トヨタ自動車(豊田労基署長)事件 2021年(令和3年)9月16日判決

トヨタ自動車株式会社 本社 トヨタ自動車
トヨタ自動車本社

 名古屋高等裁判所は2021年(令和3年)9月16日、トヨタ自動車の従業員が自殺下事件について、労災と認めなかった名古屋地方裁判所の判決と取消し、豊田労基署長の労災と認めなかった判断を取り消す判断をした。

 労災だと訴えていた遺族の訴えを認めて逆転勝訴をさせた。

 

 私は、弁護団ではなく、この事件については詳細は把握していないが、諦めないで、裁判を戦ったご遺族の方、そして、弁護団の水野幹男弁護士、梅村浩司弁護士、加計奈美弁護士に心から敬意を表したい。

  

 この労働者の自殺は2010年(平成22年)のことであるから11年が経過して、ようやく労災であると認められたのであり、ご遺族の苦労は計り知れない。

 

 判決では業務に関して次のような心理的負荷が指摘されている。

 

 「達成は容易ではないものの、客観的にみて努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った。」と評価できることが「中」

 

 「弱」であるが、他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があったと考えられる出来事がある。

 

 はじめての海外業務を担当することについて「仕事の内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷があった。(心理的負荷としては「中」相当)

 

 そして、パワーハラスメントについては次のように認定されている。

 

 グループ長から、他の従業員の面前で、大きな声で叱責されたり、室長からも、同じフロアの多くの従業員に聞こえるほど大きな声で叱りつけられたりするようなことは,軽視できない。同様な叱責を受けていた○○をして、後日、本件会社の退職を決意させる有力な理由となるほどのものである。

 

 このような事実を否定したグループ長、室長の証言は、他の証言等を理由に信用できないと退けられている。

 

 そして、このパワハラを、2020年に改定された精神障害の労災の認定基準に当てはめをして

 

 「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり、その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」と評価されるのが相当である。

 

  と判示した。

 

 さらに、その叱責は少なくともグループ長から週1回程度、室長から2週間に1回程度だったと認定している。

 

 心理的負荷については、次のように判断している。

 

 個々的にみれば「中」には相当する。

 それらの精神的攻撃は、グループ長のみならず、室長からも加えられている。

 そして、これらの行為は、平成20年末頃から本件労働者が発病に至るまで(発病は平成21年10月頃とされている)反復、継続されている。

 

 判決は、これらの事実を踏まえ、

 

 一体のものとして評価し、継続する状況は心理的負荷が高まるものとして評価するならば、上司からの一連の言動についての心理的負荷は、「強」に相当する。

 

 と判断している。

   

 判決は、

 

 上記の出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度の精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。

 

 と判示した。

 

 この事案、リーマンショックの後で、時間外労働は厳しく制限しており、当該労働者もほとんど時間外労働は行っていない。

 しかし、業務の変化の大きさや,パワーハラスメントの実態を認めて、業務上の疾病と認めている。

  

  1審判決は、パワーハラスメントについて、

 「本件労働者に対する業務指導の範囲を逸脱しており,その中に本件労働者の人格や人間性を否定するような言動が含まれ,あるいはこれが執拗に行われたものとは認められない。」

  として、その心理的負荷が「強」とは認めなかった。

 

 改正前の認定基準では、「人格や人間性を否定するような言動が含まれ」ていなければ、心理的負荷が「強」にはならないかのようにされていた。

 

 判決からは、当のパワハラをしていたという上司の証言の信用性は否定されているが、パワハラをした当人が、そのことを全く認めないというケースは、私にも経験がある。これを立証するのは、なかなか困難である。現に1審判決は控えめな評価で労災と認めなかった。

 

 高裁の事実認定をみても、原告側でいろいろな角度から立証の努力をしたのだろうと推測される。当事者と弁護団の相当の努力が会ったのだと考えられる。

 

 これを記載している9月19日は、上告、上告受理申立の期間内ではあるが、事実認定が大きな争点であるから、上告、上告受理申立理由はなく、被告国も上告、上告受理申立はしないのではないかと予想される。

 

 損害賠償請求訴訟が別に1審に係属している。被告トヨタ自動車株式会社は、労災が認定された事案とは異なり、本件では、争う姿勢を見せているようであるが、高裁判決がパワハラ等を認めて労災であると判断したのであるから、これを尊重し、早期に全面的な解決に向けて態度を変更するべきである。

 

2021 過労死等防止対策推進シンポジウム

過労死防止対策推進シンポジウム  岩井羊一法律事務所
当事務所でもポスターを貼っています。

 2021年も、厚生労働省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムを開催します。

 愛知会場は、高橋幸美さん(電通で過労自死した高橋まつりさんのお母様)と、その事件を担当した、川人博弁護士がお話をされます。

 

これらの話を通じて、過労死の問題について考えます。

今年は、コロナウイルス感染症の問題がありますので、予約制です。参加するためには申込みが必要です。

 

すでに、申込みが多く、早めに予約した方が良さそうです。

なお、この過労死防止対策推進シンポジウム、会場によっては、お名前を公表したくないご遺族がお話をされるところもあります。

 

そのため、コロナウイルス感染があっても、オンラインでは開催することが難しいようです。

 

愛知会場は

  11月8日月曜日午後2時から

 

このころには、コロナウイルス感染症の拡大が収まって、感染対策をしながらの会場開催ができるように祈っています。

 

是非ご予定下さい。

 

↓申込みは下記からです。

 

過労死等防止対策推進シンポジウム (p-unique.co.jp)

厚生労働省がパブリックコメント募集中

 2020年6月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会が厚生労働省に設置されました。そこで、2001年に発出された脳・心臓疾患の労災認定の基準について、検討がなされてきました。

 

 2021年7月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書が公表されました。

 これにもとづいて2021年9月頃、あたらしい認定基準が策定されようとしています。

 

 新しい認定基準の概要はパブリックコメントの頁に掲載があります。これについて、現在、パブリックコメントの募集がなされています。期限は本年8月19日まで。

 

