賃金等請求権の消滅時効の在り方について

1 問題の所在

    議論の発端は民法の改正です。現行の民法の規定は、原則、債権は10年間行使しないときは消滅することになっていました。例外として短期消滅時効という制度があり、使用人の給料に係る債権については、1年間行使しないときは消滅という規定が設けられていました。この民法の短期消滅時効の特別法といたしまして、労働基準法における賃金等請求権の消滅時効の関連規定が設けられています。

   具体的には、労働基準法第115条は、賃金、災害補償、その他の請求権は2年間行使しないときは消滅するとされています。労働基準法ができた昭和22年、民法の短期消滅時効と比較して、労働者にとって重要な請求権の消滅時効が民法の1年ではその保護に欠けるが、10年では使用者に酷に過ぎ、取引安全に及ぼす影響も少なくないため、2年とされたという経過がありました。なお、このうち、退職手当の請求権につきましては、昭和62年に法律改正がされて、一律2年だったのを退職手当だけ5年に現在は引き上げられています。

   あわせて、労働基準法の規定上、賃金台帳などの書類は3年間保存しなければならない旨の規定があります。

   ところが、民法が改正されました。平成29年の6月に改正民法が成立して、2020年、来年4月に施行となっています。

改正後の民法につきましては、時効の簡素化、統一化のために、使用人の給料などに係る短期消滅時効は廃止した上で、債権は、

1 権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年間、

2 権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間、

この2種類に一本化されました。

   この民法の改正を踏まえて、特別法たる労働基準法の扱いはどうすべきかを検討するために設けられたのが「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」でした。この検討会は、平成29年6月の改正民法の成立を受けて、その年の12月に設置されました。

この検討会の最終会が令和元年6月13日に行われて、その場で検討会の論点の整理案が示されました。

 

2 検討会の整理案

 検討会の整理案は次のような内容です。

 

⑴「賃金等請求権の消滅時効の起算点、消滅時効期間について」。

「以下のような課題などを踏まえ、速やかに労働政策審議会で議論すべき」として「消滅時効期間を延長することにより、企業の適正な労務管理が促進される可能性等を踏まえると、将来にわたり消滅時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる」。

「ただし、労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やそのあり方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については引き続き検討が必要」

起算点に関しては、これは民法の改正を踏まえた形で「新たに主観的起算点を設けることとした場合、どのような場合がそれに当たるのか専門家でないと分からず、労使で新たな紛争が生じるおそれ」があるのではないかというようなまとめがされています。

 

⑵「年次有給休暇と、災害補償請求権の消滅時効期間について」

主に2つの意見がありました。まず、年休ですが、「年次有給休暇の繰越期間を長くした場合、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれがあることから、必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方でおおむね意見の一致がみられる」という整理がされました。

災害補償については、「仮に災害補償請求権の消滅時効期間を見直す場合、労災保険や他の社会保険制度の消滅時効期間をどう考えるかが課題」であるという整理がされました。

 

⑶「記録の保存期間について」

公訴時効は、労働基準法違反である場合は原則として3年とになりますが、「公訴時効との関係や使用者の負担等を踏まえつつ、賃金請求権の消滅時効期間のあり方と合わせて検討することが適当」ではないかというまとめをしています。

 

⑷「見直しの時期、施行期日等」

民法改正の施行期日は来年の4月1日です。「民法改正の施行期日も念頭に置きつつ」、来年(2020年)4月は中小企業の労働時間の上限規制や大企業の同一労働同一賃金の施行などありますが、「働き方改革法の施行に伴う企業の労務管理の負担の増大も踏まえ、見直し時期や施行期日について速やかに労働政策審議会で検討すべき」とされています。

「仮に見直しを行う場合の経過措置については、以下のいずれかの方法が考えられ」ということで、両論を併記しています。

 

1つ目の経過措置の考え方は「民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法」

2つ目は「賃金等請求権の特性等も踏まえ、賃金等請求権の発生日を基準に考える方法」、

 

この2つの方法を両論併記しています。

 

3 労政審議会の議論

 令和元年2019年7月1日 第153回労働政策審議会労働条件分科会では、以下の豊国を踏まえ次のような議論がありました。

 

労働者代表の川野秀樹委員(JAM副書記長)からは次のような発言ありました。

 

○川野委員 ありがとうございます。

御説明いただいた資料No.4の内容について、考え方をお話しさせていただければと思います。御説明いただいたとおりでございますけれども、改正前民法において使用人の給料に係る債権が1年で消滅するとされていたことは労働者保護の観点に欠けるということから、労働基準法第115条に定める賃金等請求権の消滅時効は、民法の適用を排除して、1年を上回る2年とした経緯があります。

また、会社の倒産や解雇があった際に、未払い賃金、いわゆる労働債権の請求のために労働者側が資料を整理して労働審判や訴訟の準備をしますが、その準備においては数カ月から半年以上かかる場合もあって、そうしたことを踏まえると、現行の2年の消滅時効期間では短いという声が聞かれます。

今回、民法改正によって消滅時効期間が5年と10年に整理されましたが、労基法上の労働者保護という趣旨を踏まえれば、一般的債権の時効を定めた民法の消滅時効期間を労基法が下回るということはあってはならないと考えているところでございまして、労働関係の債権についても改正民法同様の5年とすべきであると考えるところでございます。

また、2017年の民法改正の決定から2年が経過して、施行期日の2020年4月が目前に迫る状況でございます。ようやく労基法上の消滅時効について論点整理がなされたわけでございますが、時間がかかり過ぎていると言わざるを得ないと思っています。早急に改正の議論を進めて、改正民法施行と同時に5年の消滅時効期間の適用が受けられるようにすべきであると考えているところでございます。

 

これに対し使用者代表委員の輪島忍委員((一社)日本経済団体連合会労働法制本部長)は次のように発言しています。

 

○輪島委員 初めて見るというわけではないでしょうけれども、最終的なものということを踏まえて発言したいと思います。先ほど分科会長がお取りまとめといいますか、解説していただいたとおりだと思っておりまして、今後、本格的に労働条件分科会で議論するということでございますので、使用者側としては真摯に対応してまいりたいと思っております。

そこで、きょうは、参考資料No.4の16ページにございますけれども、昨年6月26日にこの検討会でヒアリングということで私ども経団連としても意見を述べさせていただきましたので、繰り返しになりますが、懸念事項ということで述べさせていただきたいと思います。

第1に、賃金等請求権の消滅時効期間を延長した場合には、賃金台帳、それに関連する記録の保存期間も延長するということになりますので、それによるコストの増加が企業経営に非常に大きく影響するのではないかと心配しているということでございます。

第2に、実際に労働者から未払い賃金の請求がなされた場合に、時間外労働等の過去の業務の指示の有無とか、さまざまな状況の確認が必要になるということで、この場合に、過去にさかのぼって時間外労働、休日労働の有無を確認するということは、単に保存義務があります賃金台帳等を確認するだけではなくて、メールの送受信や入退館の記録であるとか、法律で求められている以上のさまざまなものを残しておかなければ対応できないという、実務的には非常に難しい点があるのではないか。

加えて、組織再編が非常に激しい時期でございまして、例えば異動、転勤、退職等、5年前のそのセクションといいますか、関係する職場というものも、当時のことを知る人が誰もいないということもあるのではないか。5年、10年さかのぼって事実を確認するということは現実的ではないのではないかと考えております。

そういう意味で、現行の規定は、実務では定着していると考えておりまして、実際にそんなに不都合があるということでもないと思いますので、労働者保護という点についてもそれなりに担保されているのではないかと考えているところでございます。

最後に、現行の規定は、賃金債権の特殊性を踏まえて、企業の取引の安全性、労働者保護の双方に配慮されたものということで、民法では先ほど来御説明のあったとおりでありますが、民法とは独立してそのあり方を検討することも必要なのではないかと考えているところです。

以上です。

 

労働者代表委員の村上陽子委員(日本労働組合総連合会総合労働局長)からは次のような発言がありました。

 

