に目を向けると、若者が、希望を持って社会に向かう気持ちで生活できる国がある。
学費を無償化する。医療、介護の無償化。生活保護の充実。同一労働同一賃金の実現。
出産、育児、失業に対する給付の充実。最低賃金の総額。住宅環境の整備。
これらを社会保障として充実させることで、若者とこれを支える親の世代の上記に対する負担を減ら
し一方でこれにふさわしい財源の確保をすることができるのではないか。そうすることにより、希望を
持って大人になり、生き生きと働き、そしてさらに若者のために社会を支えていく。こんな社会の仕組み
を作ることができれば、若者の生きづらさが解消できるのではないか。
こんな提案をするシンポジウムとそして決議でした。
■感想
今の若者を全体としてみると昔とずいぶん変わっていると改めて考えさせられました。また、どんな制度も そうですが、社会の仕組み、デザインはとても大事で、それによって大きく人の行動は変わっていくことを考えさせられました。良くない社会の仕組みは、そんなかでうまく頑張れる人がいても、多くの人が苦しむ結果になってしまいます。それはよくありません。どの様な精度がいいのかはこれからも色々議論していく必要があります。
■弁護士の使命
弁護士法第1条には次のような定めがあります。
第一条
1 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。
人権擁護大会は、この弁護士の使命に基づき、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力するために行われています。昨年は欠席してしまいましたが、人権大会に出席することは、弁護士法1条の精神を自覚することができる大切な行事であると実感しました。
岩井羊一法律事務所は、2013年(平成25年)10月1日に開設しました。
今年満5周年を迎えました。
この間、過労死事件、すなわち過労死等(過労死、過労自殺、脳・心臓疾患、精神疾患)で亡くなったり、仕事ができなくなったりした方の救済することを中心に弁護士活動をしてきました。
事務所を設立してからの5年間、過労死を巡り大きな動きがありました。
2014年6月には、過労死等防止対策推進法が成立し11月に施行されました。
11月の啓発シンポ。そして、学校への啓発事業等、過労死弁護団が対外的にも役割を持つようになりました。今年の11月は4回目です。
「過労死」が法律で定義され、国がその言葉を使うようになりました。
2016年には、電通の女性の新入社員の自殺事件が大きな社会問題として注目を浴びました。これを契機に働き方改革が叫ばれるようになりました。労災認定、会社の謝罪にとどまらず、刑事事件にも発展しました。
2018年、大変不十分な働き方改革関連の法が成立しました。
2018年、過労死弁護団全国連絡会議は丸30周年。
過労死等の認定基準について改定の意見書を作成し、厚生労働省に提出しました。
ここからは個人的なことを少し紹介します。この間、いくつか勝訴判決を得ました。すでにホームページで紹介していますが、以下がこの間に得た判決です。
2014年1月25日、名古屋地方裁判所で過労自殺事件の損害賠償請求事件で勝訴。
2016年4月21日、名古屋高裁でバスの運転士の自殺事件で逆転勝訴。
2015年11月18日、名古屋地裁で、うつ病の悪化に業務起因性を認める自殺事件での勝訴判決。
2016年12月1日に高裁もそれを維持。
2017年2月23日、名古屋高裁でトヨタ系列会社の過労死事件で逆転勝訴。
2016年12月22日、岐阜地裁で、岐阜市職員の自殺事件の公務災害を認める勝訴判決。2017年7月6日これを維持する判決。
もちろん、これらの判決はいずれも弁護団事件で、他の弁護団の活動によるところも多いのです。いずれも家族をなくした不幸な事件でしたが、仕事が原因であることが認められました。
この間、公益法人愛知県労働協会の労働法講座で講師をしたり、講演会を担当させていただく機会もいただきました。
精神障害の労災認定件数は、毎年増加傾向にあります。脳・心臓疾患の労災認定件数も横ばいで減少傾向にあるとはいえません。
途中で請求を断念した事件もありました。認められなかった事件もありました。
そう言った事件を含めて、多くの遺族が勇気を出して立ち上がったことが、企業に対し、責任を認めさせることにつながり、過労死等の防止につながっています。
それでも過労死等が増加傾向にあるのは残念です。
つい先日も三菱電機では、「過去5年間に長時間労働などが原因で精神障害や脳疾患を起こし、2014~2017年に労災認定された男性社員5人のうち、3人に『裁量労働制』が適用され、1人は過労自殺していたことがわかった。」との報道がありました。
これからも、過労死等の問題を中心に、過労死等の被害者の救済と過労死等の予防をするために活動していきます。
毎年11月は過労死等防止月間です。
厚生労働省主催で過労死等防止対策推進シンポジウムが全国で行われます。
愛知会場は2018年11月20日火曜日午後です。
場所は名古屋国際センター別棟ホール
名古屋駅から地下道を歩いて行くことできます。
地下鉄桜通線で国際センター駅からならば直結しています。雨でも濡れずに会場まで行けるということ。
今年は長時間労働の防止を真剣に議論します。
特に、会社の人事担当、労務管理するかた、社長さん、管理職の方に聞いてもらいたい内容です。
申し込みや下記のwebから。
厚生労働省から、平成26年度から平成29年度の脳・心臓疾患及び精神障害のうち裁量労働制対象者に係る決定及び支給決定件数(平成26年度~平成29年度)が発表されている。
平成26年から平成29年の認定件数の変化を見ると
脳心臓疾患では7件、3件、1件、4件となっている。
うち死亡は 1件、3件、0件、2件となっている。
精神疾患では、7件、8件、1件、10件となっている。
うち自殺、自殺未遂は1件、2件、0件、5件となっている。
平成29年度は、裁量労働制として働いていたが法定件数を満たしていない事業も含めて集計したとのことである。
認定件数は多くても全国10件程度であり、傾向はこれだけではわからない。
ただ、平成29年度の認定件数が増加し、自殺者数も増えていることは気になる。
これが、今後同じ傾向で進むとしたら、裁量労働制が濫用の危険があるということの証拠になる可能性もある。
今後もこの推移を見ていく必要がある。
※裁量労働制とは→厚生労働省のホームページ 裁量労働制の概要
2018年6月29日、働き方改革関連法案が成立した。
その中でも問題なのは「高プロ」
高収入の専門職を労働時間規制から外すことができるというものです。
年収1075万円以上。本人同意などが要件になっています。
しかし、そもそも「労働時間規制」から外す仕事をを設ける理由は全くありません。働き過ぎを規制する方法を放棄した制度です。
今日の新聞で髙橋まつりさんのお母さんについてつぎのとおり報道されました。
「残念という気持ちと絶望。心の中で『まつり、これが日本の姿なんだよ』と、つぶやきました。」「私は娘を守れなかった。間違った法律を作らせないことが、私の責任だと思って」。祭りさんの遺影を抱えたまま目に浮かべ、議場をじっと見つめた。(2018年6月30日 中日新聞 朝刊)
労働時間を規制しない労働制度ができることになってしまいました。
残業0法。この制度で過労死が増えることをが懸念しされます。
この制度を悪用されないように利用されないように、これから注視していく必要があります。
平成29年9月8日付で厚生労働大臣から労働政策審議会に諮問のあった「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(以下「働き方改革推進法案要綱」又は「法律案要綱」)について、同年9月15日に労働政策審議会は「概ね妥当と認める」答申をした。
ただし、労働条件分科会の報告においては、労働者代表委員から、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大と高度プロフェッショナル制度に対する反対意見が付された。
この法律要綱案には、裁量労働制の範囲拡大と高度プロフェッショナル制度が含まれていた。