 2001年から20年ぶりの認定基準の改定です。

 これまで、仕事が原因ではないかと考えられる事案でも時間外労働時間が少ないために認定されず、裁判になった事案がありました。

 幸い、訴訟において認定されることになった事案もありますが、認定されなかった事案もあります。

 より適切なないようになるように、さらに毛一歩声を上げたいと思います。

 

 

  

 

 

厚生労働省 令和2年「過労死等の労災補償状況」を公表

 6月23日 令和2年度の「過労死等の労災補償状況」が厚生労働省から公表された。

特徴をいくつか指摘する。

 

脳・心臓疾患については、請求件数が昨年度から152件減って784件となった。

これは、コロナ禍で、長時間労働をする人が全体として減ったからだと思われる。報道によれば、厚生労働省もそのように分析しているようである。

 長時間労働を減らすことが過労死等の防止になることはより明らかになったといえる。

 なお、請求件数、認定件数とも道路貨物運送業がもっとも多い職種であるとのことである。業種別の対策もさらにすすめるべきである。

 死亡の認定数は67件であった。認定率が、令和元年の36.1%から31.8%に減少していることは気になる。

 

 精神障害については、請求件数は昨年とほとんど変わらず2000件を超えており、高止まりである。

 さらに、認定件数が令和元年が509件であったのに対し、608件と急増している。

もっとも、自殺は81件であり、昨年の88件より減少している。

  

 精神障害の労災認定が多い業種は、医療福祉が多い。

 もともと高ストレスな業務であるが、コロナ禍でさらに強い心理的負荷を受けることになったのではないかと推測される。

 

 出来事別の支給件数では、「上司から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件、「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせをうけた」71件とハラスメントが全体の27%をしめており、これらが自殺や精神障害の大きな原因の一つとなっている。

 

  精神障害で特徴的なのは、審査請求、再審査請求、訴訟により取消となったことに伴い認定された件数である。自殺についてはこれまで7件、4件、5件、2件と一桁で推移してきたところ昨年は12件の取消、認定があった。

 認定されないため、諦めずに戦っているご遺族には、逆転例も出ていることで励みになる。

 

   精神障害が増加し、また取消が増えたのは、昨年5月に認定基準が改定され、「パワーハラスメント」が強い心理的負荷になり精神障害の原因となることが明示されたことも大きいと考えられる。これまでも「(ひどい)いじめ、嫌がらせ」という項目があった。厚生労働省は今回の改正は、新しい医学的知見に基づくものではないという説明であった。しかし、実際に適用の場面では、これまで認定されていなかったものが認定されるようになった汰可能性がある。

 

 昨年も精神障害は請求件数は減っていない。むしろ認定件数は増えている.

全体の労働環境は心の健康を害しているのではないかと心配である。

                      (2021年6月26日修正、加筆)

 

 

2021年過労死110番

 2021年の過労死110番

 

コロナ労災・過労死・ハラスメント110番 全国一斉電話相談

 2021年6月19日土曜日 午前10時から午後4時

 

 今年は全国統一ダイヤル  0120-222-751

 

 ここに電話をすれば、最寄りの地域の弁護士等の相談担当者に電話がつながります。

 この電話番号は6月19日にしかつながりません。

 

 全国の問い合わせ先は こちらをクリック 

 

 過労死110番は1988年に始まりました。

 それから毎年行われてきました。

 

 当時は、長時間労働があっても労災と認定されず、辛い思いをした遺族もいました。

 いまでも、認定されずに、苦しい中にいる方もいますが、当時よりも認定される件数ははるかにふえました。

 

 使用者に対する損害賠償についても使用者に厳しい判断が出るようになりました。

 

 発生してしまった過労死等については、しっかりした補償と、責任の所在が明らかにされなければなりません。

 

 しかし本当は、そのような自体になる前に予防されなければなりません。長時間労働やパワーハラスメントをなくすこと、良い職場作りがなされるここと、有給休暇が取りヤイ職場になること、いろいろ方策があるはずです。

 

 そして、サービス残業は厳しく規制されなければなりません。そうでないと、正直者ただしく労働基準法を守った会社が競争に負けてしまいます。

 労働組合が、厳しく監視することも大切だと思います。

 

 

 当日は電話で相談が受けられます。

 

※ 2021年の過労死110番は6月19日午後4時で終了しました。

  全国一斉で行われ、当地では取材はありませんでしたが、各地で報道されたようです。多くの、相談がよせられました。(6月19日追記)

  

2021年も司法修習生を預かっています

 司法修習生は、司法試験に合格した、最高裁判所司法研修所に所属するものです。

 弁護士・検察官・裁判官になるため1年間の研修を受けています。

 

 現在、当事務所にも司法修習生が配属されています。5月から6月下旬までの約2か月間の予定になっています。

 私も、司法修習生の時代に修習を受け、弁護士活動の基礎を学んできました。

 

 司法修習生は、最高裁判所規則により守秘義務を負っており、ここで知り得た事柄については他に決して漏らすことはありません。もちろん、私からも指導をしております。

 

 司法修習生がより良い法律家となるため、相談、打合せ、裁判の期日の同席について、ご承認をお願い致したく、何卒よろしくお願い申し上げます。     

弁護士費用の表示を総額表示に

 令和3年4月1日より、税込価格の 表示(総額表示)が必要になるとのことですので、当ホームページの表示も総額が分かる表示に修正しました。

 

 相談料は、「30分あたり5000円と消費税」、と表示していましたが、「30分あたり5500円(税込)」に訂正しました。

 

 もっとも弁護士費用の表示は、経済的利益の額を基準にその割合の計算方法によって決まると言うことですので、税込み金額を表示することが困難な場合もあります。

 そこで、適宜1.1倍したものという注を付けました。

 

 今後とも、わかりやすい表記につとめます。

 