○村上委員 先ほど川野委員からも申し上げたのですけれども、賃金請求権の消滅時効について、私どももヒアリングで対応させていただいております。今、輪島委員から使用者側の立場で懸念点などをおっしゃいましたけれども、その点に関しても改めて、繰り返しになりますが、申し上げておきたいと思います。

主に輪島委員からは、資料や記録などの保管やデータの問題についての御指摘がありました。その点に関しましては、参考資料No.4の8ページにもございますが、ほかの運送費などでも短期消滅時効は廃止されておりまして、その点に関して、事業者側から負担を軽くするために短期消滅時効を残すべきであるという意見は出されておりません。労働に限って負担が重くなるというのはどうなのかということはございます。賃金だけ、データの保管が必要になってくるという話ではないのではないでしょうか。

また、現行の2年が定着しているという御指摘につきましては、確かに2年でずっと運用されておりますが、労働組合のない職場で解雇された労働者からの相談などに対応しておりますと、解雇されてしばらくたってから相談などに来られて、労働組合に入ったり、あるいは弁護士に相談したりして、ようやく申し立てをするときには半年ぐらい経過していることがよくある話でございまして、そうすると、残り1年半ぐらいしか請求できないということがケースとしてはよく見られるところでございます。働いた対価として、本来、支払われるべきものが支払われていないということが課題でございますので、その点、やはり早く民法と同様の5年にするべきという考え方でございます。

また、要望としては、2017年に民法改正が成立したわけですが、施行は2020年4月ということで、1年を切っているところでございまして、このままで2020年4月に賃金債権に関する労基法の改正も一緒に施行できるのかというと、大変不安があるところでございます。ぜひ早急に検討を開始していただくとともに、論点を整理して議論しやすいようにしていただきたいという要望でございます。

以上です。

 

使用者代表委員の佐久間一浩委員(全国中小企業団体中央会事務局次長・労働政策部長)からは次の発言がありました。

 

○佐久間委員 ありがとうございます。

これから労働条件分科会で議論が進んでいくと思います。ただ、私ども中小企業としましても、賃金債権が5年以上になってくるとなると、先ほどの事務の関係、賃金債権以外のものでも同じだということがありますけれども、実際にはデータで管理している中小企業ばかりではありません。紙ベースでファイルをつづってやっているところもいっぱいあると思います。そこの中で、中小企業の場合、担当者はいろいろなことを担当したり、また流動性が多い職場ということもあれば、過去のものがどれだけの期間、存在しているか、非常に疑問なところでございます。また、これが延びたからといって、5年以上のものをいろいろさかのぼってくると、そこまでなかなか見切れないということが出てくるのではないかと思っています。

私どもは、労働側にとっては長ければそれなりの対応ができると思いますけれども、今までの実態等々を考えれば現状どおりということを望みたいと考えております。紙で管理していること、それから、労使間でも円滑に有効に機能していくためにも話し合いを持たなければいけないということもあると思います。書類が整っていない、そして期間が単純に5年になれば事務作業等も2.5倍になってしまいますから、それによって税理士、社会保険労務士、弁護士にお互いが依頼する費用というのも2.5倍以上になってくることになります。かなりの費用の問題も出てくると思いますし、賃金債権は優先的な債権でございますので、こういう債権があれば必ず優先的に払わなければいけないということはあると思いますが、それによってほかの債権者に対しても支払いがおくれてくる、また、支払いができなくなることもあると思います。そういうことで2年の現状どおりというのをぜひお願いしたいと考えております。

以上でございます。

 

さらに使用者代表委員の鳥澤加津志委員((株)CKK代表取締役)から次のような発言がありました。

 

○鳥澤委員 今回から参加させていただきます鳥澤でございます。

私は、本当に小さな会社でございますので、今、佐久間さんが言ったことと同じなのですが、中小企業の立場としてお話をさせていただきたいと思っています。

3点あるのですが、まず1点目は、先ほど言われましたように、中小企業の多くが未だに紙ベースで行っております。実際、うちの会社でもそれをデータ化しようという動きはあるのですが、データ化する人材がいない。そこになかなか手をつけられないというのが非常に大きな問題でございます。また、期間が延びることによって保管の場所等を含めて、いろんなものが、今、書類のハンディがあるのですが、増えていくのは大変というのがございます。

2点目が、労働者から未払い賃金の支払い請求があった場合の対応についてです。そういった問題になるのは恐らく簡単にできるような問題ではないと思います。複雑な経緯、要因がある場合ということでございますので、期間が長くなればなるほど、お互いにとって、記憶をさかのぼる、書類をさかのぼる、ここが非常に難しい作業になってくるのではないかと思っております。先ほどの話にもありましたように、5年となると担当がいなくなってくるのと同時に、今、中小企業同士のM&Aも非常に増えてきておりまして、5年たつと企業そのものがどこかに変わっているという状況も出てきております。そういったことを踏まえますと、期間が長くなるというのは、ある一定のところの期間で、今の2年というのはいいところではないかと思っております。

3点目は、有給休暇の問題でございます。これについてはまだどういう形がいいのかというのは書いてありませんでしたが、単純な考え方として、これも5年間になると、年20日として、5日間は必ず取得義務があるわけですけれども、残り15日間の4年間分、プラスその年と考えると、最大80日分を一挙に取得することも出てきます。果たして中小企業にとって、一人の方が80日間有給休暇をとったときに対応ができるほどの体力があるのかというと、非常に難しいと思っております。

中小企業の立ち位置を改めてお話しさせていただくと、なぜ存在できているのかということで言えば、中小企業というのは間接部門の人員が少ない、費用が少ないから存在できているのだと思っております。一般的な大企業に比べて、例えば事務職だとか、本業以外の部分にかかる人数が少ないから運営できているというのがあります。企業によっては、社長一人が全て事務職を行って、ほかの社員は全員、事業部門となってくると、一人にかかる負担が非常に大きいのが現状でございます。

こういった中で、さまざまな事務処理が増えていくということは非常に厳しくなってくるのと同時に、消滅時効の延長だけではなく、働き方改革によって事務職の負担が非常にふえているというのが現実でございますので、ぜひとも今後の延長に関しては深い配慮をいただきたいと思っています。特に労働基準法というのは罰則規定でございますので、民法とは性格が異なるものだと私は思っております。ぜひ、中小企業の活力が損なわれないようなことに留意していただきたいと思います。

以上でございます。

 

村上委員が

 

「2017年に民法改正が成立したわけですが、施行は2020年4月ということで、1年を切っているところでございまして、このままで2020年4月に賃金債権に関する労基法の改正も一緒に施行できるのかというと、大変不安があるところでございます。ぜひ早急に検討を開始していただくとともに、論点を整理して議論しやすいようにしていただきたいという要望でございます。」

 

と述べているように、民法改正の施行が間近であり、民法改正の趣旨からすれば、賃金債権の時効だけが2年というのは合理性がありません。来年4月の段階で間に合いませんでしたというのでは、民法改正に例外を認めることになってしまいます。

 

早期に労働政策審議会での議論が進められることが望まれます。

 

 

複数就業者への労災保険給付の在り方

 複数就業者への労災保険給付について、現在議論がなされています。

 第78回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料として、現在の労災認定制度の不合理性について分かる資料があります。

 

複数就業者に係る労災認定の運用状況(①脳・心臓疾患、精神障害事案)
第78回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料 より

 同じように週70時間の長時間労働をしても、一つの職場で長時間労働があった場合には、労災認定がなされるのに対し、一つの職場では週40時間、一つの職場では週30時間の労働をした場合には労災認定がされない可能性があることを指摘しています。

 
「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ・令和元年度革新的事業活動に関する実行計画」 (令和元年6月 21 日閣議決定)においては、 「副業・兼業の 場合の労災補償の在り方について、現在、労働政策審議会での検討が進められ ているが、引き続き論点整理等を進め、可能な限り速やかに結論を得る。」とされました。

 

