電話番号は当日しかつながりません。
毎年6月に行っている過労死110番。今年は、「過労死・ハラスメント・コロナ労災110番」としておこないます。
昨年から全国一斉、フリーダイヤルで行っています。電話料も相談料も無料です。
東海地方では、愛知県、岐阜県、三重県にそれぞれ窓口があります。上記に電話していただければお住まいの県の担当者につながります。
パワハラ防止措置が、中小企業の事業主にも義務化されました。
2022年4月1日、「労働施策総合推進法」によるパワーハラスメント防止措置が、それまでの大企業への適用だったところ、中小企業の事業主を含めてすえべての事業主の義務となったのです。
職場におけるハラスメントを防止するために、事業主がおこなわないといけないことは、法及び指針に定められています。事業主はこれらを実施しなければなりません。
1.事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること
2.相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
3.相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
4.相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
5.業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
これらの措置は、業種・規模に関わらず、すべての事業主に義務付けられています。
パワーハラスメントにあったときには、違法であり、慰謝料請求の対象となります。
また、パワーハラスメントにあったことにより、精神障害になり、通院、休養が必要となったときには、損害賠償の対象となり、事業主の責任を問うことができます。
しかし、実際には、パワーハラスメントが行われていないと争われたり、事実はあったがそれはパワーハラスメントと評価できないと争われたり、精神障害を発病させるほどひどいパワーハラスメントではないと争われることもあります。
パワーハラスメントが行われたことだけで慰謝料を請求しようとしても、その金額は大きくなく、実際に損害賠償請求することは、多くの場合に現実的ではありません。
一方で、パワーハラスメントと訴えられる前にパワーハラスメントで精神障害を発病し自殺に至る場合もあります。パワーハラスメント自体は精神障害を発病させるほどひどいものではなかったとしても、長時間労働や、困難な業務を命じられていて、それらが合わさって精神障害となり、不幸にも自殺してしまうケースもあります。
パワーハラスメントの対応が適切ではないことで二次的な被害として精神障害を発病させてしまうこともあり得ます。
パワーハラスメントはいけない、と言っているだけではこのような被害はなくせません。又、一旦起こってしまってもすべてが救済されるとも限りません。
ですから、パワーハラスメントが行われる前に、パワーハラスメントを誰もが起こさないように措置を講ずる必要があります。
あるいは行われてしまったときにも迅速に、適切な対応する必要があります。
今回の法律改正は、このような被害をなくすためのものです。
法律で規制されましたから、啓発もされますし、具体的な行政指導の根拠もできました。
パワーハラスメントで悩む人が居なくなるように、この法律改正が第一歩となり、さらなる対策が進められることを期待します。
3月も残り少なくなってきました。
2022年4月1日から18歳が成人になります。この日、18歳、19歳の方が一気に成人と扱われます。
毎日20歳の誕生日を迎える人が成人になっていたのに、この4月1日に突然多くの人が成人になるのは不思議な感じがします。
携帯電話の契約、新生活をはじめるときのアパートの契約、自動車の購入やローンの契約など、親の同意がなければ、実際にはできなかったことが、自由にできるようになります。
早く自立したいと思っていた若い人達には朗報です。
裁判員にもなることができるようになります。
これまで、選挙だけでしたが、多くのことが1人前の大人としてあつかわれることになります。
(飲酒、喫煙などはこれまでと同様20歳を過ぎてからですから、誤解がないように。)
一方で、今まで、未成年だから契約した後で取り消せるという法律の扱いがなくなることになります。
不利な契約をさせられて被害にあわないように気をつけてほしいと思います。
もっとも、いわゆる悪徳商法や、オレオレ詐欺などを含む特殊詐欺は、大人も狙われてきました。18歳、19歳の方だけでなく、社会全体が、気をつけて、こういう被害に遭わないようにしたいと思います。
また、いわゆる悪徳商法といわれるものについては、消費者を保護するための法律があり、契約をしてしまってからも解除する方法がある場合もあります。諦めずに相談機関に相談することをおすすめします。