地下鉄サリンの日

 今日は、地下鉄サリン事件が起きた日です。

 1995年3月20日

 修習が終了し、修了試験の発表があったかこれからだった時期だと思います。

 いよいよ弁護士になる。そんな時期におきた事件ででした。

 お亡くなりになった方々に謹んでお悔やみ申し上げます。また、今もまだ悲しみの中にいる多くのご家族の方にもお見舞い申し上げます。

 

 この事件がおきた当時は、誰がやったのかも分かっておらず、不安に感じたことを覚えています。この年は、1月17日に阪神淡路大震災があり、混乱の中にありました。

 

 その後、弁護士になったときにも、坂本堤弁護士が行方不明のままで、弁護士会を上げて坂本弁護士を救出するという運動をしていることを知りました。当時入所した名古屋南部法律事務所でもポスターを貼ったりするなど協力していました。

 その後残念ながら、坂本堤弁護士の一家は、すでに殺害されていたことが分かりました。弁護士に対する業務妨害が注目されるきっかけでもありました。

 

 後に、松本サリン事件の被害者である河野義行さんを愛知県弁護士会でおよびして講演をしていただき、お話をうかがう機会がありました。河野さんはご自身も被害者であり、お連れあいも重い障害が残った方でした。それにもかかわらず、警察から犯人と疑われて、本当に辛い思いをした方でした。警察に出頭したときのやり取りをきいて、本当に怖い思いがしました。河野さんのお話で印象に残っているのは、取調で、メモを取らせてくれと申し入れて、捜査官にメモを取ることを認めさせたということでした。

 当時も、いまも取調に弁護士を立ち会わせるという扱いをしてもらえません。河野さんは、そこで、警察官が何を質問したのか、自分が何を話したのか、忘れないようにメモを取りました。そして、帰ってから弁護士と相談し、その後の対策を相談したとのことでした。毎日、逮捕されるかもしれないという恐怖を感じていたそうです。

 今考えれば、河野さんが1人でサリンを作ってまいたなどとはおよそあり得ないことですが、警察は真剣に疑っていたそうです。

 

 地下鉄サリン事件ときいて思い出したことをつらつら書いてみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

新型コロナウイルス感染症対策

 当事務所では、新型コロナウイルス感染症対策のために入り口にアルコール消毒液を設置しています。

 事務所にお越しいただいたとき、お帰りになるときにお使い下さい。(写真 左)

 

 また、最近、換気の状態を確認するために、二酸化炭素測定器を設置しました。(写真 右)。

 

 厚生労働省は、「換気の悪い密閉空間」を 改善するための換気の方法」というチラシで、窓の開放による換気の場合場合

 

   換気回数※を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。) とすること。

 ※ 換気回数とは、部屋の空気がすべて外気と入れ替わる回数をいう。

 

 としています。

 

 厚生労働省は、ビル管理法における空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準を

 二酸化炭素の含有率 100万分の1000以下(=1000 ppm以下) 

 としています。

 

 確かに、実際に設置した測定器の二酸化炭素濃度の変化をみると、いままでよりさらにしっかり換気をする必要を感じます。

 

 空気を見える化して、換気には注意しようと考えています。

 

 

謹賀新年 2021年 

 明けましておめでとうございます。

 

 新しい年 2021年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大がすすむなかで不安のなか、新しい年を迎えました。

 感染に十分に注意しながら、業務にはげみます。

 

 現在担当している事件が、それぞれ良い方向へ向かうように励んでいきたいと思います。

 

 また、過労死の分野で労災認定基準の改定作業が続いています。注視していくとともに、今まで不合理にも認定されなかった事案が、適切に認定されるように過労死弁護団で運動していきたいと思います。

 

 弁護士会では、刑事弁護の委員会を中心に活動をしています。弁護士会でもさまざまな制度改革を提案しています。これらの動きについても微力ながら力を尽くしていきたいと思います。

 

 愛知学院大学法務支援セターの特任教授としても学生そして地域の皆様に役にたつ働きができますように、微力を尽くしていきます。

 

 あらためて、本年もよろしくお願いします。

 

 2021年1月1日

                             岩 井 羊 一

 

 

 

 

 

 

2020年もありがとうございました。

宇城翔子 岩井羊一法律事務所
打合せ室の絵 作 宇城翔子

 2020年、無事一年をすごすことができ感謝です。

 昨年の今頃、新型コロナウイルス感染症のなかでこのような生活をすることなど、全く予想していませんでした。

 

 弁護士会の会議をzoomでやったり、裁判の手続きをteamsで行ったりするなどということは予想もできませんでした。

 

 そのように、いろいろなやり方は変わりましたが、大変な中で、弁護士の業務は、なんとか行えました。今後もコロナウイルスの影響が続くと不安ですが、大変な方がたくさんいるなかで、こうやって仕事が続けられることは感謝です。

 また、コロナウイルスの影響で困っている方に、弁護士としてできることを対応していきたいと思います。

 

 今年は、過労死の事件で、12月に損害賠償請求訴訟と行政訴訟で、勝訴判決をえることができたことが印象に大きく残りました。

 

 損害賠償請求訴訟の事件は、発生から13年、損害賠償請求の訴訟を起こしてからも4年が経過していました。この事件が確定しました。ご遺族はご高齢で、解決がながびくのは大変だったと思います。控訴されなかったことは、判決の内容から当然とはいえ、ほっとしました。多くの方が関心をよせ、支援していただけました。多くの方の協力があったからこそ、このような結論を得ることができたものと思います。

 

 その他にも、いくつかの事件で解決をすることができたこともそれぞれ印象深いです。

 

 一方で、敗訴の事件も複数ありました。また、労災とみとめられず、現在、行政不服手続をしている依頼者の方もいます。そういう意味では、手放しで喜んでばかりはおれません。来年も、良い解決が得られるように励みたいと思います。

 

 過労死防止の活動として、高校生に啓発授業に行きました。これから社会に出る学生の皆さんに、よりよい情報を提供していこうと思います。

 