裁量労働制の拡大については今回法案にもりこまれなかったが、高度プロフェッショナル制度は法案の中に盛り込まれた。
そして、ついに平成30年4月これらが閣議決定された。
高度プロフェッショナル制度の問題については、日本労働弁護団が、すでに詳細な意見書を発表している。
http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2017/11/a5bd7381d07420555fc5d0c973133bd6.pdf
高プロとは、導入要件が満たされると、対象労働者に対しては労働時間規制の 一部が適用除外となるため、1日8時間・週40時間の規制、休憩時間の 規制、時間外労働・休日・深夜も含めた割増賃金の規制など、全ての労働 時間規制が適用除外となる制度である。
本来、労働時間規制および割増賃金は、長時間労働を抑制する目的を有し ている。その足枷が外れれば、際限なき長時間労働となってしまう。
色々説明がなされているが、規制を外せばその労働者の中には絶対に長時間労働をする労働者が発生する。だからおかしな制度だし、そのような制度を導入してはならない。
これについて、4月7日の各紙の社説が意見を述べている。
中日新聞 東京新聞
「高プロは法案に盛り込まれた。野党から「スーパー裁量労働制」だと批判もでている。法案は国会論議を通し再考すべきだ。
残業時間の上限規制など働く人を守る規制強化と、官邸主導で進めてきた規制緩和を同時に進めることは矛盾する。多くの人は仕事への強い責任感がある。そこにつけこんだような制度をつくり働かせていいはずがない。制度のありようは、働く人の命にかかわると政府は自覚すべきだ。」
と、明確に反対している。
朝日新聞
「だが法案には、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の新設も盛り込まれた。
長時間労働を助長しかねないと、多くの懸念や不安の声がある制度だ。緊急性の高い政策と抱き合わせで拙速に進めることは許されない。切り離して、働き過ぎを防ぐ手立てや制度の悪用を防ぐ方策を、しっかり議論するべきである。政府・与党に再考を求める。」
「野党は、働く人々を守る規制の強化に重点を置いた、働き方改革の対案を準備している。高プロを関連法案から切り離せば、与野党が歩み寄り、話し合う余地は生まれるはずである。
だれのための働き方改革か。政府・与党はそのことを考えるべきだ。」
朝日新聞も高プロには反対している。
毎日新聞
「働き方改革を閣議決定 残業時間の規制が原点だ」と題している。
その社説の中には、
「労働時間よりも独創性によって労働の価値が決まる仕事の場合は、高プロや裁量労働制について議論する意義はある。」
と裁量労働制や高プロに「意議がある。」としてしまっている。これは残念である。
日本労働弁護団は、高プロについて次のように指摘している。
「現在、多くの企業では、月額賃金がほぼ固定された月給制がとられており、 高度プロフェッショナル制度の適用を受けたとしても、それらの賃金制度が 変わる保障はない。一方、現行法上も成果型賃金制度や、労働者を所定労働 時間よりも早く帰して賃金減額をしない制度の導入は可能である。 あたかも高度プロフェッショナル制度の導入により成果型賃金制度が実現 できるかのような虚偽の宣伝・報道が繰り返されていることは極めて問題で ある。」
労働時間より独創性によって労働の価値が決まる仕事があったとしても、高プロや裁量労働制でそのようなことを評価する賃金体系にはならない。そのことをこの社説は理解していない。
毎日新聞の社説も
「しかし、現実には残業代を抑えるため、裁量労働を適用できない人に適用して長時間労働をさせることが横行している。」
として、弊害があることは、認めている。しかし、高プロは、制度自体に問題がある。もっと明確に論じてほしい。
読売新聞の社説(4月15日時点ではすでに公開されていない。)は、
「働き方改革 国民の不信感払拭に努めよ」という表題で
「新制度は、一定の職種について、賃金と労働時間を切り離し、成果で評価するものだ。仕事の多様化に対応し、効率的な働き方を促す狙いは、時宜にかなっている。」として、高プロを評価し、法案成立を求めている。表題にあるように、不信感だけが問題とされている。
高プロの問題点を正確に伝えていない。
日経新聞の社説は「 働き方改革法案を今国会で成立させよ」と題して、法案成立を求めている。
この社説は、裁量労働制について「仕事の時間配分を本人にゆだねる裁量労働制の対象拡大が調査データ不備で先送りされたのは残念だが、法案が成立すれば、米欧に比べ見劣りする日本の生産性を高める効果は大きい。」としてる。
また、高プロについて「野党は高度プロフェッショナル制度について「残業代ゼロ」制度と批判を強め、その創設を裁量労働制の対象拡大に続いて法案から削除するよう要求している。だが、生産性の向上を促す新制度を企業が使えなければ、日本の国際競争力が落ちる恐れがある。それでは従業員も不幸になる。政府は新制度創設を含めての法制化をあくまで貫くべきだ。」としている。
しかし、現在法案となっている高プロは、対象労働者の年収要件が労働者の平均年間給与額 の3倍であり、およそ1075万円であると説明されている。この条件に当てはまる労働者がどれほどいるのか、それが国際競争力に影響があるほどの生産性を高める改革になるとはおもえない。
つまり、日経は、いったん導入したあと、その適用範囲を広げ、残業を払わないで安価に働かせる労働力を確保して国際強労力をたかめるべきだと、そのようにはっきり意見を述べているのである。
とても、賛成しがたい。
それぞれの 新聞社が、意見を明確にし、議論の材料を提供するのはよいことである。しかし前提となる事実を正確に報じてこそである。けっして多数の意見だから、与党の意見だからといって、法案が正しいわけではない。
高プロは、裁量労働制よりもさらに長時間労働を招く危険な制度である。絶対に成立させるべきではない。
2018年3月7日、名古屋高裁民事第4部(8藤山雅行裁判長)はノーモア・ヒバクシャ愛知訴訟の長崎の原爆被爆者2名に逆転勝訴の判決を言い渡しました。
ノーモア・ヒバクシャ訴訟は、被爆者援護法の原爆症であるとの認定を求めた4人の原告がいました。
名古屋地方裁判所は、4人の原告がいずれも放射線に起因する病気であったと認めました。そして、そのうちの2名は、原爆症のもう一つの要件である医療の必要性も認め、被爆者援護法の対象と認めました。控訴した被爆者2人の申請疾病については、いずれも放射線起因性を認めながらも、要医療性について否定していました。
2名は経過観察のために通院しているだけでは「医療」が必要だとはいえないとしたのです。
名古屋高裁判決は、要医療性について、「被爆者援護法の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷または疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当である」としました。
これは、被爆者を救済するという被爆者援護法の趣旨に合致した解釈であり、要医療性を狭くとらえている国の運用を厳しく批判したものです。
原告のお二人は高齢です。この判決が上告されれば、さらに確定が遅れることになります。
いま、支援の皆さんは上告するなの声を国に届けようと運動しています。
よろしければご協力ください。
https://drive.google.com/file/d/1d33BRUi1p1pjyFDFU5AT-y3IWI4z0mX8/view?usp=sharing
12月8日金曜日、愛知県弁護士会紛争解決センターは、20周年記念行事として、名古屋市ともともに、シンポジウムを行いました。
もしもあなたが大災害にあったら~災害時のトラブル解決~
災害が生じたときにも、弁護士会が話し合いのあっせんをし、トラブルを解決する方法について、市民の皆さんに紹介しました。
シンポジウムでは名古屋市防災危機管理局地域防災室の加藤誠司室長から、名古屋市で大地震、水害があったときにいったいどのくらいの地域がとくに危険なのか。その際、どのような備えが必要なのか、詳細な説明がありました。名古屋城から熱田神宮までの熱田台地とよばれる台地があるが、その西側が特に危険であるが、東側には断層もあり、直下型地震の危険があるとのこと。じっくり聞いて、危険は日常から予想し、想定しておくことが必要だと感じました。