実際の論点は二つあります。
 
〇 複数就業者の業務上の負荷について
 現行制度では、一方の就業先での業務上の負荷だけでは労災認定さ れないが、複数の就業先での業務上の負荷を合算したのと同様の業務 上の負荷が1か所の就業先であったものと仮定すれば労災の認定基準 を満たす場合についても、労災認定されていない。

 

〇 複数就業者の労災給付額の在り方について
 災害発生事業 場の使用者から被災労働者に支払われていた賃金を基本に算定する 「給付基礎日額」等により給付額を決定しており、複数就業先の全て の賃金額を合わせたものを基礎として給付額を算定していない。このため、現行制度では、必ずしも労災保険制度の目的である被災 労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の填補を十分果たしてい ない可能性がある。

 

 これらについて第77回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会資料で、労働者側、使用者側の意見をまとめた資料があります。

 

 使用者側の意見をみると、
 給付の在り方について
「生活が苦しいといった事情により、やむを得ず兼業・副業をしている労働者も多く、そうした労働者が労働災害で被災した場合に、労働災害が発生した就業先の賃金のみを基礎として労災保険給付が行われ ている現状は、労働者保護という観点から見直すべきであるというこ とについては理解する。 」
 などの意見もあり、一部理解されているものの、まだ、様々な論点をしてきしており、抵抗の大きさを感じます。

 業務上の負荷については、
 「負荷の合算については、企業の安全配慮義務にも関係し、労働時間の通算をする、しないという点が煮詰まっていない中で、業務上の負荷の合算という議論だけが先走りするのは危険ではないか。むしろ、 業務上の負荷が合算されるということで、長時間労働を引き起こす危 険性があるのではないか。 」
 など、使用者側の反対意見が主張されています。
 
 日本労働弁護団は、2019年6月12日「本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま副業・兼業を推進することに反対する緊急声明」を発表しています。
 そのなかで、日本労働弁護団は、「現状の労災実務では、副業・兼業をしていたとしても、本業先と副業先との労働時間の通算が認められていない上、労災の支給額の算定は、労災に遭った勤務先から得ている賃金のみを基に行われている。そのため、本業と副業とを合わせて過労死ラインを超える長時間労働をしていたとしても、労災としては認められない上、仮に労災認定がされたとしても、労災に遭う前の賃金保障はされないため、被災者は生活の困窮に直面することになる。これでは、安心して副業・兼業に従事することなどできない。国家的な方針として副業・兼業を推進していくのであれば、これまでの実務運用を改め、万が一労災に遭ってしまった場合の補償をきちんと行うための法整備を進めていく必要がある。」と指摘しています。

 

 過労死弁護団全国連絡会議の共同代表松丸正弁護士は、中日新聞2019年8月12日の記事で取材に答えて「副業、兼業する大部分の人は収入が少なく、暮らしに困っている。長時間労働の末に過労死するケースもある。川口労働基準監督署(埼玉)が七月、副業をして死亡したトラック運転手を過労死認定したケースでは、本業と副業の労働時間を合算した結果、一日の法定労働時間(八時間)を超えていた。
 また、副業先で法定労働時間を超えて働いた場合、副業先が割増賃金を払う必要があるが、私は時間外手当が払われているケースを聞いたことがない。労働者も解雇を恐れ、「払ってくれ」とは言えない。」などと指摘し、副業についての条件が整わないまま推奨されると、過労死の危険が増加すると指摘しています。

 

 今後労働法制審議会労働条件分科会労災保険部会では次のような日程で議論がすすめられる予定です。早期にこの問題点を適切に改正することが望まれます。議論の推移を見守りたいと思います。

 

第78回 ○複数就業者への労災保険給付の在り方について(労災認定等現行制度の説明)
第79回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討①

    《負荷の合算について》

     ・負荷の範囲・認定方法に係る論点整理案

    《特別加入制度の在り方について①》
第80回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討②

    《負荷の合算について》

     ・負荷の範囲

     ・認定方法に係る論点整理案

     ・責任と負担に係る論点整理案

    《特別加入制度の在り方について②》
第81回 ○中間とりまとめで提示された論点の検討③

    《額の合算について》

     ・保険料負担の軽減策、賃金額の把握等に係る論点整理案

    《負荷の合算について》

     ・負荷の範囲

     ・認定方法に係る論点整理案

     ・責任と負担に係る論点整理案

    《特別加入制度の在り方について③》
第82回 ・その他の論点

 

「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」

 厚生労働省は、「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(座長 山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授)がとりまとめた「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」を公表しました。

 

「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」を公表します 

    民法については、第 193 回国会において民法の一部を改正する法律(平成 29 年 法律第 44 号。以下「改正民法」という。)が成立しました。2020年4月から施行されます。
  消滅時効関連規定について も大幅な改正が行われました。
  一般債権に係る消滅時効について
 ①債権者が権利を行使する ことができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は
   ②権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10 年間行使しないときに 時効によって消滅する、
 と整理されました。

 ところで、労基法に規定されている賃金等請求権については、労基法第 115 条の規定 により2年間(退職手当については5年間)行わない場合は時効によって消 滅するとされています。
 労基法の賃金等請求権の消滅時効規定は、民法の特別法として位置づけられるています。そこで民法改正をしたと、労基法については、改正をしなくてもいいのか、が問題になりました。


 考え方として、
 あくまで民法と労基法は別個のも のとして位置づけた上で労基法上の消滅時効関連規定について民法とは異 ならせることの合理性を議論していけばよい。仮に特別の事情に鑑みて労 基法の賃金等請求権の消滅時効期間を民法よりも短くすることに合理性があるのであれば、短くすることもありえるという考え方もあるのではない か、という意見があります。
 一方で、民法よりも短い消滅時効期間を、労働者保護を旨とする労基法に設定する のは問題であるとの考え方もあるのではないか、という意見もあります。
 
 この問題についての意見の状況や私の意見は2019年5月4日のブログでのべたとおりです。


 上記検討会は、これについて次のように結論づけています。
 「…現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来に わたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向 で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。」
 よって、2年が延長されることはほぼ確実と考えられます。

 

 しかし何年にするのかについては、「この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、 賃金請求権の消滅時効期間を5年(※)にしてはどうかとの意見も見られたが、」と「が、…」とあるように結論は出ていません。
 「この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい 現状も踏まえ、また、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債 権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間 を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏 まえて一定の結論を出すべきである。」
 私には、使用者が反対しているから簡単にできないので、少し譲ってはどうか?と読めます。しかし、民法で様々な短期時効があり、これを廃止した民法改正の趣旨からすれば、例外をもうけることは理論的にはありえないように思えます。
 
 いずれにしても、権利拡大の方向性は明らかになったのですから早期の改正が望まれます。

 なお、経過措置について、
  ① 民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法
  ② 賃金等請求権の特殊性等も踏まえ、賃金等の債権の発生日を基準に考える 方法
 いずれにするかという論点がありますが、これについては、方向性は示されていません。
 
 2020年4月の民法改正施行が近くなってきました。早期の改正がなされることを期待します。

平成30年の過労死等の労災補償状況

 厚生労働省が、2019年6月28日、平成30年度の過労死等の労災補償状況を発表しました。

 以下、抜粋して引用します。

 

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況

(1)請求件数は877件で、前年度比37件の増となった。

(2)支給決定件数は238件で前年度比15件の減となり、うち死亡件数は前年度比10件減の82件であった。 

 

2 精神障害に関する事案の労災補償状況

(1)請求件数は1,820件で前年度比88件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比21件減の200件であった。

(2)支給決定件数は465件で前年度比41件の減となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比22件減の76件であった。

 

いずれも、請求件数が増えています。もっとも認定件数は減少しています。

特に自殺の認定率は、平成29年の47.1%から38.2%と大幅に減少しています。

認定を厳しくしているのではないか、疑いたくなります。

 

この傾向がつづくのか、一過性のものなのか、来年統計を注目していく必要があります。

 

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか

 未和 NHK記者はなぜ過労死したのか 尾崎孝史著 岩波書店

 

 読みました。

 