 過労死防止の啓発シンポジウムにも参加しましした。

 元依頼者の方の訴えをあらあめて聞きました。おつれあいが亡くなってからもうずいぶん立ちますし、裁判が勝訴で終わってからもしばらくたっています。けれどもこの方の残念な気持ち、無念な気持ち、つれあいを自死に追い込んだ会社に対する怒り、労災と認めずに裁判になったこと、その裁判で徹底的に争っていた国の態度等についての怒りをお持ちになっていました。

 

 弁護士としては勝訴を得て上手くいった事件、という印象を持っていましたが、それで安心してはいけないと思います。一度起こってしまったことの大きさを、改めて感じました。亡くなった方は帰ってきません。救済の前に予防が大切です。

 これからも、多くの人に伝えていきたいです。

 

名古屋市バス事件 損害賠償請求で勝訴

名古屋市交通局 市バス 損害賠償請求 水野幹男弁護士  岩井羊一弁護士 西川研一弁護士
報告集会で判決について説明する当職(左から水野幹男弁護士 岩井 西川研一弁護士)

 2020年12月7日、名古屋市を訴えた名古屋市バス事件で損害賠償請求が認められる判決を得ました。

 

 この事件は、2007年6月14日、30台の名古屋市バスの運転士が自殺したことについて、その後両親が、名古屋市を訴えた事件です。

 

 父親は、夫婦を代表して地方公務員災害補償基金名古屋支部に公務災害を申請していました。しかし、地方公務員災害補償基金名古屋支部は、公務災害と認めず、名古屋地方裁判所に、行政制訴訟を起こしていました。2015年3月名古屋地方裁判所は、父親の訴えを退け、公務災害と認めませんでした。父親は控訴し、2016年4月、名古屋高等裁判所は、地裁の判決を取り消し、公務災害と認める判決をしました。

 この判決については ブログ をご覧下さい。

 

 また、この裁判の経過については 奥田雅治さんの書かれた「焼身自殺の闇と真相:市営バス運転手の公務災害認定の顛末」を是非お読みください。

 

 これをうけて、父親は、名古屋市交通局に、息子が自殺したことについて、非を認めて、謝罪するように求めました。

 しかし、名古屋市交通局はこれを拒否し、責任を認めませんでした。

 

 このため、両親は、2016年10月名古屋市に対し、名古屋市の責任を認めて損害を賠償することを求めて提訴しました。

 

 判決は、1カ月のあたりの労働時間数は80時間を超えないものの、長時間労働であって、一定程度、被災者の心身の疲労を蓄積させ、そのストレス対応能力を低下させるものであったと認めました。

 

 そして、2007年2月の添乗指導をうけて「葬式の司会のような」アナウンスをやめるように伝えられたことは客観的にみても相当程度の心理的負荷であったと認めました。

 

 さらに、 2007年5月に九条があったことについて、事実関係を自覚することができずに指導をうけたことについて相応の心理的負荷を受けたと認めました。さらに、その後の指導による心理的負荷は相当大きかったと認めました。

 

 加えて、2007年6月に、転倒事故を起こしたとして、認識がないにもかかわらず、指導を受け、警察署に出頭し取り調べを受けたことが、相当おおきな心理的負荷であったと認めました。

 

 判決は、これらの出来事により精神障害を発病させたと認めました。

 

 そのうえで、名古屋市は、被災者の労働時間が長いこと、不適切な指導を認識していたこと、さらには、被災者が、自分に認識がないと告げていたにもかかわらず、特段の配慮もしていなかったことから、相当大きい心理的負荷が生じたことについて、名古屋市は認識できたと認め、予見可能性があること、安全配慮義務違反があることを認めました。

 

 また、名古屋市は、被災者が本件苦情や転倒事故について曖昧な会頭をしたことや、健康状態の申告をしなかったことについて、過失相殺が認められるべきとした主張について、被災者の責任にすることができないとしてこれを認めませんでした。

 損害賠償請求について、原告の主張を全面的に認めた判決でした。

 

 名古屋市は、この判決に控訴せず、2020年12月16日には、名古屋市交通局の幹部が両親の自宅を訪問して謝罪をしました。

 

 被災者が死亡してから13年半の歳月が過ぎましたが、名古屋市の責任が認められて、謝罪をうけたことで、ご本人と御両親の無念も癒されたと思います。

 

 このようなことが起きたのは、当時の名古屋市交通局の運転士の労働環境全体についての配慮が適切でなかったことが原因だと思います。一人一人の労働者をたいせつにする姿勢があれば、このようなことは起きなかったと思います。

 

 調査にもっと協力的であれば、長年の裁判にもならなかったと思われます。

 この裁判が、再発防止のための警鐘になればと願います。

 

 弁護団は、水野幹男弁護士、西川研一弁護士、伊藤美穂弁護士、澁谷望弁護士 そして私でした。

 

 

令和元年度「過労死等の労災補償状況」

脳・心臓疾患に関する事案については次のとおり報告されています。

 

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
 

(1) 請求件数は936件で、前年度比59件の増となった。【P3 表1-1】
(2) 支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件であった。【P3 表1-1】

精神障害に関する事案については次の通り報告されています。

 

2 精神障害に関する事案の労災補償状況
 

(1) 請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件であった。【P15 表2-1】
(2) 支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件であった。【P15 表2-1】

 精神障害については、ついに年間の請求件数が2000件を超えました。前年から240件も増えています。支給決定件数も500件を超えました。

 自殺の支給決定件数も前年より増えています。

 

 残念ながら、脳・心臓疾患、精神障害とも請求する件数がふえています。そして死亡については、前年より増えています。

 過労死等が減っている状況というのは生まれていません。

 

 働き方改革、過労死防止法に基づく啓発活動等の効果が現れるよう、これからも地道に活動をしていくほかないと考えています。

 

 そして、過労死等が起きたときには労災認定と、発生させた企業の責任の追及にも子らからも力を注いでいきます。

 

 過労死がなくなるときまで。

 