私は、愛知県弁護士会の災害ADRの仕組みを紹介させていただきました。
後半は、兵庫県弁護士会の津久井進む弁護士、仙台弁護士会の斉藤睦男弁護士、熊本県弁護士会の阪本秀德弁護士をパネリストとしてパネルディスカッションを行いました。
改めて、阪神淡路大震災、東日本大震災、そして熊本地震のそれぞれの大地震の大きさ、被害の重大さを、写真、データ、エピソードをふまえて紹介してもらいました。食料が買えなくなくなる、コンビニに食料が入荷されてもすぐに売り切れになる。移動するのに大渋滞になる。ガソリンを入れるにも行列になる。避難生活の疲労。などなど、テレビで断片的な情報を見るだけは分からないことをお話しいただきました。体験した方に話を聞くことで、災害の被害の大きさを再認識させられました。
そして、それぞれの地域の弁護士が、地震が来るとはおもわなかった.地震はいつでもどこでも起こるということを実感した、と話しました。愛知県は大きな地震が来ると言われています。しかし、そのことをもっともっとこころの備え、そして具体的な備えとして準備しておく必要があると感じました。
東日本、熊本では、弁護士会が、震災によるトラブルについて解決する震災ADRをすぐに立ち上げ、多くの事件を解決してきたという経験が披露されました。弁護士は、復興のために建物も直せない、怪我も治せない、弁護士ができることは人と人との関係を復興させることができる、という言葉になるほどと思わされました。
愛知県弁護士会は、民間の紛争解決手段である紛争解決センターを運用して多くの申立て実績を上げています。災害が発生したときにも市民の役に立つことができるように、充実した運営に努めたいとおもいます
2017年11月17日、日本弁護士連合会 第14回国選弁護シンポジウムに参加した。
ここでは、これまでの国選弁護制度の歴史と、そして今の課題について議論した。
ここで報告された国選弁護の経過について、あらためて振り返りたい。
1 死刑4再審事件と「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である。」との指摘
1979年,6月に財田川事件,9月に免田事件,12月に松山事件と3つの死刑事件の再審開始決定がされた。1983年12月に免田事件が無罪判決,1984年3月に財田川事件,1984年7月に松山事件の無罪判決がなされた。
相次いで死刑事件の再審決定,無罪判決がなされた中,1985年,平野龍一博士は,「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である。」と述べた(「現行刑事訴訟の診断」(団藤古稀祝賀論文第4巻,有斐閣,1985年出版)。
当時は、起訴されるまで、国選弁護人がつけられることがなく、弁護士を依頼しないまま取り調べが行われるのが通常だった。それがうその自白やえん罪の温床だと言われた。
その後,1986年9月には島田事件の(死刑事件)の再審開始決定がされ,1989年に無罪判決がされた。
2 国選弁護シンポジウム,司法シンポジウム,そして松江の人権擁護大会
島田事件の再審開始決定がなされた翌年、1987年第1回国選弁護シンポジウムが開催された。
さらにその2年後、1989年9月の松江市の人権擁護大会において,日弁連派「当連合会は国民の人権擁護という弁護士の基本的責務を果たすべく,国民とともに,叡智を結集し,現在の刑事手続を抜本的に見直し,刑事弁護の一層の充実強化をはかるための機構を設置するなど,あるべき刑事手続の実現に向けて全力をあげてとりくむものである。」と宣言した。
3 日弁連刑事弁護センターの発足
1990年4月に日弁連は,日弁連刑事弁護センターを発足させた。同センターの重点課題の第1として起訴前の弁護体制の強化が確認された。具体的にはイギリスの当番弁護士制度に学び,日本でも創設しようというものであった。そして,全国の可能な地域でこれを実現していこうというものであった。
4 当番弁護士制度の発足
1990年,大分県弁護士会,福岡県弁護士会で始まった当番弁護士制度は,燎原の火のごとく瞬く間に全国に広がり,1992年には,全国52の全ての弁護士会で実施されるに至った。
5 司法制度改革審議会の意見書
司法制度改革審議会は,2001年6月の最終意見書において「被疑者に対する公的弁護制度を導入し,被疑者段階と被告人段階を通じ一貫した弁護体制を整備すべきである。」と明記した。
6 司法制度改革推進本部公的弁護制度検討会
この意見を受けて同年12月,内閣に司法制度改革推進本部が設置され,被疑者段階も含む公的弁護制度の具体化に向けた審議が開始された。
勾留段階から,段階的に被疑者国選弁護制度が実施されることとなった。
2004年6月には,刑訴法が改正され,被疑者段階も含む国選弁護制度が創設されることとなった。
7 被疑者国選弁護制度の段階的実施
2006年10月には,短期1年以上の法定合議事件等(第一段階)で,被疑者国選弁護制度が実施された。
2009年5月には,対象事件がいわゆる必要的弁護事件(第二段階)にまで拡大された。
8 勾留された全ての被疑者を対象とする国選弁護制度
2011年,法制審議会に新時代の刑事司法制度特別部会が設置された。この部会は2014年7月の部会案において勾留された全ての被疑者を対象とする国選弁護制度が取りまとめ,同年9月には,法制審議会が,この内容を法務大臣に答申をした。
2016年6月,刑訴法が改正され,国選弁護制度の対象が,全ての勾留事件に拡大されることになった。2018年6月までに施行されることとなった。
えん罪が明らかに「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である。」といわれた刑事司法について、私たちの先輩弁護士が当番弁護士制度をつくり、そして、勾留されたすべての被疑者について、2018年6月までには、国選弁護人がつけられる制度が完成することになったのである。
今回、国選弁護シンポジウムでは、逮捕段階についても国選弁護人がつけられる制度を求めて、さらなる弁護実践の展開と、制度についての議論をした。
私は、実行委員としてこのシンポジウムの実行委員会に参加して準備をした。
弁護士になったときには被疑者国選制度があった世代の弁護士にも刑事司法の変化をしり、ぜひさらなる発展にむけて一緒に活動したい。
2017年11月13日、過労死等防止対策推進シンポシンポジウム 岐阜会場 が行われました。
岐阜では、
労働局 労働基準部 監督課の佐藤健二課長のご挨拶
岐阜市で自殺をした公園整備課長の配偶者であった伊藤左紀子さんの報告
この自殺を受けた岐阜市の取組を、岐阜市の杉原太課長の報告
私の、地方自治体の過労死防止の取組として豊川市の例の報告
医師櫻沢博文氏の「職場のメンタルヘルス対策」講演
過労死遺族の吉田典子さんのお話し「私の陽介はどうして死んでしまったの?」
が行われた。
約110人の参加で盛況でした。
平日の昼間という時間帯であったがこれほど多くの方が集まったところにこの問題の関心の高さが伺えました。
岐阜市の過労死等防止に関する取組については、岐阜市がホームページで公開しています。
http://www.city.gifu.lg.jp/31020.htm
そこには、「平成29年7月、元市職員の自死が、強い精神的負荷に起因する公務災害と認定されたことを受け、二度とこのような事案が発生しないよう市をあげて再発防止に取り組んでいきます。」との記載があり、過労死等防止の取組が職員の自死について、公務災害と認定されたことが契機であることが明記されています。
そして、「特に元職員の命日(11月26日)を含む後半の2週間を「岐阜市過労死等防止強化週間」と位置付け、様々な取組を実施」とわざわざ記載して取組をすることとしています。
岐阜の報告があった後、私から、その前の豊川市の過労死等防止対策の取組について紹介しました。
豊川市はパワーハラスメント防止対策についてホームページで公開しています。
http://www.city.toyokawa.lg.jp/shisei/jinnjishokuinsaiyo/kenshu/komugaisaigai.html
