民法改正 法定利率の改正と損害額

 2020年、改正民法が施行されます。

 現在の法定利率が5%から3%になります。(その後、市中金利によって変動することが予定されています)

 

 それでは、交通事故、過労死等、被害者が亡くなったり、後遺障害を負ったりした場合にについて、使用者に損害賠償請求をすることにどのような影響があるのでしょうか。

 

 結論からいえば、損害賠償請求額は増額になります。

 

 その理由は、中間利息控除が減るからです。

 「中間利息控除」とは、不法行為等による損害賠償において死亡被害者の逸失利益を算定するに当たり、将来得たであろう収入から運用益を控除することです。この控除の割合は法定利率(年5%)によるというのが最高裁判決です(最判平成17年6月14日)。

 

 改正民法では、 中間利息控除も法定利率によると定められました。(改正民法 722条1項)

 

 そうすると、控除される金額が少なくなります。

 法務省のホームページにある例を紹介します。

 

 22歳のサラリーマンが死亡した事案

 ※損害額算定の基礎となる数値等について、稼働可能年数は67歳と認定、生活費控除率は0.5と認定、基礎収入は賃金センサス(平成24年)の大卒男子の全年齢平均を採用、弁護士費用は1割と認定、支払時まで事故時から2年と想定 。

 現在の民法を前提に計算すると損害額は約1億円程度になりますが、改正法を前提に計算すると合計約1億2000万円程度になります。

 改正法を前提に計算すると逸失利益が約2100万円程度増えます。そのため、弁護士費用も100万円程度増えます。2年間の利息が200万円程度減ることになります。それでも2000万円程度、損害額が増額になります。

 

 もともと、法定利率は、民法制定当時の市中の金利を前提としたもの でした。現在の低金利時代になり、金利が低くなっているので、裁判で利息が認められると一件通常よりも高額な利息が付き、請求している側は、得をしているように感じます。

 しかし、実際には中間利息控除も、市中金利よりも高い金利で差し引かれていたのです。つまり、交通事故や過労死で死亡した遺族側が請求する損害額は、少なめに抑えられていたのです。

 

 法定利息が変更になると、請求する側はこれまでよりも多い計算で請求できることになります。

 

改正前、改正後はどうやって区別するか

 それでは、2019年4月現在、すでに損害賠償請求ができる場合、つまりご家族が死亡したり、自分が後遺障害を負っていて逸失利益を請求できる状態にあるひとが、2020年4月1日の民法改正が施行されるのをまって、それから請求すれば、より高額な請求が出来るのでしょうか?

 

 施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合の遅延損害金の額は、改正前の民法における法定利率によって定められることとなります。 施行日前に損害賠償請求権が発生した場合には,中間利息の控除に用いる法定利率については,改正前の民法が適用されます。

 

 その結果、死亡した日、負傷や病気を発症した日が、2020年3月31日の場合には、改正前の民法の適用になります。2010年4月になるを待ってから請求しても、変わらないことになります。

 時間が経てば、記録が散逸したり、当事者の記憶も曖昧になり、責任を追及しにくくなる可能性があります。待っていないで、早く請求をして払ってもらう方がよいということになります。

 

参考 法務省ホームページ

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について