 なお認定率は、脳心臓疾患は下がっていますが、精神障害については昨年より上昇しています。

 脳・心臓疾患

        平成30年      令和元年

   全体   34.5%   →   31.6%

   死亡   37.8%   →   36.1%

 

 精神障害

        平成30年      令和元年

   全体   31,8%   →   32.1%

   死亡   38.2%   →   47.6%

 

 ちなみに、愛知県では

 脳・心臓疾患

    全体 20/37   54.05%

                 死亡 8/14     57.14%

 

 精神障害

    全体 21/85  24.7%

    自殺 7/16  43.75%

 

 脳心臓疾患の認定率は高い。一方で精神障害は全国の比率よりも低い。

 

「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」

 厚生労働省は、2020年5月29日、心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正を発表しました。(厚生労働省のホームページ)

 この改正は、2020年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加するなどの改正です。

 厚生労働省は、「厚生労働省では、今後は、この基準に基づいて審査の迅速化を図り、業務により精神障害を発病された方に対して、一層迅速・適正な労災補償を行っていきます。」とコメントしています。

 

 改正の概要は以下の通りです。

■「具体的出来事」等に「パワーハラスメント」を追加

 ・「出来事の類型」に、「パワーハラスメント」を追加

 ・「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を

  「具体的出来事」に追加

■評価対象のうち「パワーハラスメント」に当たらない暴行やいじめ等について文言修正

 ・「具体的出来事」の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を

  「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正

 ・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ、嫌がらせなど

  を評価する項目として位置づける

 

 実際の認定基準はこちらです。

 

 この改正ではまだ不十分だと考えています。その点は、以前ブログで述べました。

 

 

2020年 パワハラ・コロナ労災・過労死110番

2020年6月20日(土)「パワハラ・コロナ労災・過労死110番」全国一斉電話相談を実施します
 2020.6.20(土) 10:00-15:00
 当日、パワハラ、コロナウイルス関連労災、過労死に関するご相談を受け付けます。

 愛知県の電話は 

   フリーダイヤル 0120-846-910
 全国26都道府県で実施予定です。各地の当日の受付番号・時間はこちら

 2020年6月20日のパワハラ・コロナ労災・過労死110番の相談、電話の相談は16件でした。当日は、名古屋テレビの取材を受けました。パワハラ、コロナに関する相談がありました。当日繋がらなかった方。申しわけありません。

 これからも、過労死、過労による病気についての相談を受けてまいります。

 2020年6月24日 追記

パワーハラスメントについての労災認定基準

 2020年5月15日、厚生労働省は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表しました。ホームページでみることができます。

 この専門検討会は、「労働施策総合推進法」により、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しについて検討を行い、取りまとめたものです。

 

 その要点は、厚生労働省のホームページに次のようにまとめられています。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

報告書のポイント

 

■具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加

 ・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加

 ・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加

■具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正

 ・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を

  「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正

 ・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等

  を評価する項目として位置づける

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 しかし、この報告書及びこの報告書の内容には問題があります。

 

1 パワーハラスメントの概念について

  パワーハラスメントについて、労働施策総合推進法 30 条の2第1項が、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。

  法律がパワハラの定義を定め、事業主に必要な体制の整備や雇用管理上必要な措置を命じることは一歩前進です。それでは何がパワハラかということについて、この法律の解釈の指針として「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が定められています。しかし、これについては日本労働弁護団が、2019年12月10日の意見書で、「パワハラの定義を著しく狭く限定的に解釈し、まるで「加害者・使用者の弁解カタログ」とも言えるような「パワハラに該当しない例」を掲載するなど、パワハラ防止に資するどころか、むしろパワハラを許容し、助長しかねない危険性を有する内容である。」と批判するものです。この指針によってもパワハラと判断される場合はよいでしょうが、解釈が分かれるところでは、この指針でパワハラを否定されれば、労災認定もされなくなる危険があります。

 

2 「執拗」は厳しすぎる。

 報告書は、次のような場合を心理的負荷が「強」の例であるとしています。

 

・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

・上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合

・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は

業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における

大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容

される範囲を超える精神的攻撃

心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合

であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

 

確かに、1回だけの暴行、1度だけの精神的攻撃で、精神障害になる場合というのは、相当ひどい攻撃というべき出来事でないと労災とはいえないかもしれません。しかし、「執拗」とは「過度なほどしつこいこと」(広辞苑第7版)という意味です。身体的攻撃を執拗に受けた場合や精神的攻撃を執拗に受けた場合でないと心理的負荷が「強」とは判断されず、精神障害の発病が労災とはならないというのは不合理だといわざるをえません。

平成23年の専門検討会の報告書の資料となっている、「ストレス評価に関する調査研究

~健常者群における 43 項目、および新規 20 項目のストレス点数と発生頻度~ 大阪樟蔭女子大学大学院 夏目 」によれば、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」はストレス点数のランキングで1位、点数は7.1とされています。(2位は「退職を強要された」の 6.5、3位は「左遷された」の 6.3、4位は「1か月に 140 時間以上の時間外労働(休日労働を含む)を行った」の 6.3。)

ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことが、これほど上位のストレスであるのに、さらに「執拗」にされたことが必要だとすれば、労災認定のハードルをあまりにあげすぎているといわざるを得ません。

ところで、専門検討会の報告書の4ページには、「また、人格や人間性を否定するような精神的な攻撃が執拗に行われた場合や、精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合にも、強い心理的負荷を生じるものと評価されている。こうしたことを勘案すると、心理的負荷の強度が『強』となる具体例については、次のように示すことが適当である。」と書いてあります。そうであれば、認定基準の具体例は「精神的攻撃が執拗に行われた場合」とまとめるのではなく「精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合」とするべきです。

さらに専門検討会の報告書については、

第4回に出された案文の 4頁

 

「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け

た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷

を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみると、治

療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身体的

な攻撃が繰り返し行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。

 

とあった部分が、

 

第5回に出された案文の 8頁では

 