そこでは、「平成24年2月22日に、元市職員に係る公務外災害認定処分取消請求事件について、最高裁判所は、地方公務員災害補償基金側の上告を棄却し、難度が高くトラブルが発生していた公務の状況と上司によるパワーハラスメントの心理的負荷に起因する公務災害と認めた名古屋高裁判決が確定しました。
この判決を受けまして、豊川市としてパワーハラスメント再発防止の取組を下記のとおり実施しています。」
と記載されています。
豊川市は、この内容を当時広報誌にも掲載して市民に公開しています。
ハインリッヒの法則について次のような記載がありました。
「アメリカのハインリッヒ氏が労災事故の発生確率を調査したもので、「1:29:300の法則」ともいわれる。これは、1件の重症事故の背景には、29件の軽症の事故と,300件の傷害にいたらない事故(ニアミス)があるという経験則。また、その背景には、数千、数万の危険な行為が潜んでいたともいう。つまり、事故の背景には必ず多くの前触れがあるということ。(以下略)」(出典:ナビゲート)
「事故の発生に関する経験則。1件の重大事故の背後に、29件の軽微な事故があり、さらに300件の事故につながりかねない、いわゆる「ヒヤリ・ハット」の事象があるとするもの。交通事故、航空事故、医療事故などの分野で,同種の経験則に基づく安全対策が行われている。1929年、米国の損害保険会社のハーバート=ハインリッヒが提唱。」(出典:デジタル大辞泉)
ここでいう労災事故は、例えば機械に巻き込まれて重症を負ったなど事故のことだと考えられます。過労死、過労自殺などについては、軽症の事故、傷害に至らない事故を数えることが難しく、1:29:300なのかどうか実際に分からないと思います。また、そのような研究もなされていないと思います。
しかし、一件の過労死、過労自殺の背景には、多くの長時間労働をしている労働者、パワハラ等のハラスメントを受けて、死に至らないけれども体調を崩したり,体調までは崩さないけれども、大変な思いをしている労働者がいると考えることはできそうです。そして、その背後には、長時間労働、厳しい指導があり、過労死ラインをこす危険がある職場があるということもいえるはずです。
そうだとすれば、いわゆる過労死ラインに至らないような時間外労働や、パワハラとはっきり言えない指導についても、事業主は、問題が大きくならないように、解決しておく必要があるといえます。
現実は、労働については、法律の規制をまもっていれば問題にならない。そこまでは、企業の効率化のためになんとか時間外労働をさせたい、厳しく指導させたいというのが実態のように思えます。
ヒヤリ・ハットの防止をする対策のために長時間労働をしているのであれば、本末転倒です。
長時間労働、パワーハラスメントのほか配転などの仕事の変わり目、休日労働がつづいて休みのない連続勤務等を漫然と行わせることが、過労死、過労自殺の危険に変わりうることを各企業が認めて、対策をして欲しいと思います。
11月は、過労死等防止対策推進法で定められた啓発月間です。職場の状況を見直すことで過労死、過労自殺の防止を考えてほしいと思います。
過労死弁護団全国連絡会議は、2017年7月11日、厚生労働省あてに、認定基準の,精神障害の悪化の業務起因性の改定を求める意見書を提出しました。(過労死110番 ホームページ参照)
この意見書は、 現在の認定基準が「特別な出来事」に該当する出来事がなければ、対象疾病が悪化し た場合に業務上の疾病とは扱われないことになっていることについて、「特別な出来事」に該当する出来事がない場合には、一切業務起因性が否定されるのは不合理であるとして改定を求めるものです。
この意見書は、アピコ関連事件・名古屋地裁平成27年11月18日判決、これを不服として国が控訴した同事件・名古屋高等裁判所平成28年12月1日判決をもとにしています。
いずれも当職らが原告代理人として関わった訴訟です。
国は、上記高裁判決に上告受理申立をしませんでした。
厚生労働省は、速やかに認定基準を改定し、認定の在り方を考えなおすべきです。
以下全文を掲載します。
意見書
厚生労働大臣 塩 崎 恭 久 殿
過労死弁護団全国連絡会議
代表幹事 弁護士 岡 村 親 宜
代表幹事 同 水 野 幹 男
代表幹事 同 松 丸 正
幹事長 同 川 人 博
平成29年7月11日
心理的負荷による精神障害の認定基準(基発1226第1号 平成23年12月26 日)「第5 精神障害の悪化の業務起因性」の改定を求める意見書を、下記のとおり、提出する。
記
第1 意見の趣旨
心理的負荷による精神障害の認定基準(基発1226第1号 平成23年12月26日)(以下「認定基準」という。)「第5」につき、
「精神障害の悪化の業務起因性」を認める要件として、「特別の出来事」を要するとしている内容を改め、精神障害の悪化前に業務による強い心理的負荷が認められれば、悪化につき業務起因性を認めることとするよう、改正を求める。
第2 意見の理由
1 現在の認定基準が不合理であり、憲法、法律の趣旨に反する
現在の認定基準は「特別な出来事」に該当する出来事がなければ、対象疾病が悪化した場合に業務上の疾病とは扱われないことになっている。
しかし、労災認定で問題になっている事案では、「特別な出来事」に該当する出来事がない場合でも、発病について業務起因性が認められるような強い心理的負荷を受け、その結果精神障害が悪化した場合もある。発病したら業務上と認定できるほどの強い心理的負荷があって、精神疾患が悪化した場合に、発病した後であったからといって業務起因性が否定されるのは不合理である。
そもそも、現行の精神障害に関する労災認定基準が、一方で、精神障害を発病していない労働者に対して、「強」の業務上心理的負荷が加わって精神障害が発病した場合には、業務起因性を肯定し労災保険金を給付するとしながら、他方で、精神障害を発病している労働者に対して、同様の「強」の業務上の心理的負荷が加わって精神障害が悪化した場合には、業務起因性を否定し労災保険金を給付しないとしていることは、憲法14条1項、憲法27条、及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)第7条の趣旨に反している。
すなわち、憲法第14条1項は、すべて国民は、法の下に平等であって、社会的身分等により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない旨規定している。上記認定基準の上記該当部分は、精神障害を有することを理由にして、労災保険給付という経済的・社会的関係において、差別を行うことを意味しており、憲法の同条項に違反する内容となっている。
また、憲法27条1項は、「すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ」と定めている。豊橋労基署長(マツヤデンキ事件)・名古屋高裁平成22年4月16日判決は、「労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけではなく、身体に障害を抱えている労働者もいるわけであるから、仮に、被控訴人の主張が、身体障害者である労働者が遭遇する災害についての業務起因性の判断の基準においても、常に平均的労働者が基準となるというものであれば、その主張は相当とはいえない。このことは、憲法27条1項が『すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負ふ。』と定め、国が身体障害者雇用促進法等により身体障害者の就労を積極的に援助し、企業もその協力を求められている時代にあっては一層明らかというべきである。」と判示し、身体障害者について本人を基準に業務過重性の判断をすると明示した。この判決は、労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけでないから、これを考慮しない労災の認定基準は憲法27条1項の趣旨に照らして相当でない旨判示しているのである。 労働者の中には「精神障害を発病している労働者」もいるのであるから、その者に平均的労働者であれば精神疾患を発病するような「強」の業務上の心理的負荷が加わった場合にも業務上と認めず、労災給付金を給付しないのであれば、このような者が労災補償を受けることができないことを前提に勤務しなければならず、憲法27条1項に照らして問題である。