 未和さん亡くなる前の1か月の労働時間は、労基署の認定でも159時間。弁護士の計算では、209時間を超えていたようです。

 明らかな長時間労働。31歳の若さでなくなった本人。痛ましい話しです。

 

 この本は、NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わった映像制作者。写真家。

 多くの人への取材で、未和さんの亡くなる直前の労働実態を明らかにしていく前半は、NHK記者の仕事の内容が具体的に分かり、興味深いものでした。

 あの志布志事件 12人無罪の報道のときにNHK鹿児島放送局で、レポートをしたのも未和さんだったことがわかりました。

 

 明らかな労災であり、労基署が認定し、その後調停和解をしたこと、その際には公表しなかったこと、その後お母様が病気でしばらく動けない状態であったことなどの経過は、過労死事件の担当してきた当職にも経験があります。

 

 そして、そのNHKが、内部でも未和さんのことが知られておらず、決して働き方が変わったとは思えない状態であったことを知ったときの遺族の気持ち。残念だったでしょう。

 

 ご家族が公表した理由、そしてこの著者がこの本で伝えたかったことは、未和さんの死を無駄にしてほしくない。ということだと思います。

 それにもかかわらず、そのための対応が何もなされてないNHKへの怒りの気持ちを伝えたいということでしょう。氏名を公表してよく立ち上がられたと思います。

 そのことで、この本ができ、過労死の悲惨さがより世の中に伝わることになったのだと思います。

 

 未和さんが亡くなった長時間労働の原因は選挙の取材があったことでした。少しでも早く、他の放送局より早く当選確実をだすために、命まで犠牲にして取材をしなければならないのか。

 選挙のありかた、選挙報道のありかたについても、考えさせられました。

 

 未和さんには、「裁量労働制」がとられていましたた。つまり、労働時間によって賃金が変わらないのです。賃金が絡まなければ、労働時間の管理はどうしても甘くなります。それが長時間労働の温床です。時間をかけないと成果が上げにくい記者の仕事では、なおさらです。裁量労働制に問題があることも改めて感じました。

 

 とりとめもなく感想を書きました。この事件をとおして、いろいろな問題を知ることができました。

 おすすめしたい本です。

 

 

 

過労死110番 今年も行いました

 今年も6月15日に、過労死110番を行いました。

 全国34か所。

 愛知県では、水野幹男法律事務所でおこないました。

 事前の新聞報道でみたかたたなどから8件の電話相談がありました。

 

 ご家族が、毎日長時間労働をしているなど深刻な相談もよせられました。

 

 これからも過労死予防、過労死被害救済のために尽力する予定です。

民法改正と賃金債権の時効

賃金 給料 残業代

 厚生労働省は、労働基準法第115条における賃金等請求権の消滅時効の在り方について検討を行うため、学識経験者及び実務経験者の参集を求め、「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」を設置しています。

 

 この検討会の趣旨について、開催要項には、次のように記載があります。

 

 「一般債権の消滅時効については、民法(明治 29 年法律第 89 号)において、 10 年間の消滅時効期間及び使用人の給料に係る債権等の短期消滅時効期間が定められているところであるが、この規定については、今般、民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号。第 193 回国会において成立)によって、消滅時効の期間の統一化や短期消滅時効の廃止等が行われた。

 現行の労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)においては、労働者の保護と取引の安全の観点から、この民法に定められている消滅時効の特則として賃金等請求権の消滅時効期間の特例が定められており、今般の民法改正を踏まえてその在り方を検討する必要がある。」

 

 これまでは、民法で、使用人の給料についての消滅時効は1年と定められていました。(改正前民法173条) 労働基準法で、労働者の保護と取引安全の観点から、この1年を2年にしていたのです。(労働基準法115条)

 

 また、労働基準法は、災害補償の請求権も2年、退職金については5年と定められています。

 

 しかし、民法の改正で、短期消滅時効の特例が廃止されることになりました。短期消滅時効の趣旨は、比較的少額な債権は、時効期間を短期間にしてその権利関係を早期に決着させることにより、将来の紛争を防止するところにあると言われてきました。しかし、制定後、社会状況の変化によって多様な職業が出現し、取引内容も多様化するなどしたため、特例の対象とされた債権に類似するものも現れました。そうした債権には特例が適用されず、特例の対象債権との間で時効期間に大きな差が生じることから、特例自体の合理性に疑義が生じていました。このため、改正民法では、旧法170条から174条までに定められた職業別の短期消滅時効の特例及び商事消滅時効の特例を廃止したのです。(一問一答 民法(債権関係)改正・筒井健夫・村松秀樹編著 Q27・53頁)そして消滅時効は、「権利を行使することができることを知った時から5年」「権利を行使することができる時から10年」と定められました。

 

 このような民法改正の趣旨からすれば賃金について2年間の時効、労災補償についての2年の時効というのも廃止し、改正民法と同様にするべきではないかというのが問題の所在です。

 

 民法より長い時効期間を定めていたところ、その期間が民法よりも短くなってしまったのですから、民法改正の趣旨によれば、この期間も5年にするのが自然です。

 

 この点、検討会で、労働者側からは、5年にするべきであるという意見が出ています。

 第2回検討会で、日本労働弁護団の古川弁護士からは「改正後の民法を適用すべきで
ある。」という意見書が提出されています。また、第2回の検討会で労働契約に該当しない請負契約に基づく報酬請求権の時効消滅期間と均衡を取るべきであると考えます。」等を理由に改正民法を適用するように法改正するべきという意見を述べています。一方、経営法総会議の伊藤弁護士は、労働基準法115条の改正は必要ないという立場から意見を述べています。

 

 第5回検討会では、経団連、商工会議所などの使用者団体が同様に労働基準法115条の改正が必要ないという意見を述べています。労働団体である連合は、労基法115条を廃止し、民法の適用をするべきであるという意見を述べています。

 

 短期消滅時効は廃止するという民法改正の趣旨は、賃金にもあてはまります。また、労基法は、そもそも労働者保護にその趣旨があったというのであれば、民法改正あわせ、労働者の権利を拡張するのは当然のことです。

 労働弁護団の請負との比較で不均衡になるという指摘は、まさに改正民法の短期消滅時効を廃止するときの議論が当てはまります。

 

 これまで長時間労働でサービス残業してきた労働者が、最後の2年分の未払残業代しかもらえませんでした。改正民法によりそのほかの短期消滅時効は廃止されたのですから、改正民法と異なる2年という消滅時効制度を残すことは制度として大きな矛盾をはらむことになります。

 

 検討会は、当初平成30年夏を目途にとりまとめを行うと想定されていましたが、現在も検討会が続いています。

 

 この問題について、日本労働弁護団は、2018年7月に意見書を発表しています。また、2018年末、検討会に対し、早期に労基法115条の廃止、改正民法に従って消滅時効は判断されるべき等を内容とする申入書を検討会に提出しています。

 

いつの債権から適用されるか?