「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け

た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷

の強度を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみる

と、治療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身

体的な攻撃が執拗に行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。

 

となり、最終的な報告書も同じ記載になっています。

 

専門検討会の第4回に出された報告書案は暴行について、過去の事例に「繰り返し行われた場合」で認定されていたと紹介しておきながら、その後第5回の案では、「執拗に行われた」認定例があると認定例の紹介の内容を変えているのです。

セクシュアルハラスメントの場合には、現在の認定基準も、「継続して行われた場合」には心理的負荷が強とされるとなっています。パワーハラスメントの場合にも、同様に「継続して行われた場合」とするべきです。

 

 

3 「人格や人間性を否定するような」は不要である。

精神的攻撃の「強」となる例として、「・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」が挙げられています。

しかし、ここで「人格や人間性を否定するような」という限定が必要でしょうか。

人格や人間性を否定するような精神的攻撃の典型例は「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」のような言葉を使うことです。

現在の認定基準における「ひどい嫌がらせ、いじめがあった」という項目で「強」の例は、「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」となっています。このような基準になっている関係で、労災の申請をすると、「人格や人間性を否定するような言動」があったかなかったかを確認され、これがないとして、心理的負荷が「強」ではないと判断されることがよくあります。しかし、人格や人間性を否定するような言動がなくても、精神的に辛い思いをする言動はたくさんあります。そして、そのために精神障害になる例があります。そのような場合に、その程度では平均的な人は精神障害にならないから、個人が精神的に弱い人だったんでしょう。労災とは認めません。というのは、余りにも厳しい基準と言わざるを得ません。「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」などという言葉を使わずに被害者を追い込むパワハラ、モラハラ上司による精神障害はすべて労働者の弱い性格のせいになってしまいます。

「業務上明らかに必要がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」は、表面上「人格や人間性を否定するような」ものでなくても精神障害を発病させることはあります。「人格や人間性を否定するような」という表現を使う必要はありません。

新しい認定基準では、「・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」という項目も新設されました。この項目が「人格や人間性を否定するような」を要求してないとすれば、以前の認定基準より、「強」となる場合がひろがったものとして評価できると考えられます。

 

4 「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」も「強」と評価すべき

  今回の認定基準では「心理的負荷としては『中』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合」を心理的負荷が「強」の例にあげられました。心理的負荷が「中」程度のパワーハラスメントであってもその後の対応によって心理的負荷が強くなることは経験するところでですから、この 指摘は評価できます。

  しかし、セクシュアルハラスメントの場合には、「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」についても心理的負荷が「強」の例にあげられてします。

  パワーハラスメントの場合にも、会社に相談等をして、さらに当該上司からパワーハラスメントを相談したことを指摘されて関係が悪くなることも側聞するところです。さらに、被害者が相談できなくても、会社が把握していながら適切な対応をしない場合には、パワーハラスメントが継続され、被害者本人の孤立間も高まり、心理的負荷が強くなることはセクシュアルハラスメントと同様の構造を持っています。

 

  今回、なぜ、セクシュアルハラスメントと同様にしなかったのか理解できません。

 

 厚生労働省は2020年5月15日(金)から5月25日パブリックコメントを募集しています。

 上記批判については本来専門検討会の議事録をみないと確認できず意見もいえません。時間がありませんが「執拗」「人格や人間性を否定するような」などという制限的、限定的な認定基準では、これからも理不尽に労災と認められない被災者や、家族が今後も発生することになってしまいます。

 

 適切な認定基準となるように厚生労働省に再考を求めます。

 

 

新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて

 2020年4月28日、厚生労働省から、「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発 0428 第1号)が発出されました。

 

 「新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)に係る労災補償業務における留意点については、令和2年2月3日付け基補発 0203 第1号で通知していると ころであるが、今般、本感染症の労災補償について、下記のとおり取り扱うこととしたので、本感染症に係る労災保険給付の請求や相談があった場合には、これを踏まえて適切に対応されたい。」とのことです。

 

 このなかで、医療従事者の方については、「医療従事者等患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、 介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。」と定められました。

 感染経路が明らかでなくても、原則として業務起因性が認められるとされています。

 

 次に、それ以外の方でも「医療従事者以外の労働者であって感染経路が特定されたもの感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。」と定められました。

 

 さらに「医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの」についても「 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が 感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。

(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

 

 感染経路が明らかでなくても労災と認められる場合があります。

 

 厚生労働省のホームページ 

  新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け) 労災補償

 

 

 

 

 

新型コロナウイルスの影響

 2020年4月10日、愛知県は、愛知県独自の緊急事態宣言をだしました。

 2020年4月16日、特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が全国に拡大されました。

 

 これをうけて、当職の担当する事件の裁判所の期日も取り消されました。

 

 愛知県弁護士会は、法律相談や紛争解決センターの受付と期日を取り消しました。

愛知県弁護士会館も原則として使用できないことになりました。

 

 刑事の当番弁護士制度は、これまでどおり運用されます。国選弁護についてもこれまでどおりです。

 

 当事務所は、当面通常どおり執務をしていますが、打合せ等は、可能な限りメールや電話等で行うようにしています。

 今後の状況によって執務状況を変える可能性があります。

 

 感染に十分に気をつけましょう。

労働債権の消滅時効は2年から3年に

労働時間

 

 賃金請求権の消滅時効が、令和2年(2020年)4月施行の改正民法と同様に5年に延長されました。といっても例外的に当面の間は3年ということになりました。

 

 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により、使用人の給料に係る短期消滅時効が廃止される、一般に債権の時効は5年になりました。

 労働基準法では、賃金請求権の消滅時効は2年となっていました。これは、民法で定められていた1年では短すぎるから労働者保護のために修正されたのです。

 

 ところが、民法が改正され、一般的な債権の時効が5年になりました。したがって、労働基準法の2年も時代遅れ、不合理になってしまいます。

 

