高プロに反対

 平成29年9月8日付で厚生労働大臣から労働政策審議会に諮問のあった「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(以下「働き方改革推進法案要綱」又は「法律案要綱」)について、同年9月15日に労働政策審議会は「概ね妥当と認める」答申をした。

 

 ただし、労働条件分科会の報告においては、労働者代表委員から、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大と高度プロフェッショナル制度に対する反対意見が付された。

 この法律要綱案には、裁量労働制の範囲拡大と高度プロフェッショナル制度が含まれていた。

 裁量労働制の拡大については今回法案にもりこまれなかったが、高度プロフェッショナル制度は法案の中に盛り込まれた。

 

 そして、ついに平成30年4月これらが閣議決定された。

 高度プロフェッショナル制度の問題については、日本労働弁護団が、すでに詳細な意見書を発表している。

http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2017/11/a5bd7381d07420555fc5d0c973133bd6.pdf

 

 高プロとは、導入要件が満たされると、対象労働者に対しては労働時間規制の 一部が適用除外となるため、1日8時間・週40時間の規制、休憩時間の 規制、時間外労働・休日・深夜も含めた割増賃金の規制など、全ての労働 時間規制が適用除外となる制度である。

 

  本来、労働時間規制および割増賃金は、長時間労働を抑制する目的を有し ている。その足枷が外れれば、際限なき長時間労働となってしまう。

 

 色々説明がなされているが、規制を外せばその労働者の中には絶対に長時間労働をする労働者が発生する。だからおかしな制度だし、そのような制度を導入してはならない。

 

 

 これについて、4月7日の各紙の社説が意見を述べている。

 

 中日新聞 東京新聞

「働き方法案 これでは過労死防げぬ」と題し、

「高プロは法案に盛り込まれた。野党から「スーパー裁量労働制」だと批判もでている。法案は国会論議を通し再考すべきだ。

 残業時間の上限規制など働く人を守る規制強化と、官邸主導で進めてきた規制緩和を同時に進めることは矛盾する。多くの人は仕事への強い責任感がある。そこにつけこんだような制度をつくり働かせていいはずがない。制度のありようは、働く人の命にかかわると政府は自覚すべきだ。」   

 と、明確に反対している。

 

 

 朝日新聞

「働き方改革 労働者保護に焦点絞れ」と題し、

「だが法案には、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度高プロ)」の新設も盛り込まれた。

 長時間労働を助長しかねないと、多くの懸念や不安の声がある制度だ。緊急性の高い政策と抱き合わせで拙速に進めることは許されない。切り離して、働き過ぎを防ぐ手立てや制度の悪用を防ぐ方策を、しっかり議論するべきである。政府・与党に再考を求める。」

 「野党は、働く人々を守る規制の強化に重点を置いた、働き方改革の対案を準備している。高プロを関連法案から切り離せば、与野党が歩み寄り、話し合う余地は生まれるはずである。

 だれのための働き方改革か。政府・与党はそのことを考えるべきだ。」

 朝日新聞も高プロには反対している。

 

  毎日新聞

「働き方改革を閣議決定 残業時間の規制が原点だ」と題している。

 その社説の中には、

「労働時間よりも独創性によって労働の価値が決まる仕事の場合は、高プロや裁量労働制について議論する意義はある。」

 と裁量労働制や高プロに「意議がある。」としてしまっている。これは残念である。

 日本労働弁護団は、高プロについて次のように指摘している。

「現在、多くの企業では、月額賃金がほぼ固定された月給制がとられており、 高度プロフェッショナル制度の適用を受けたとしても、それらの賃金制度が 変わる保障はない。一方、現行法上も成果型賃金制度や、労働者を所定労働 時間よりも早く帰して賃金減額をしない制度の導入は可能である。 あたかも高度プロフェッショナル制度の導入により成果型賃金制度が実現 できるかのような虚偽の宣伝・報道が繰り返されていることは極めて問題で ある。」

 労働時間より独創性によって労働の価値が決まる仕事があったとしても、高プロや裁量労働制でそのようなことを評価する賃金体系にはならない。そのことをこの社説は理解していない。 

 毎日新聞の社説も

 「しかし、現実には残業代を抑えるため、裁量労働を適用できない人に適用して長時間労働をさせることが横行している。」

 として、弊害があることは、認めている。しかし、高プロは、制度自体に問題がある。もっと明確に論じてほしい。

 

 

 読売新聞の社説(4月15日時点ではすでに公開されていない。)は、

 「働き方改革 国民の不信感払拭に努めよ」という表題で

 

 「新制度は、一定の職種について、賃金と労働時間を切り離し、成果で評価するものだ。仕事の多様化に対応し、効率的な働き方を促す狙いは、時宜にかなっている。」として、高プロを評価し、法案成立を求めている。表題にあるように、不信感だけが問題とされている。

 

 高プロの問題点を正確に伝えていない。

 

 

 

 日経新聞の社説は「 働き方改革法案を今国会で成立させよ」と題して、法案成立を求めている。

 

 この社説は、裁量労働制について「仕事の時間配分を本人にゆだねる裁量労働制の対象拡大が調査データ不備で先送りされたのは残念だが、法案が成立すれば、米欧に比べ見劣りする日本の生産性を高める効果は大きい。」としてる。

 

 また、高プロについて「野党は高度プロフェッショナル制度について「残業代ゼロ」制度と批判を強め、その創設を裁量労働制の対象拡大に続いて法案から削除するよう要求している。だが、生産性の向上を促す新制度を企業が使えなければ、日本の国際競争力が落ちる恐れがある。それでは従業員も不幸になる。政府は新制度創設を含めての法制化をあくまで貫くべきだ。」としている。

 

 しかし、現在法案となっている高プロは、対象労働者の年収要件が労働者の平均年間給与額 の3倍であり、およそ1075万円であると説明されている。この条件に当てはまる労働者がどれほどいるのか、それが国際競争力に影響があるほどの生産性を高める改革になるとはおもえない。

 

 つまり、日経は、いったん導入したあと、その適用範囲を広げ、残業を払わないで安価に働かせる労働力を確保して国際強労力をたかめるべきだと、そのようにはっきり意見を述べているのである。

 とても、賛成しがたい。  

 

 

 それぞれの 新聞社が、意見を明確にし、議論の材料を提供するのはよいことである。しかし前提となる事実を正確に報じてこそである。けっして多数の意見だから、与党の意見だからといって、法案が正しいわけではない。

 高プロは、裁量労働制よりもさらに長時間労働を招く危険な制度である。絶対に成立させるべきではない。