さらに、憲法27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定し、労働条件について法律で基準を設定することを要請している。「精神障害を発病している労働者」にほとんど労災の給付をしないというのであれば、勤労条件の法定を定めた憲法27条2項の趣旨にも違反する。
さらに、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)第7条は、「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と規定している。同条の趣旨からすれば、障害者の範囲は幅広く解すべきであり、上記認定基準の上記該当部分は、この法律の趣旨にも違反している。
このように現行認定基準が、精神障害の悪化の業務起因性が認められる場合を「特別な出来事」があった場合にのみ限定し、「強」の心理的負荷が認められても、精神障害の悪化の業務起因性を否定することは、憲法14条1項、憲法27条、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の趣旨に違反するものである。
2 現在の認定基準には合理性がない、という判決が確定していること
アピコ関連事件・名古屋地裁平成27年11月18日判決は、「前記認定基準によれ ば、健常者であれば、(「特別な出来事」以外の)精神障害の発症及びそれによる死亡の危険性が認められるような心理的負荷の強度が「強」と認められる出来事があった場合には、業務起因性が認められることになるのに対し、既に精神障害を発症している者については、発症後、死亡前6か月の間に同様の心理的負荷が生じる出来事があっても、既に精神障害を発症しているという一事をもって業務起因性は否定されることになる。しかし、このような判断が精神科医等の専門家の間で広く受け入れられている医学的知見であるとは認められず(甲B38の1・5~9頁(引用者注:判決が引用している 証拠は第5回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会議事録の後半部分である。)、既に精神障害を発症している者に、健常者でさえ精神障害を発症するような心理的負荷の強度が「強」と認められる出来事があった場合であっても、『特別な出来事』がなければ一律に業務起因性を否定するということには合理性がないというべきである。」と判示し、認定基準を批判している。
これを不服として国が控訴した同事件・名古屋高等裁判所平成28年12月1日判決は、「認定基準は、上記別表(認定基準の別表1〔業務による心理的負荷表〕)に掲げられ客観化された各出来事のうち『特別な出来事』に該当する出来事がない場合でも(略)その心理的負荷の評価が『強』と判断される場合を, 労働者に生じた精神障害を業務上の疾病として扱う要件の一つとしている(証拠)。そうすると、その心理的負荷の評価が『強』と判断される業務上の『具体的出来事』(略)は、労働者の個体側要因である脆弱性の程度にかかわらず、平均的な労働者にとって、業務による強い『心理的負荷』であり、精神障害を発病させる危険性を有すると認められるのであるから, 既にうつ病を発病した労働者にとっても、当該『具体的出来事』自体の心理的負荷は『強』と判断されるはずである。」「認定基準が、健常者において精神障害を発病するような心理的負荷の強度が『強』と認められる場合であっても、『特別な出来事』がなければ一律に業務起因性を否定することを意味するのであれば、このような医学的知見が精神科医等の専門家の間で広く受け入れられていると認められないことは、補正して引用した原判決が説示するとおりであり、上記のような疑問あるいは『特別な出来事』がなければ一律に業務起因性を否定することは相当ではないとの考え方は、認定基準の策定に際しての専門検討会での議論の趣旨にも合致すると解される。」と判示し、同様に専門検討会の議論を踏まえて認定基準を批判している。
ちなみに、同名古屋高裁判決理由では、2人の国側精神科医の意見(うつ病悪化事案では脆弱性が強いから健常者と同様に評価することはできない等)との意見を、明確に排斥している。
この判決に対し、国は上告、上告受理申立をせず、確定している。認定基準の「特別 な出来事」がなければ業務起因性を否定するという判断の基準が不合理であることは明白である。
3 「特別な出来事」がなければ業務起因性を否定することは相当ではないとの考え方は、専門検討会での議論の趣旨に合致すること
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の第5回の検討会(平成23年4月1 4日開催)において、岡崎座長は「今日のところは発病後にも心理的な負荷が非常に強い、ないしは極度の出来事があった場合には業務上であると認めるということでは、先生方のご意見は大体一致したのではないかと思います。」として、発病の際に認定に必 要な非常に強い心理的負荷、ないしは極度の出来事があった場合には業務起因性を認めてよいと議論をまとめている。
名古屋地裁平成27年11月18日判決が、上記のように認定基準について「このような判断が精神科医等の専門家の間で広く受け入れられている医学的知見であるとは認められず」としたのは、第5回の専門検討会の議事録のこの部分を指摘している。名古 屋高裁平成28年12月1日判決は、「上記のような疑問あるいは『特別な出来事』がなければ一律に業務起因性を否定することは相当ではないとの考え方は、認定基準の策 定に際しての専門検討会での議論の趣旨にも合致すると解される。」として、「特別な出来事」がなければ業務起因性を否定することが相当ではないことは、専門検討会の議論と合致すると指摘しているのもこの部分の指摘を示している。
専門検討会においてなされた議論を踏まえれば、「特別な出来事」がなければ業務起 因性を否定するような認定基準は不合理である。上記判決はそのことを指摘しているのであり早急に改正が求められている。
第3 結論
国は、上記名古屋高裁判決に対し、上告、上告受理申立をしなかったのであり、この内容に即して、直ちに認定基準を改正すべきである。
なお、本論点を含め、精神障害・自殺に関する認定基準全般について、当弁護団は、平成21年11月18日付意見書(「判断指針」から現行「認定基準」に変わる前の段階)に貴省に対して意見書を提出しているので、それらも参照されたい。
以上
2017年6月30日、平成28年度の過労死等の労災補償状況が厚生労働省から発表されました。
厚生労働省の発表を見ていきます。
まずは脳・心臓疾患について、以下引用します。
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1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1) 請求件数は825件で、前年度比30件の増となった。【 P 3 表1-1】
(2) 支給決定件数は260 件で前年度比9件の増となり、 うち死亡件数も前年度比11件増の107件であった。 【 P 3 表1-1】
(3) 業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業,郵便業」212件、「卸売業,小売業」106件、「製造業」101件の順で多く、支給決定件数は「運輸業,郵便業」97件、「製造業」41件、「卸売業,小売業」29件の順に多い。 【 P 4 表1-2】
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「運輸業,郵便業」のうち「道路貨物運送業」145件、89件が最多。 【P5 表1-2-1、P6 表1-2-2】