 そこで、労働基準法における賃金請求権の消滅時効期間等を延長することになりまいた。

 しかし、この法改正について使用者側が強く反対しました。そのため、当分の間の経過措置を講ずるとして、時効は3年となりました。

 

 なお、改正になるのは、施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権についてです。

 つまり、今月支払われる給料から3年の時効になるのです。

 今回の改正の変化が体験できるのはあと2年たってからです。

 

 本改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じることになっています。そうすると、実際に5年になるのはその先でしょうか。

 

 参考 労働基準法の一部を改正する法律について(厚生労働省ホームページ)

名古屋高等裁判所平成30年4月18日判決(労働判例1186号20頁)

居酒屋 残業代 店長
画像はイメージです。実際の事件とは関係がありません。

 1 残業代請求で相当額の支払いを受ける内容の判決を得ました。

 

名古屋地方裁判所半田支部平成28年11月30日判決(労働判例1186号31頁)

名古屋高等裁判所平成30年4月18日判決(労働判例1186号20頁)

最高裁判第三小法廷所令和元年12月17日判決

 

2 事案の概要

 

 本件は,被告が経営する居酒屋に店長として勤務していた原告が,被告に対し,

 

〔1〕賃金支払請求権に基づく未払残業手当金,

 

〔2〕〔1〕に対する各支払期日の翌日から退職日の後の賃金の支払日までの商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金合計

 

〔3〕〔1〕に対する退職日の後の賃金の支払日の翌日から支払済みまで賃金の確保等に関する法律6条の定める年14.6パーセントの割合による遅延損害金

 

〔4〕労基法114条に基づき付加金並びにこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金

 

の支払を求めた事案です。

 

3 争点

 

 本件の争点、① 労働時間 ② 固定残業代が認められるか ③ 付加金が認められるか ④ 賃金の確保に関する法律の適用があるか です。

 

 それぞれの意味と、1審、2審判決の内容を説明します。

  

4 労働時間

 

⑴ 始業時刻

 

原告は、原告は,主として仕込みをするために1時間以上早く出勤していた旨の主張をしていました。しかし、1審判決では、早い時間に出勤すべき業務の必要性がうかがわれないことに照らすと,始業時刻である午後2時とするとされました。2審判決も同様です。

 

なお、午後2時以降にタイムカードが押された日もあったのですが、2審判決は次のように判示しています。

 

「一審原告のタイムカードの打刻時刻は,午後2時より前のものが圧倒的に多く,上記のとおり,午後2時より前の労働時間を具体的に認めるに足りる積極的な証拠がないためこれを労働時間と認定しないものの,上記打刻時刻以後午後2時までの間も相当時間労働していたと認められることからすると,彼此勘案して,上記の日についても,一審原告の労働時間を算定するに当たっては,午後2時から労働したものと認めるのが相当である。」

  

⑵ 休憩時刻

 

原告は、繁忙で休憩は取れなかったと主張しました。1審判決は、一般的に繁忙であったと推認される金曜日,土曜日及び祝日の前日については30分としても不合理とはいえないから,これらの日については30分,その余の日については1時間の休憩を取得したと推認する、としました。

  

⑶ 終業時刻

 

 原告は、タイムカードは被告の指示により操作をしていたのであるから信用できないと主張しました。

 

これに対し、1審判決は、原告と他の従業員らのタイムカードにおける退勤の打刻時間が分単位でおおむね共通していることに加え,閉店時間である午後11時又は午後12時の直後に打刻されているものが少なからずあるところ,閉店前から可能な範囲での清掃などの業務を行っていたとしても,閉店後に直ちに従業員らが退勤をすることは困難であると考えられることも併せ考慮すると,被告が原告に対して指示していたか否かの点についてはおいても,タイムカードにおける原告の退勤時間として打刻された時間を,勤務を終了した時刻とすることはできない、と判示しました。

 

そして、終業時刻については、閉店後1時間をもって原告による時間外労働の時間であったと推認される、と判示しました。

  

⑷ 控訴審判決

 控訴審もほぼ同じ事実認定をしています。 

 

4 固定残業代

 

⑴ 被告の賃金は次のように決められていました。

 

ア 基本給 

   14万円

 

イ 役職手当 

    平成24年6月分(同年7月支払)から平成25年4月分(同年5月支払)

        13万円

 

   平成25年5月分(同年6月支払)から同年12月分(平成26年1月支払)

        14万円

 

   平成26年1月(同年2月支払)から同年4月分(同年5月支払)まで

       16万円

 

 ウ 〈役職手当には,以下の固定割増手当含みます。内訳〉固定残業手当(残業時間数26時間に相当する額) 固定深夜割増手当(深夜労働80時間に相当する額) 固定休出手当(休日出勤3日に相当する額)

 

 

⑵ 原告の主張

 

  原告は、被告の定めのように解すると,原告の場合には必ず被告が主張する固定残業代を上回ることとなり,上回った部分は純粋に役職手当と解するべきことになるが,役職手当は固定割増手当の基礎となる割増基礎賃金から除外することができない(労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条)ことに照らすと,そのような賃金規程の定めは無効であるというべきである、等と主張しました。

  

⑶ 被告の主張

 

被告は、原告については,基礎給のみならず役職手当の固定割増手当分を上回る部分が割増賃金算定の基礎賃金とされることとなるが,その算定に当たっては,基礎給に役職手当を加えた金額を249.8時間(基礎時間173.8時間+26時間+20時間〔80時間×0.25〕+30時間〔8時間×3日×1.25〕)で除することにより算出される金額を基礎賃金(原告については基礎給14万円+役職手当13万円のとき1081円,基礎給14万円+役職手当14万円のとき1121円,基礎給14万円+役職手当16万円のとき1201円)として固定割増手当分を超える時間外労働の賃金を算出,支払すれば足りるから,明瞭性の観点からも問題ない、と反論しました。

  

⑷ 1審判決

 

  1審判決はおおむね次のように判示して、原告の主張を認めました。

 