 ところで、改正されたとして、新法が定要されるまでの経過措置はどうなるでしょうか。この点、検討会の第2回で次のように説明があります。

 

 施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含むとされています。これを考えますと、施行日前に発生した賃金ではなくて、施行日前に締結した労働契約に基づいて発生した賃金については、施行日後についても旧民法の消滅時効が適用されるというように解釈するのが妥当ではないかなと思います。」 

 

 改正民法の附則からすれば、この指摘は改正民法と同じ考えかたになり、正当なように解されます。 

 

 ただ、これについては日本労働弁護団が、批判しています。

 「施行日直前に新たに労働契約を締結した労働者の賃金等請求権の消滅時効期間は、2年間に据え置かれ、この状態は労働契約が終了するまで長ければ40年間以上にわたり継続されることになる。」

 

  もう少し日本労働弁護団の申入書を引用してみます。

「そもそも、改正民法附則10条の趣旨は、「施行日前に債権が生じた場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者(債権者及び債務者)の予測可能性を害し、多数の債権を有する債権者にとって債権管理上の支障を生ずるおそれもある」(法制審議会民法(債権関係)部会資料85)というものである。

 

 このような趣旨からすれば、「原因である法律行為が施行日前にされたとき」とは、当該法律行為をした時点において請求権の内容、金額等が具体的に決定されており、施行日前に債権が生じた場合と同視できるような場合に限られるというべきである。

 

 賃金等請求権についてこれを見ると、労使間においては労働契約締結時に基本給等の金額について一定の合意はするものの、労働契約締結以降において就業規則または合意に基づいて降給・昇給がなされるのが通常であるし、賞与請求権については毎年の業績によって変動するのであって、労働契約締結時点において請求権の内容、金額等が具体化されているものとは言えない。さらに、雇用契約においては労務の提供が終わらなければ賃金請求権の額は確定せず、このため、民法は「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」(624条)と賃金後払い原則を定めており、この条項は民法改正後も維持される。

 

 とりわけ残業代請求権については、労働契約締結以後の個々の残業命令とそれに基づく業務遂行によって初めて請求権の内容、金額等が具体的に決定され明確になり、初めて具体的な賃金請求権が発生するものであって、労働契約締結そのものを「原因である法律行為」とするのはあまりに不自然・不合理な解釈というべきである。」

 

 たしかに、弁護士としても、相談に来た方に何年に会社と雇用契約締結したのですか、と確認しないと、請求できる残業代がどのくらい遡れるか分からないことになります。2020年よりまえに働いていたベテランは、仮に不当な賃金であって未払があったとしても今後も永久に2年しか遡れないのは不合理です。

 これでは、いろいろな期間の事項があると混乱するという短期消滅時効をなくした趣旨が当面実現されないことになります。労働契約のように継続的な契約で、かつ債権の発生時期は「給料日」としてはっきりしているものについて、契約時期によって改正法適用の有無を判断するのは適切ではないと考えられます。債権発生時期によって区別する方が合理的であると考えられます。生命・身体に関する時効期間は、施行の日に時効が完成していない場合には延長されます。これは債権者保護のためですが、賃金等の債権もこれと同じように解することもできるはずです。

 

 今後の議論が注目されます。

 

 議事録、関係資料は、下記で公開されています。

 平成31年4月25日の検討会の資料には、諸外国の賃金の時効制度、監督指導による賃金不払残業の是正結果の推移、賃金等に関する紛争はどのくらい起きているかなどの資料も掲載されており興味深いところです。

  

 厚生労働省 賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会

  

パワーハラスメントについて

パワーハラスメントの由来

 パワーハラスメントということばは、2001年、クオレ・シー・キューブ株式会社、の社長(当時)岡田康子さんが提唱した言葉でした。日本で作られた和製英語です。

 

裁判例に現れたパワーハラスメント

 「パワーハラスメント」という言葉が判決の中での指摘されるようになりました。

 たとえば、当職が担当した中部電力事件名古屋高等裁判所平成19年10月31日判決では次のような指摘がありました。

 

 前記認定のとおり,Fは,Aに対して「主任失格」 「おまえなんか,いてもいなくても同じだ 」などの文言を用いて感情的に叱責し かつ結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという独自の見解に基づいて,Aに対してのみ,8,9月ころと死亡の前週の複数回にわたって,結婚指輪を外すよう命じていたと認められる。これらは,何ら合理的理由のない,単なる厳しい指導の範疇を超えた,いわゆるパワー・ハラスメントとも評価されるものであり,一般的に相当程度心理的負荷の強い出来事と評価すべきである(判断基準も,心理的負荷の強い出来事として 「上司とのトラブルがあった」を上げている。 )。なお,控訴人は,指輪に関するの発言を聞いたAの反応に照らし,同人に心理的負荷を与えるような発言であったとは認められないと主張するが,出来事に対する対応の仕方は人により様々であり,明白に不快感を表明しなかったからといって,心理的負荷が軽いとは判断することができないことは言うまでもないし,前記認定のように,Aが「星の指輪」という歌を好み,カラオケで練習していたこと,Fの命令にもかかわらず,死亡の前日まで会社でも家庭でも指輪を外さず,自殺当日これを外して妻のドレッサーの小物入れに入れていったこと等からすると指輪に対する強いこだわりが見て取れるところである。 

 また一方,Fも,前記認定のとおり,死体確認の際 「いつも指輪をしていたよね 」と発言し,N に対して 「私の指導や指輪のことがAの死亡の原因だとすれば,私も身の振り方を考えなければいけないね 」 と話したことを認めていること等からすると,指輪のことが気に掛かっていたか,あるいは,指輪がAにとって大きな問題であることを察していたものと認められるのである。これらの事実からして,上記の控訴人の主張は採用することができない。(名古屋高等裁判所平成19年10月31日判決)

 

厚生労働省の示したパワーハラスメントの定義

 パワーハラスメントについて、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」は、次のように定義づけを行いました(2012年)。

 

 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング報告・5頁)

 

 ここで、「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれる。上司から部下へのいじめ・いやがらせだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものも含むとされています。

 

 一方、業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたらないとされています。

 

 パワーハラスメントは、以下の6類型が例示されていますが、これに限りません。

 (厚生労働省ホームページ明るい職場応援団)。  

 

  ア 身体的な攻撃 

    叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。  

 

  イ 精神的な攻撃

    同僚の目の前で叱責される。他の職員を宛先に含めてメールで罵倒する。

    必要以上に長時間にわたり、繰り返し執拗に叱る。  

 

  ウ 人間関係からの切り離し

    1人だけ別室に席を移される。

    強制的に自宅待機を命じられる。送別会に出席させない。  

 

  エ 過大な要求

    新人で仕事のやり方もわからないのに、他人の仕事まで押しつけられて、みな先

   に帰ってしまった。

    業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害。

 

   オ 過少な要求

    運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられる。

    事務職なのに倉庫業務だけを命じられる。

 

  カ 個の侵害

    交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。

 

 

岡田康子氏の指摘

 円卓会議ワーキング・グループ、及び円卓会議のメンバーで、パワーハラスメントということばを提唱した株式会社クオレ・シー・キューブの代表取締役の岡田康子氏は著書の中で、パワーハラスメントの特徴として次の点を指摘しています。  

  ア NOと言えない力関係がある  

  イ 侮辱された感覚を伴う  

  ウ 誰もが被害者にも加害者にもなる

  エ エスカレートする  

  オ 言語と非言語で行われる  

  (「パワーハラスメント」 日経文庫 )   

 

精神障害の認定基準

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5月1日 メーデー 参加

メーデー 愛知
メーデーの様子

 5月1日はメーデー。

 私は、労働弁護士として、毎回可能な限り、メーデーの集会に参加しています。

 ことしは、ささしま。

 

 メーデーは、5月1日に行われる国際的労働者祭。1886年アメリカ労働者の8時間労働制要求の示威運動が起源。1889年第2インターナショナル創立大会で決定。90年から世界各地で挙行。

 我が国では、1920年第1回を東京の上野公園で行い、1936年以後禁止。1946年復活。【参考 広辞苑】

 

 今年は、第1回から数えるとちょうど100年、しかし第90回。

 戦争前、戦争中の10年、メーデーの集会を行うことを禁止されていたからです。

 集会を行うことは、現在では憲法21条で保障されていますが、それも国家によって禁止することができるとは、怖い時代です。

 

 現在の労働者の権利をまもるために戦った先人が世界にいることを心に留めたいです。

  

民法改正 過労死事案の使用者に対する損害賠償請求の時効

過労死の場合の安全配慮義務違反の時効

 過労死事案の救済方法には、労災請求と使用者への損害賠償請求という方法があります。

 死亡事案の場合、労災請求の時効は5年。使用者への損害賠償請求については10年です(民法167条2項)。死亡した日の翌日から計算します。

 交通事故の場合には、事故の日の翌日から3年で時効になります(民法724条)。

 