(4) 職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」187件、「販売従事者」97件、「サービス職業従事者」93件の順で多く、支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」90件、「専門的・技術的職業従事者」30件、「生産工程従事者」27件の順に多い。 【 P 7 表1-3】
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「輸送・機械運転従事者」のうち「自動車運転従事者」178件、89件が最多。 【P8 表1-3-1、P9 表1-3-2】
(5) 年齢別では、請求件数は「50~59歳」266件、「40~49歳」239件、「60歳以上」220件の順で多く、支給決定件数は「50~59歳」99件、「40~49歳」90件、「30~39歳」34件の順に多い。 【P10 表1-4】
(6) 時間外労働時間別(1か月又は2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「80時間以上~100時間未満」106件で最も多く、「100時間以上」の合計件数は128件であった。 【P13 表1-6】
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支給決定数とは、要するに、労基署が過労死等と認めた件数です。
支給数、死亡支給数とも減っていません。
運送業、特に運転手が大変だということがわかります。
それから、長時間労働で病気になっている人がたくさんいることが分かります。
次に精神障害についてみていきます。
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2 精神障害に関する事案の労災補償状況
(1) 請求件数は1,586件で前年度比71件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比1件減の198件であった。【P15 表2-1】
(2) 支給決定件数は498 件で前年度比26件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比9件減の84件であった。【 P15 表2-1 】
(3) 業種別( 大分類)では、請求件数は 「医療,福祉」302件、「製造業」279件、「卸売業,小売業」220件の順に多く、支給決定件数は「製造業」91件、「医療,福祉」80件、「卸売業,小売業」57件の順に多い。【 P16 表2-2 】
業種別(中分類)では、 請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の 「医療,福祉」のうち 「社会保険・社会福祉・介護事業」167件、46件が最多。 【P17 表2-2-1、P18 表2-2-2】
(4) 職種別(大分類)では、請求件数は 「専門的・技術的職業従事者」361件 、 「事務従事者」307件、 「販売従事者」220件の順に多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」115件、「事務従事者」81件、「サービス職業従事者」64件の順に多い。 【P19 表2-3】
職種別(中分類)では 、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」198件、47件が最多。 【P20 表2-3-1、P21 表2-3-2】
(5) 年齢別では、請求件数は「40~49歳」542件、「30~39歳」408件、「50~59歳」295件、支給決定件数は「40~49歳」144件、「30~39歳」136件、「20~29歳」107件の順に多い。【P22 表2-4】
(6) 時間外労働時間別(1か月平均)支給決定件数は、「20時間未満」が84件で最も多く、「160時間以上」が52件であった。 【P24 表2-6】
(7) 出来事(※)別の支給決定件数は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」74件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」63件の順に多い。
※「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したもの 【P26 表2-8】
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請求件数がさらに増えています。
自殺の件数は減りましたが全体の認定件数は増えています。
専門的・技術的職業従事者が多いのが特徴です。
時間外労働ですが「20時間未満」が最も多いのが印象的です。
出来事別の支給決定件数は、ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた が多くなっています。
つまり長時間労働よりもパワハラで精神障害になっている場合が多いようです。
一方で160時間以上も52件あり、2番目に多いのも驚きです。
裁量労働の件数も発表されました。問題アリと言うことがわかります。
一方で、これだけ?という印象を持ちました。
時間管理がなされていれば、もっと多くの認定がなされるのではないでしょか。
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3 裁量労働制対象者に係る支給決定件数
(1) 過去6年間で裁量労働制対象者に係る脳・心臓疾患の支給決定件数は22件で、うち専門業務型裁量労働制対象者に係る支給決定が21件、企画業務型裁量労働制対象者に係る支給決定が1件であった。 【P27 表3】
(2) 過去6年間で裁量労働制対象者に係る精神障害の支給決定件数は39件で、うち専門業務型裁量労働制対象者に係る支給決定が37件、企画業務型裁量労働制対象者に係る支給決定が2件であった。 【P27 表3】
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過労死等防止対策推進法が施行されて4年目です。まだこれからということでしょう。
まずは労災補償されるべきものを労災補償していくなかで、一つづつ対策をしていくことだと思います。
今まで、発覚していなかったものが発覚しただけで、世の中は確実に進んでいると信じたいものです。
今日は、憲法記念日。憲法施行70年です。
今日から中日新聞の連載で憲法施行70年の特集が始まりました。
1回目は、マンション建築現場で逮捕された方のことが取り上げられました。
記事にはこうありました。
「「市民の味方」と信じていた警察が必ずしもそうではないと、…」
野党側は、共謀罪により「米軍基地移設や原発再稼働といった政治的な運動が監視され、萎縮させられる危険性を指摘する。」
警察がどう動くかというのは、担当する警察官、或いは警察の考え方できまるようなところがあります。
そのために権力を縛るためにあるのが憲法。
その権力に濫用の力を与える「共謀罪」は危険です。
これからも憲法に守られるよう、微力ながら考えていきたいです。
環境基本法には、次のような条文がある。
環境基本法
第十六条 政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
これに基づいて定められているのが環境基準である。
環境については「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」を法律で定めなければならないとなっているのである。(ただし、罰則を設けることを要求していないし、現に環境基準違反に罰則はない。)
労働基準法、過労死等防止対策推進法などには、これまで残念ながら「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」を定めるように求める条文はない。
今回、はじめて時間外労働の上限を法律で規制することが検討されている。しかし、その内容は
「月四十五時間を超える残業時間の特例は年六カ月までとし、年間七百二十時間の枠内で「一カ月百時間未満」「二~六カ月平均八十時間」の上限を、罰則付きで法定化する方針だ。連合の要求で当初案の「一カ月最大百時間」よりは若干修正された。しかし、労災認定基準のいわゆる過労死ラインに相当する働き方を、国が容認するものであることに変わりはない。」と報道されている(中日新聞 2017年3月15日社説より)