原告の役職手当については,固定割増手当における算定の基礎とされるのは,基礎給のみであるから(賃金規程2条),原告の基礎給をもとに固定残業手当について計算すると,必然的に役職手当のうち,割増賃金として支給される部分と純粋な役職手当として支給される部分に区分されるはずであり,かつ,純粋な役職手当として支給される部分については,割増賃金の算定の基礎として除外されないから(労働基準法37条2項,労働基準法施行規則20条参照),割増賃金の算定の基礎とされるべき金額は,上記の基礎給を上回るものとなるが、賃金テーブルにおいて,明瞭性を確保することができていない。

 

被告の主張は、基礎給のみを割増賃金の算定の基礎とする旨の賃金規程の本文における定めに真っ向から反するものであって,その解釈に疑義を生じさせるもの等として退けました。

  

5 付加金

 

⑴ 付加金とは

 

  労働基準法には次の定めがあります。

 

  第114

 裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から二年以内にしなければならない。

 

賃金を未払だったときには、裁判で2倍の支払が受けられるというものです。

 

ただし、2年以内に裁判で請求しなければなりません。賃金自体は、催告をすれば、それから6か月以内に裁判をおこせば全額請求できるので、厳密には2倍になりません。

 

 

⑵ 1審判決

 

  1審判決は、次のように指摘して、付加金の請求を認めませんでした。

 

  被告による割増賃金の未払の原因は,役職手当の支払が割増賃金の支払として有効か否かという法律的な問題についての労働基準法の解釈の相違に起因するものであること,上記2で判示したとおり,被告による固定割増賃金の定めのうち,役職手当を除く固定割増手当についての定めとしては明瞭性の観点から不合理なものであるとはいえず,被告において役職手当についても同様に解したとしても,やむを得ない側面があることのほか,原告も自身の賃金に固定割増手当が含まれるとの認識を有していたことも併せ考慮すると,被告による割増賃金の不払が違法であるとしても,制裁としての付加金の支払を命ずることは相当でない。

  

⑶ 2審判決

 

  2審は、次のように指摘して、付加金の支払いを認めました。

 

  一審被告の割増賃金の不払は違法であり,一審被告がタイムカードの打刻について実際の労働時間より少なめな打刻をするよう指示していたこと,みなし割増賃金(役職手当)について不合理な主張をしており,その不合理性は賃金規程の文言からして明らかであったことを併せ考慮すると,付加金の支払請求については,これを認めるのが相当である。

  

6 賃金の確保に関する法律

 

⑴ 賃金の確保に関する法律に関する争点

 

  賃金の確保に関する法律6条1項は次のように定めています。

 

「第6条 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。」

 

賃金を支払わなかった場合には、退職したあとは14.6%の割合の利息も支払わなければならないのです。

 

ただし これには例外があります。同法6条2項は、次のように定めています。

 

「2 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。」

 

そして、この厚生労働省令である賃金の確保に関する法律施行規則6条5項はつぎのように定めています。

  

「四 支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。」

 

合理的な理由で裁判所で争っている場合には、14.6%の利息は適用しないとされているのです。この「合理的な理由」というのは何かについての解釈には争いがあります。

  

⑵ 1審判決 

1審判決は、次のように指摘して、賃金の確保に関する法律の適用を認めませんでした。

 

被告による割増賃金の未払の原因は,上記4における判示のとおり,労働基準法の解釈の相違に起因するものであって,支払が遅滞している賃金の存否に係る事項に関して合理的な理由により,裁判所で争っていると認められるから,原告の賃金の支払の確保に関する法律6条に基づく請求については,理由がない。

 

⑶ 2審判決

 

  2審判決は、次のように指摘して、賃金の確保に関する法律の適用を認めました。

 

この点について,一審被告は,本件の争点(未払賃金の存在)は,一審被告の賃金規程等の賃金体系の解釈(明瞭性の観点)に係るもので,一審被告が支払を拒絶して裁判所で争うことが不当とはいえない合理的な理由が存するから,賃確法6条1項の適用は排除されるべきであると主張するが,前記のとおり,一審被告の主張は不合理なものであり,本件において,賃確法6条2項の定める「天災地変」はもとより,裁判で争うべき合理的な理由があったとは認め難いから,割増賃金に対する賃確法6条に基づく附帯請求にも,理由がある。

 

 

7 最高裁判決

 

  2審については1審被告だけが上告受理申立をしました。

 

  最高裁は、2審が付加金を、1審原告が請求していなかった裁判を起こす2より前の分も認めていたとことについて上告を受理し、訂正しました。

 

  その他の論点については上告は受理されませんでした。上記高裁判決は、付加金を減額して確定しました。

  

8 コメント

 

 ⑴ タイムカードが適正に打刻されていない場合でも、残業代を請求できる場合があります。諦めずに立証手段を考えてみましょう。

 

 ⑵ 固定残業代が支払われているからといって残業代を支払わなくてよいとは限りません。固定残業代の規定や運用が法律に違反する場合もあります。おかしいと思ったときには弁護士に相談してみましょう。

 

 ⑶ 裁判をおこした場合には付加金、退職した後であれば賃確法に基づく高額な利息まで請求できる場合があります。ただし、その適用については裁判所によっても判断がわかれています。本件でも1審と2審で裁判官の考え方が分かれました。いつも付加金や賃確法の利息まで認められるとは限りません。

  しかし、2審のような裁判例が多くなることが、使用者の違法な賃金制度を是正させ、適正な法適用をさせることにつながるはずです。もっと広がってほしいと思います。

 

9 本件についてのweb記事

 

弁護士が精選! 重要労働判例 (固定割増手当(役職 手当)の有効性)

 

https://www.law-pro.jp/wp-content/uploads/2019/02/news20190215.pdf

 

  

労働判例を読む#47 労判1186.20

 

https://ameblo.jp/wkwk224-vpvp/entry-12421914403.html

 

  

タイムカードの時刻と実際の労働時間がずれているときの対処法

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201811177084.html

 

最高裁判所
最高裁判所 最高裁弁論の期日に撮影