 過労死事案の場合、まず、労災請求をし、労災が認定された後、使用者に対し損害賠償請求をすることがあります。

 労働基準監督署長が、労災と認めてくれれば、3年以内に損害賠償請求をすることもまにあいます。

 しかし、労災請求をするまでに時間がかかる場合もあります。労災請求をして認められず、審査請求、再審査請求をする場合もあります。 

 それでも認められず、行政訴訟を提起する場合もあります。高等裁判所、または最高裁判所でようやく結論が出る場合があります。10年近くかかる場合もあります。

 

 損害賠償請求は、労災が認定されてから行うこともよくあります。労災の手続きの結果が損害賠償請求権のありなしの参考にされるからです。

 

 名古屋市バス事件は、行政事件で名古屋高等裁判所で勝訴し、その裁判が確定した後に、損害賠償請求を提起しています。提訴したのは、息子さんが自死したときから9年をすぎていました。

民法改正と安全配慮違反の時効

 2020年4月、改正民法が施行されます。

 改正民法では、民法の債権の時効は「権利を行使することができることを知ったとき」から5年で時効になると定められました。(改正民法166条)

 

 過労死事案の死亡事案の場合、死亡した日が、「権利を行使することができることを知ったとき」になるでしょう。

 

 日弁連編集の「実務解説 改正債権法」(2018年・弘文堂)では「ただし、とりわけ労働契約上の安全配慮義務違反や医療過誤に基づく生命・身体の侵害など債務不履行による損害賠償請求については、そのような侵害が発生して確定したことが明らかな場合は、改正前民法に比べ、そのことを知った時から5年間で時効消滅する(民法166条1項1号)点で短期化しているので注意が必要である。」とされています。安全配慮義務違反のように権利行使をできることをが明らかな場合には、時効期間がこれまでの10年から5年に変わるのです。

 

 なお、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特例に関する規程が定められ、不法行為に基づく損害賠償請求をする場合も時効期間は5年とされました。

 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求については、債務不履行を根拠にする場合も、不法行為を根拠にする場合にも「知ったとき」から5年で時効になるとされたのです。

 

 冒頭の述べたとおり、労災申請をしている間に5年の時効期間はすぐに来てしまいます。

 損害賠償請求と労災認定訴訟を同時に提訴をしなければならないケースが多くなるかも知れません。

 

経過措置

 それでは、現在発生している過労死事件については、いつの法律が適用されるのでしょうか。

 これは、次のように定められています。

 

 「施行日前に債権が生じた場合」又は「施行日前に債権発生の原因である法律行為がされた場合」には、その債権の消滅時効期間については、原則として, 改正前の民法が適用されます。

 

 雇用契約の使用者が安全配慮義務を怠ったことによって労働災害が発生した場合における労働者の使用者に対する損害賠償請求権(債務不履行)については、労働契約が「原因である法律行為」にあたるので、契約締結時が基準となると解されるようです(一問一答民法(債権関係)改正)

 したがって、過労死事件が発生した使用者との雇用契約が2020年4月1日より前であれば、死亡や労災による事故、病気が発症したのが2020年4月1日以降であっても、時効は旧民法が適用され10年となります。

 ただし、中間利息の控除、利率については、改正民法施行日以降に死亡や労災による事故、病気が発症した場合には新法が適用されることになります(附則第17条第2項)

 

 一方で、人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求の短期の権利消滅期間を5年とする特則を設ける改正については、新法の施行日(2020年4月1日)において消滅時効がすでに完成した場合でなければ、新法が適用されます(附則第35条2項)。

  

となるように考えられます。

 

 いつ、会社に入社したか、いつ事件が起きたのかの両方で、時効期間、法定利息、中間利息控除に違いが生じることになります。下に志望事案についてその関係をまとめてみました。

(この記載について責任を持つものではありませんし、正確性を期すためには、さらに説明が必要なので、各自法改正についてはご自身で確認してください。)

 

労働契約締結時期 死亡 中間利息控除 法定利率※ 時効
2020年4月1日より前 2020年4月1日より前 旧民法 旧民法 旧民法(不法行為3年 債務不履行10年)
2020年4月より前 2020年4月1日以降 改正民法 改正民法 債務不履行 旧民法(10年) 不法行為 新民法(但し時効完成していない場合)(5年)
2020年4月1日以降 2020年4月1日以降 改正民法 改正民法 改正民法(不法行為5年 債務不履行5年)

 ※旧民法 5%  改正民法3%

民法改正 法定利率の改正と損害額

 2020年、改正民法が施行されます。

 現在の法定利率が5%から3%になります。(その後、市中金利によって変動することが予定されています)

 

 それでは、交通事故、過労死等、被害者が亡くなったり、後遺障害を負ったりした場合にについて、使用者に損害賠償請求をすることにどのような影響があるのでしょうか。

 

 結論からいえば、損害賠償請求額は増額になります。

 

 その理由は、中間利息控除が減るからです。

 「中間利息控除」とは、不法行為等による損害賠償において死亡被害者の逸失利益を算定するに当たり、将来得たであろう収入から運用益を控除することです。この控除の割合は法定利率(年5%)によるというのが最高裁判決です(最判平成17年6月14日)。

 

 改正民法では、 中間利息控除も法定利率によると定められました。(改正民法 722条1項)

 

 そうすると、控除される金額が少なくなります。

 法務省のホームページにある例を紹介します。

 

 22歳のサラリーマンが死亡した事案

 ※損害額算定の基礎となる数値等について、稼働可能年数は67歳と認定、生活費控除率は0.5と認定、基礎収入は賃金センサス(平成24年)の大卒男子の全年齢平均を採用、弁護士費用は1割と認定、支払時まで事故時から2年と想定 。

 現在の民法を前提に計算すると損害額は約1億円程度になりますが、改正法を前提に計算すると合計約1億2000万円程度になります。

 改正法を前提に計算すると逸失利益が約2100万円程度増えます。そのため、弁護士費用も100万円程度増えます。2年間の利息が200万円程度減ることになります。それでも2000万円程度、損害額が増額になります。

 

 もともと、法定利率は、民法制定当時の市中の金利を前提としたもの でした。現在の低金利時代になり、金利が低くなっているので、裁判で利息が認められると一件通常よりも高額な利息が付き、請求している側は、得をしているように感じます。

 しかし、実際には中間利息控除も、市中金利よりも高い金利で差し引かれていたのです。つまり、交通事故や過労死で死亡した遺族側が請求する損害額は、少なめに抑えられていたのです。

 

 法定利息が変更になると、請求する側はこれまでよりも多い計算で請求できることになります。

 

改正前、改正後はどうやって区別するか

 それでは、2019年4月現在、すでに損害賠償請求ができる場合、つまりご家族が死亡したり、自分が後遺障害を負っていて逸失利益を請求できる状態にあるひとが、2020年4月1日の民法改正が施行されるのをまって、それから請求すれば、より高額な請求が出来るのでしょうか?

 

 施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合の遅延損害金の額は、改正前の民法における法定利率によって定められることとなります。 施行日前に損害賠償請求権が発生した場合には,中間利息の控除に用いる法定利率については,改正前の民法が適用されます。

 

 その結果、死亡した日、負傷や病気を発症した日が、2020年3月31日の場合には、改正前の民法の適用になります。2010年4月になるを待ってから請求しても、変わらないことになります。

 時間が経てば、記録が散逸したり、当事者の記憶も曖昧になり、責任を追及しにくくなる可能性があります。待っていないで、早く請求をして払ってもらう方がよいということになります。

 

参考 法務省ホームページ

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について

 

働き方改革法施行

  2019年4月、働き改革法案が一部施行されました。今後順次施行されていきます。

 

  1. 働き方改革第一の柱 

 働き方改革法の第一の柱は、労働時間の見直しです。 内容として以下の点があります。

  ⑴ 残業時間の上限を規制する

  ⑵ 「勤務間インターバル」制度の導入を促す

  ⑶ 年期有給休暇の取得を企業に義務づけ

  ⑷ 月60時間を越える残業は、割増賃金を引き上げる 

  ⑸ 労働時間の状況を客観的に把握するように、企業に義務づける

  ⑹ 「フレックスタイム制」により働きやすくするため、制度を拡充  

  ⑺ 「高度プロフェッショナル制度」を新設 

  以下、⑴,⑶,⑷について解説します。

 