今回の時間外労働の上限は、環境基準のような「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」ではない。今回策定されようとしている基準は、そもそもこの時間働いて脳・心臓疾患を発症し、労災と認められ、民事裁判でも企業が過労死を発生さるような安全配慮義務違反が問われるような、明らかな長時間労働の場合には、刑事の罰則もあるといっているだけである。
もちろん、刑事の罰則もあるとしていることは一歩前進である。しかし、時間外労働の上限として定められるべきなのは、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準、という意味では環境基準と同様のレベルのはずである。
脳・心臓疾患の労災認定基準には次のような記載もある。
発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
45時間を超える時間外労働は、脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるのである。これについては規制するべきである。
経済団体が反対する理由は、経済活動がなりたたなくなる、国際競争力が低下する、などであろう。
しかし、死ぬかもしれない時間まで働かせることができる法規制のもとで働かせることができる経済活動を放置することはできない。労働基準法には、子どもを働かせてはいけない。出産の前後は働かせてはいけないなどの規制を設けている。どんなに労働に需要があっても禁止するべき労働はあるはずである。いま、求められるのは、過労死するほど長時間労働をさせてはいけないという法規制である。
なお、不十分な上限規制になったとしても、この規制に達しない時間外労働をさせた場合にも労災認定がなされ、安全配慮義務違反の責任が問われる可能性があることは今までと変わらない。上記社説は「労災認定基準のいわゆる過労死ラインに相当する働き方を、国が容認するものである」としているが、これは罰則を科さない、直接規制しないということを意味するのであれば正当である。しかし、民事上の責任を負わないことも含む法規制になってしまうという意味に取られる可能性があり、不正確というべきかかもしれない。
ただ、今と変わらない、ということは、今と変わらず過労死が発生する、ということであるから、法規制が十分な目的を達成できないことを意味する。
更に強力な規制を求めたい。
トヨタ自動車株式会社の2次子会社である会社に勤務していた被災者(当時37歳)が、平成23年9月27日、虚血性心疾患で死亡した。その妻が、半田労基署長に対し労災保険法に基づく遺族補償給付請求等をしたが、半田労基署長は平成24年10月15日付で不支給決定をした。妻さんは原告となって、名古屋地方裁判所に、この支給決定の取消しを求め提訴したが、1審判決は平成28年3月16日、原告の請求を棄却する判決(以下「原判決」という。)をした(裁判所ホームページ)。
名古屋高等裁判所(藤山雅行裁判長、前田郁勝裁判官、金久保茂裁判官)は、平成29年2月23日、原判決を取消し、半田労基署長の不支給決定を取り消す判決をした。この判決は同年3月9日の経過により確定した。
半田労基署長は、遺族年金等の支給を決定しなければならない。
この事件は労災申請段階は、水野幹男弁護士が担当し、訴訟になってからは水野幹男弁護士と当職が担当した。
2017年3月1日、愛知県立岡崎商業高校の先生が校内で倒れて亡くなった事件について、名古屋地方裁判所で判決があり、公務外決定が取り消されました。公務災害と認められ、いわゆる過労死だったと判断されたのです。
名古屋第一法律事務所の田原裕之弁護士、福井悦子弁護士、森田茂弁護士、水谷実弁護士が担当されました。(愛知の県立高校の教諭の過労死を認める判決 名古屋第一法律事務所のブログ)
岡崎商業高校は、私が高校まで住んでいた岡崎市にある高校です。中学の同級生には進学した人もいたと思います。そんな地元の高校でこのようなことが起きたのはとても残念なことです。亡くなった方は、2009年に42歳だったというのですから、私とほぼ同年代の方。
報道によると、判決は、亡くなるまでの1か月の時間外労働は少なくとも95時間と認定。その上で、仕事の質について「生徒の資格取得に直結する直結する授業や部活の顧問を受け持った上、亡くなった月には資格検定の受験指導や体験入学の準備作業で、精神的負担が大きかった」などと判示したようです。
(中日新聞2017年3月2日朝刊)
地方公務員である県立高校の教諭の場合、なくなった場合にそれが公務による死亡かどうかは、地方公務員災害補償基金(地公災)が判断します。地公災が、公務災害と認めれば、ご遺族に年金又は一時金が支払われます。
脳心臓疾患については、「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害 の認定について 」という基準が定められています。
長時間労働については、
「発症前1か月程度にわたる、過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して、週当たり平均 25 時間程度以上の連続)を行っていた場合」
「 発症前1か月を超える、過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して、週当たり平均 20 時間程度以上の連続)を行っていた場合」
とされています。
民間の場合の認定基準は、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること」とされていることと比べると厳しめの基準となっています。
裁判では民間の認定基準も参考にされたようです。
認定基準はあくまでも公務災害、労働災害を迅速に判断するための基準であり、この基準に当てはまらない場合も労災、公務災害が否定されるわけでありません。
判決は、時間外労働の他、公務の質的過重性も認めています。
いまも多くの先生が、長時間、過密な労働をされていると思います。また、新聞報道によれば、10年以内に校内で倒れた5人が過労死と疑われるといわれています。
愛知県では、教員の多忙化解消プロジェクトチームが立ち上がり、平成28年11月には、「教員の多忙化解消に向けた 取組に関する提言 」が作成されています。
その中では次のような記載があります。
「県が実施している平成 27 年の「在校時間の状況調査」の結果に よると、小学校で 10.8%、中学校で 38.7%、高等学校で 14.0%の教員が、正規の 勤務時間以外で、80 時間を超えて在校している実態である。特に、中学校におい ては、20.7%の教員が 100 時間を超えて在校しており、教員は多忙を極めている状 況にある。(※在校時間:正規に割り振られた勤務時間以外に従事した時間) 」
先生はいつ過労死してもおかしくない状況の中で働いています。この判決が、愛知県の、全国の先生の働き過ぎを改革する一つのきっかけになればいいと思っています。
判決全文は裁判所ホームページに掲載されています。
2017年2月23日、中日新聞の夕刊に私のコメントが載りました。
同日、名古屋市北区のコンビニエンスストアの経営者が、アルバイトに対し、急な欠勤をした場合に罰金を支払うという労働契約を結んだことについて、愛知県警は、労働基準法違反の疑いで書類送検されたことが報道されました。
新聞記者の方に取材を受け、人件費が安いアルバイトを中心に運営しているのではないか。経営を過度に効率化させようとする姿勢がが背景にあるのではないかと指摘しました。
契約をしても許されないものがあること。大きく報道されることで、不合理な契約をさせられている人が、労働基準法違反だと声を上げることができるといいとおもいます。
こうした事件があったときに、大きく報道されることで欠勤に罰金を科してはいけないことについて、注意を促すことになればいいと思います。
もちろん刑事事件は疑わしきは被告人の利益にです。この経営者が有罪かどうかはわかりません。