 2.残業時間の上限規制

 

 残業時間の上限を規制するというのは、不十分ですが、労働基準法の大改革だとされています。

 そもそも、「大改革」がなされた理由は以下のようなものです。労働基準法では労働時間の原則は1日8時間、1週間40時間とされています。法は、それ以上は働いてはいけないとされています。その趣旨は、長時間労働で健康を害さないようにするためです。

 しかし、この原則だけだと不都合な点もあります。労働者の中にも、それ以外の時間も働いてもっと収入を得たいという人がいるかもしれません。使用者は、仕事に慣れた人にもう少し働いてもらう方が、人を増やすより都合がよい場合があるかも知れません。  

 そこで、労働基準法36条は、労働者と使用者が労基法36条の条件に合った協定を結んだ場合には例外的に残業をすることができる、違法とはならないとしているのです。ただしその場合には割増賃金を支払わなければなりません。

 時間外の割増率は以下のとおりです。

 時間外 1.25   休日 1.35  深夜1.25      

 割増賃金を支払う趣旨は、過度な時間外労働や休日労働を抑制するところにありました。

 しかし、このような例外を設けたら実際に不都合なことがおきました。36協定例外の規制が緩く、長時間労働による過労、健康被害、離職、過労死、過労自殺 が社会問題になったのです。

 電通の髙橋まつりさんの事件等はまだ記憶に新しいところです。

 

 見直しの概要は、法律で残業時間の上限を定め、これを超える残業はできなくなるというものです。

 原則は、月45時間 、年360時間。臨時的な事情があって労使が合意する場合も年720時間、複数月平均80時間以内(休日労働含む)、月100時間未満(休日労働を含む)となっています。

 45時間を超えることができるのは年間6か月までです。

 守らないときには罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)の可能性があります。

 大企業は、2019年4月から、中小企業も2020年からこの改正法が適用されます 。

 医師、建設業、自動車運転は2024年からです。この点、施行されるまでのあいだに健康を害する人が生まれるのではないかと心配です。

 

 

 3. 年5日の年次有給休暇の取得を、企業に義務づける

 

 現在、有給休暇の法廷付与日数は、以下のとおりです。

   

 

勤続年数

6か月

16か月

26か月

36か月

46か月

56か月

66か月

年次有給休暇付与日数

10

11

12

14

16

18

20

 

 

 有給休暇は、労働者の健康で文化的生活に資するために、労働者に対し、休日のほかに毎年一定日数の休暇を有給で保障する制度です。しかし、年間の有給休暇の取得率が低いこと。その原因は、労働者が有給休暇の申し出をしにくいことにありました。そこで、使用者側から、労働者の希望を聞いて年間5日は有給休暇を取ってもらうことになりました。

 

 

 

 4 月60時間をこえる残業は、割増賃金を引き上げる【資料10

 

 

  割増賃金は、以下の2つの趣旨で支払うことになっています。

 

   ① 使用者に割増賃金を支払わせることによって時間外労働等を抑制しする

 

   ② 通常の労働時間又は労働日に付加された特別な労働なのでそれに対しては一定の補償をさせる。

    しかし、それでも長時間労働はなくなりません。そこで、月60時間をこえる場合には割増賃金を1.5倍支払うことになっています。これは、特に長い長時間労働を抑制するためです。現段階では、中小企業には適用しないことになっています。しかし、2023年からこの制限はなくなります。

  どんな使用者も月60時間を超えた場合には1.5倍の割増賃金を支払わなければなりません。

 

5 働き方改革

    働き方改革のもっとも大きな目的は長時間労働の抑制です。このなかに「高度プロフェッショナル制度」が含まれています。このため、過労死を考える家族の会は。強く反対していました。

    時間外労働の抑制は十分とはいえません。

    それでも、法律で時間外労働の上限が定められ、これまでより規制が厳しくなったことは。確かです。各使用者がこれをふまえて、長時間労働をなくすための工夫をしていくことを期待したいと思います。

 

 

過労死 その仕事、命より大切ですか

過労死 その仕事、命より大切ですか 牧内昇平

 朝日新聞記者の牧内昇平さんの著書。過労死、その仕事、命より大切ですか を読みました。

 すこしだけ、協力をさせていただいたので著者の牧内さんから献本していただきました。感謝です。

 

 お礼をかねて、本の紹介をします。

 

 この本では11の事例が紹介されています。

 

 それぞれの事例は、新聞記者である牧内さんの視点から紹介されています。

 

 弁護士の視点では気がつかない、遺族の言葉。気持ち。過労死,過労自殺を生み出す社会の問題点を具体的に指摘しています。

 

 コラムや、事例の紹介の間に、過労死、過労自殺の労災の仕組みなどにも触れ、全体として過労死の問題を網羅的に知ることもできます。過労死の問題にとどまらず、固定残業代など労働一般に関する問題にも触れられています。

 

 新聞記者の書いた文書ですので分かりやすい。

 しかも、NHK記者の過労死の記事などは、自分の労働にも引きつけて感想ものべられていて親しみやすい内容にもなっています。

 パワハラの加害者や、過労死を興した企業に対する取材もしており、その内容も紹介するなど踏み込んだ内容にもなっています。

 

 とりあげられた事例の中には、労災と認められなかった事案も含まれていました。

 行政訴訟の1審で勝訴しながら、高裁で逆転敗訴し、最高裁でも認められず、損害賠償請求訴訟でも敗訴だったという事例。本当に、苦労されたし、無念だったと思います。

 労災と認定される事例は紹介されますが、労災と認められない残念な事例は、なかなか紹介されません。しかし、認められない事例こそ、過労死問題の問題点を示しているといえます。このような、事件報道では取り上げられることが少ない事例を取り上げて紹介していることも意義を感じます。

 

 また、和解した事例もとりあげられています。和解の事案は、判決文が作成されないので、判例集などにも載らず、事案の経過が知られない場合もあります。そういう意味で和解の内容やそこに至る経過を取材し、本になるのは、記録としても貴重なものといえます。

 

 個人的には、岐阜県庁の事件では、いつもご遺族を励まし、支え、証拠を集めて戦ってくださった岐阜県職員組合の内記淳司さんが紹介されていることが嬉しかったです。私も大変お世話になりました。

 

 この本を作成するためには膨大な取材が必要だったでしょう。家族は様々な事情で、皆が取材に応じられるわけではありません。大変な苦労があったと思います。

 

 ぜひ、これを読んで過労死、過労自殺の問題を知ってもらいたいと思います。

 

 ご自身が、過労で病気したり、ご家族が過労で死亡したりした場合にも、参考になることがたくさん載っています。そういう方の元にも届くといいと思います。

 

 多くの人に手に取ってもらいたい本です。

 

 

岐阜 過労死をなくす会

 2019年3月16日土曜日、岐阜市内で、過労死をなくす会の設立総会・記念行事が行われました。

 この会は、岐阜市役所で2007年11月に自死をした伊藤哲さんの配偶者、伊藤左紀子さんが公務災害訴訟において、公務災害認定をする勝訴判決を得た後、伊藤左紀子さんを中心に検討してきた会です。

 

 会は、①過労死等防止のための各種啓発活動②過労死遺族の支援・精神的ケア③自治体を中心とした労働時間・ハラスメント等の実態調査などを考えています。

 

 会は、弁護士、医師、労働組合役員、経営者などにも参加を呼び掛けるだけでなく、市会議員、県会議員など地方議員にも参加を呼び掛け、幅広い人と一緒に過労死をなくす運動を目指しています。

 

 

 

 当日は、私も基調報告として、伊藤さんの裁判の経過、支援する会が、遺族を励まし、世論を作るとともに、運動の中で情報を集め、議論することで説得的な裁判の主張をすることにも大きく影響したことを報告しました。

 

 過労死をなくす会は、過労死をなくすこと、遺族の支援もするとしています。岐阜にこのような会ができたことは本当によいことです。

 会の準備段階で、自治体にアンケートした結果によれば、2017年1年間で、岐阜県の市町村で、脳・心臓疾患で死亡した人は4人、自死が4人いたそうです。

 

 これらの中には公務災害の可能性があるものもあるかも知れません。しかし、公務災害の請求をした方はおられないようです。

 

 もし、公務災害であるのに、請求を躊躇しているという事情があるのであれば、相談して欲しいと思います。そのために、過労死をなくす会 の存在が、きっかけになってもらうといいと考えています。

 

 死亡したかたの公務災害、労災の認定を求めたり、企業や行政の責任追及をしているだけでは過労死はなくなりません。過労死を予防するためにもこの会が大きな役割を果たすことを期待したいと思います。

 

 過労死をなくす会が、過労死の問題でこまっている人の役に立つことを祈念しています。

水戸 偕楽園に行ってきました

 先週、弁護士会の会議があり、水戸の偕楽園に立ち寄りました。

 有名な梅をみました。

 梅は枝振りがいいですね。桜とはちがった美しさがあります。

 

 会議も有意義でした。水戸は愛知からは遠いように思っていましたが、名古屋駅からは約3時間。意外に近いことが分かりました。

2019年明けましておめでとうございます

2019年1月1日 イノシシ 謹賀新年 神宮西駅

 2019年明けましておめでとうございます。

 昨年、過労死弁護団全国連絡会議は満30年でした。

 過労死、過労自殺の認定基準について、意見書を作成して厚生労働省に提出しました。

 

 いまも過労死、過労自殺の事件が多く報道されています。

 過労死等防止対策推進法にもとづく過労死防止シンポや、過労死啓発授業で、過労死のことをお話しさせていただく機会を持つことができました。過労死の事件がまだまだなくならず、また、厳しい労働実態にある職場があることをききます。

 まだまだ足りませんが、地道に積み重ねていきたいと思います。

 

 昨年は問題がありながら働き方改革関連法案が通過しました。

 労働時間の上限が定められました。実際にこの法律が守られるように期待します。

 

 今年判決が予定されている事件があります。また、今年がいよいよ山場の裁判事件があります。

 一つ一つが良い結果に結びつくように、そして、それが過労死防止に結びつくように、尽力していきたいと考えております。

 

 本年もどうぞよろしくお願いします。

 

2018年 1年間ありがとうございました

大阪地方裁判所 大阪高等裁判所

 2018年の業務も終了しました。

 今年最後に裁判所に出廷したのは、12月25日の大阪高裁でした。

 

 1年間、多くのかたに支えられて終えることができました。

 充実した一年をス超すことができました。

 

 ありがとうございました。

 

 2019年、2018年に積み重ねたことがさらに発展するように進んでいきたいと思います。

 

中部大学 法律カフェ

法律カフェ 中部大学 愛知学院大学 田中淳子 岩井羊一 弁護士 ブラックバイト

 愛知学院大学法務支援センター教授として、中部大学の法律カフェの講師をしてきました。

 題して「これってブラックバイト?」

 

 中部大学の学生さんと一緒に、ブラックバイトの問題をとうして法律を学ぶ、という企画です。

 中部大学のコモンズセンターの法律カフェ。わたしも2回目の登場です。

 

 愛知学院大学の田中淳子先生が、事例を作ってくださり、それを学生さんと一緒に考えました。

 また、事前にいただいた質問にわたしが、実務家、弁護士として回答しました。

 

 学生さんからいただいた質問はこちらの壁。

 法律問題からそうでないものまで。

 今の学生さんのかかえているアルバイトの悩みがわかって、こちらも勉強になりました。

 相談窓口として 

 ブラックバイト弁護団のTwitter  

    というのもあります。

  困ったら相談しましょう。

 

2018 過労死等防止対策推進シンポジウム 愛知会場

 今日は、過労死等防止対策推進シンポジウム愛知会場が開催されました。

 

 厚生労働省主催。

 

 内容は、労働局の挨拶、猿田正機中京大学名誉教授の講演、能村盛隆大和ハウス工業株式会社 経営管理本部 執行役員人事部長 のお話し。

 

 そして、田巻紘子弁護士、猿田教授、能村さんのパネルディスカッション。

 

 おわりに、過労死遺族の吉田さんのお話。

 

 閉会の挨拶は私がさせていただきました。

 

 企画から参加しましたが、良い内容になったと思います。

  会場の質問を質問用紙で集めたのですが、たくさんの質問がありました。長時間労働を見直さなければならない。その総論は賛成でも、現場は簡単にいかないと悩んでいます。今回は、スウェーデンでは、そして、大和ハウスでは、どう考えて取り組んでいるか。それをパネルディスカンションで取り上げてもらい話してもらいました。日本では難しいのではないか、大企業の取組は中小企業では難しいのではないか、具体的な質問がありました。

 質問を募集したために、参加した皆さんも、聞きたいことが聞けたシンポになったのではないかと思っています。

 

 そして、労働時間短縮。難しいことですが、スウェーデンでも、日本でも、発想を転換すれば、そして、本気で取り組めば実現できる!というメッセージになったと思います。

 

 さらに、最後に遺族のお話をお聞きし、難しくても、命を守るためにはやらなければならないことだと確認できたと思います。

 

 わたしは、岐阜と愛知のシンポに出席しました。

 このようなシンポが全国の都道府県で行われています。

 

 当日はNHKのニュースで報道されました。一分半程度のニュースですが、多くのこの地域の人が見てくれたと思います。過労死は防止しなければならない。そのようなシンポが、この啓発月間の11月に日本のあちことでいわれていること。チラシ、報道でみんなが認識すること。これらの啓発活動が過労死等防止の一歩になればと思います。

 

 

 公害

 薬害

 交通事故

 自殺

 生活習慣病

 ガン

 

 そのほか、いろんな病気で若くして命を失うような悲しい問題があります。

 

 日本中でその一つ一つの問題について、啓発し、責任を追及し、取り組んで少なくすることができています。

 

 過労死等もきっと無くすことができると信じたいです。

 このような一つ一つの集会が、過労死等をなくすために力になっていくと信じたいです。

法律相談のための面接技法入門

 11月17日、私が所属する愛知学院大学法務支援センター(旧法科大学院)と、早稲田大学大学院法務研究科の連携事業として、早稲田大学大学院法務研究科の菅原郁夫教授をお迎えして、「法律相談のための面接技法」というセミナーを行いました。

 

 今日は、若手の弁護士に、摸擬法律相談を行ってもらい、その実施した内容について摸擬相談者の感想を聞きながら、相談の技法を学ぶというものでした。

 

 医師の世界でも、診療の面冊技法を学ぶカリキュラムがあり、今日の摸擬相談もそれを応用したものだとのこと。

 

 2016年民事訴訟利用者調査によれば、弁護真の満足度を判断するのに重要だった要素は

 1 言い分を十分に聞いてくれたと思う

 2 信頼できる人物だと思った

 3 熱心に弁護士してくれたと思う

 だそうです。

 

 私たち弁護士は、依頼者の希望する法的サービスを提供することが、満足につながると思ってきましたが、そのまえに話をよく聞く、信頼をしてもらうことが大切だと、あらためて知らされました。

 

 法律相談で、専門的な知識や判断を提供することはもちろんですが、私たち弁護士が相談者に満足できる相談を提供したいとおもいます。

 

 

 (写真は、本日のセミナーのひとコマ)

 2013年の調査、全国928人の調査のうち法律問題で弁護士に接触した70人の回答。弁護士へのアクセス経路の実際は、テレビコマーシャルやインターネットは少なく、また弁護士会の法律相談センターや電話帳などもあまり多くない。親戚、知人の紹介が37.1パーセント。これにもとから知っていた、会社の顧問弁護士、職場での紹介など何らかの紹介でアクセスした合計が72.9パーセント。

 弁護士へのアクセスは口コミがまだまだ大きな割合を占めているようです。