しかし、報道にあるように、急な欠勤をした場合に罰金を支払うという労働契約をしたとしたら、労基法16条に違反します。
アルバイトで不合理な取扱を受けていると思ったら、ブラックバイト弁護団に相談してはどうでしょうか。
2017年1月20日、電通の社員で過労自殺として労災とみとめられた高橋まつりさんのご遺族と、電通の間で合意がなされたと報道されました。
注目していたのは、一つは電通が、法的責任を認めて、ご遺族の納得するように謝罪するか。
もう一つは、電通が、ご遺族が納得できるような再発防止のための対策を約束するか。
でした。
この事件ように過重な労働が明白であれば、会社は労災補償責任だけでなく、労働契約法の安全配慮義務に違反し、民法上の債務不履行責任や不法行為責任を負うことは明白ではないかと考えられます。
そのような場合に、電通が、責任を認めて謝罪をするのか、法的責任の有無は裁判所の判断に委ねるかのような不遜な態度を取るのか、それは、今後の再発防止の可能性とも大いに関係があるところです。
電通は、謝罪し、法的責任があることを前提とした慰謝料等の解決金を支払うことを約束したので、ご遺族は合意したのでしょう。
再発防止ですが、電通が、企業ぐるみで長時間労働をしていたのであれば、いきなり時間を短縮するとしても仕事が回らなくなり、人を増やすか、仕事を減らすかする必要があります。その規模は相当なものになります。本当にそのことを覚悟して和解したのでしょうか。仕事を効率化することで長時間労働を減らせるなどという、小手先の対策を考えているだけではないかが心配です。
この点、電通は今後、再発防止策の実施状況について年1回、遺族側に報告することを約束した,と報道されています。ご遺族は、このように、今後も再発防止について、意見を述べることができる約束をしたから、つまり、今後も監視をしていくことを前提に合意をしたのでしょう。
高橋さんの言葉が胸に刺さります。
「会社との合意には至りましたが、会社側がどんなに謝罪を述べたとしても、再発防止を約束したとしても、娘は二度と生きて帰ってくることはありません。」
「娘や、これまで過労で亡くなった多くの人たちの死を無駄にしないためにも、日本に影響力のある電通が改革を実現してほしいと思います。」
年末年始に、日本裁判官ネットワークの「希望の裁判所」を読みました。また、この本に寄稿している黒木亮さんの「法服の王国」を読みました。
法服の王国という小説は、少し前に話題になっていたのですが、手に取ることはありませんでした。今回「希望の裁判所」を読んで、そこに黒木亮さんが寄稿されているものを読んで興味を持ち、読んでみることにしました。
「希望の裁判所」は、裁判官が書いたもので興味深いものでした。
私が弁護士になったのは1995年でした。そのときから比べるとこの20年の間に裁判所は大きく変わりました。その変化の過程が、日本裁判官ネットワークに所属する各裁判官、元裁判官の視点からまとめられています。興味深いものになっています。
ただ、複数の裁判官の「論文集」となっていて、正直言って読みにくい。
それはともかく、少し違和感のある意見もありました。
現在の法曹養成制度の現実についてです。現在の法曹養成の制度と弁護士の人口増に問題があることは、法曹関係者としては認めざるを得ない現実です。法科大学院への志望者、司法試験の受験者が年々減少しているということは、法曹界に魅力が少なくなっているからだといわざるを得ません。
このことについて,裁判官の仕事に魅力がある、司法の仕事に魅力があると指摘するだけでは問題の解決になりません。何が問題だったか、どうしたらいいのか、この点についての言及がほとんど無いことが残念です。
「法服の王国」は、最後まで面白く読めました。構成や表現がたくみなせいか、一気に読ませ、読了後も気持ちが良い本でした。
すでに、指摘されていることですが、法曹関係のことについて非常の詳しく記載されています。弁護士が読んでも、裁判のこと、弁護士のことについて違和感がありません。詳しく取材し、参考文献も読み込んで書かれています。
原発訴訟の内容については、詳しく知りませんでしたが、主張、立証では完全に国を圧倒していたにもかかわらず、敗訴した歴史が、よくわかりました。裁判官が替わっただけで、違うことは弁護士としても実感していました。この小説では、裁判の中身を詳細に紹介し、尋問のシーンは、訴訟記録を引用しつつ、質問の意図や証人の様子を書き込んでいるのでとても臨場感があります。それ故に、この裁判については、単に裁判官が変わって結論変わるというレベルではなく、国や国政を問題にする裁判は、政治的に結論を決める、という司法の脆弱さが説得的に示されています。
読むときには、裁判官の名前を、パソコンで検索しながら読みました。そうすると、多くの裁判官の名前が実名であることがわかります。作者は、以下のように述べています。
「僕の書き方のスタイルなのですが、基本的には事実を基にしています。実名部分は一〇〇%事実。仮名部分は一~二割がフィクションです。それは、生の素材のまま描くと、事実でも物語として辻褄が合わない部分が出てくるためです。」
(週刊金曜日)http://blogos.com/article/75743/
弁護士が、判決を言い渡す直前の裁判官の顔色を見て、結論を感じるというのは、弁護士に取材をして書いているのでしょう。「あるある」と思いながら読んでいました。
刑法、憲法の重要判例も取り上げられており、司法試験を目指している法科大学院生が読めば、裁判例がもつ社会的意味なども知ることができると思います。
この小説では司法修習22期の裁判官を中心に物語が展開されていきます。その頃の裁判官の任官拒否や、宮本裁判官の再任拒否、平賀書簡問題等が、一部フィクションも付け加えられて物語として語られているところは、法科大学院性や、司法修習生、若い法曹関係者に読んで欲しいと思います。
過労死の問題も、一時期までは裁判所ではほとんど認めてもらえなかったそうです。
十分な主張、立証ができた事案でも労災と認めてもらえなかった時期があったそうです。
そこから比べれば、過労死の問題は、その裁判所の扉をこじ開け、国の認定基準を動かし、現在ではさらにその拡大を目指すことができる状況にまで来ていると評価できるかもしれません。
2016年12月22日、岐阜地方裁判所(眞鍋美穂子裁判長、杉村鎮右裁判官、足羽麦子裁判官)は、岐阜市役所の職員の遺族が提訴した、地方公務員災害補償基金岐阜県支部長の「公務外処分」の取り消しを求めた裁判において、地方公務員災害補償基金岐阜県支部長の行った公務外処分を取り消す判決を言い渡しました。
原告の勝訴です。職員が亡くなったのは平成19年ですから、亡くなってからは9年目の判決でした。
西濃法律事務所の笹田弁護士、綴喜弁護士が担当していた事件で、途中から私が弁護団から参加しました。
担当している過労死事件。
先日、判決が確定した。1審勝訴。控訴審も控訴棄却の事案。
確定するかどうかは判決が送達された日から14日(判決の日を含めない。)後の24時を過ぎた時点。翌日裁判所に確認をして、確定を知ることになります。判決の日と同じように、確定するかどうかは、かなり神経質になります。
すでに亡くなってから6年。辛い思い出ですが、仕事が原因だと認められて良かったです。
判決の内容は、裁判所ホームページで公開されています。
「 夫が自殺したのは過重な業務に起因するものであるとしてした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給請求に対し労働基準監督署長がした不支給処分の取消請求につき,前記夫がうつ病を発症したことに業務起因性は認められないが,その後の同人の業務による心理的負荷と,同人のうつ病の増悪により自殺を図り死亡したこととの間に相当因果関係を認めるのが相当であるとして,前記取消請求を認容した事例(なお,参考として原審判決を別紙1として添付した。)。」(裁判所ホームページより)
先日、過労死の損害賠償請求の裁判について、弁護士ドットコムからコメントを依頼された。
公務員の「過労自殺」控訴審、遺族が逆転勝訴…裁判で争点となる「安全配慮義務」とは
https://www.bengo4.com/c_5/n_5343/
そこで、言い尽くせなかった判決の意義と問題点についてかいてみた。