2022年1月31日、トヨタ自動車株式会社で勤務していた男性の遺族が、2010年におきた男性の自殺に関して、トヨタ自動車株式会社と訴訟外で和解したことを発表した。
翌日の地元の中日新聞は、そのことを一面トップで大きく報じた。
本当に良かったと思う。ご遺族は11年も戦ってこられた。
労基署は労災と認めず、提訴したものの1審では敗訴であった。
つい昨年高等裁判所で逆転勝訴するまで10年間、負け続けた。
心が折れそうになったのではないかと想像する。
新聞報道によると、トヨタ自動車が謝罪し、和解したのは、行政の高裁判決があったからではあるが、それだけではないらしい。
高裁判決をうけて、会社内で調査し、パワーハラスメントの事実について遺族に伝えたとある。調査の結果も、トヨタ自動車が責任を認めなければならないないようだったのであろう。
もし、高裁判決が1審判決とおなじように、原告敗訴で終わっていたら、再度の調査もなく、真実がわからないままだったかも知れない。社長が謝ることがなかったかもしれない。
ご遺族と弁護団の諦めないでやり抜いたことが、裁判所を動かし、そしてトヨタを動かしたのだと思う。
亡くなられた男性の方に謹んで哀悼の意を表したい。そしてその死を教訓に、労働環境の改善がなされようとしていることを信じたい。
2021年9月14日、過労死の認定基準が改定されました。
20年ぶりの改定でした。
ただし、いわゆる過労死ライン(直前の1か月100時間、直前の6か月の平均が80時間)が変わることはありませんでした。
過労死弁護団全国連絡会議のコメントは下記のリンクの通りです。
過労死110番 | いわゆる脳心臓疾患の労災認定認定基準改定についてコメントを出しました (karoshi.jp)
私個人としても過労死ラインについて見直されなかったのは残念です。このラインにわずかに届かないために労災認定されない事案もありました。
ただし、労働時間以外の要素がより細かく認められたことは評価できます。これによって、時間が100時間、80時間に届かない事例でも一定の場合に労災認定がなされることになりました。
これを踏まえて、労災認定を目指したいと思います。
2021年12月から、精神障害の認定基準についての専門検討会が始まりました。こちらも注目です。
明けましておめでとうございます。
昨年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、行動様式が変わったままの一年でした。
しかしながら、2年目で、弁護士の業務自体は、新しいやりかたで対応をしてきました。
法律相談、打ち合わせはかならず、マスク着用のままでお願いしました。
当事務所では、アクリル板を設定しないかわりに、CO2測定器を打ち合わせ室に備えて、常に換気の状況を見えるようにしております。
裁判は、弁論準備については、裁判所に行かずに、Web会議になりました。これによより、感染を予防しながら裁判が続行されました。
裁判員裁判は、法廷で行われましたが、マスクをしながら、対応しました。
民事の証人尋問も同様です。傍聴席が、一つおきになったり、マスク着用が必須になったりしていますが、裁判も動いています。
大学での授業も担当していますが、今年は、オンラインも取り入れつつ、学生さんに直接教室で授業をすることができました。
弁護士会の会議は、zoomで行われることが多くなりました。直接会って話すことができない分、特に人数の多い会議では発言はしにくいのですが、少人数の場合には、集まるのとそれほど変わらない感覚で会議ができました。移動時間がないこと、感染については安全であることメリットです。
コロナ禍がおわっても、これらの機器をもちいてハイブリッドで会議に参加するやり方は続けられると考えられます。
飲み会がなくなり、弁護士同士、友人、知人のあつまりすべてが疎遠になっています。そういうところで人間関係や仕事に少し変化が出ているかも知れません。
スマホの歩数計によると、2019年、2020年、2021年の1日に歩いた平均歩数を数えると、少しずつ減っています。こちらのほうが、意識して健康の維持にもつとめていきたいと思います。
残念ながら、世界ではまだコロナウイルスの感染状況は収束して居らず、あらたにオミクロン株という変異株が、広がっています。
まず、コロナウイルスの感染に気をつけて手洗い、換気に注意し、マスクを着用し、感染の可能性のある接触をしないように、気をつけて過ごしていきたいと思います。
そして、この生活は、まだ続くかも知れないことを頭に入れてすごしていきたいとおもいます。
また残念ながら、過労死の事件は起きています。それはこの新型コロナウイルスの影響を受ける前からの原因であったりするものもあります。コロナウイルスの影響するものがあります。そして、過労死の事件は時間がかかることが多く、コロナウイルスの感染の前に亡くなった方の事件も進んでいきます。
一つ、一つ解決へ向けて、必要なことを進めていきたいとおもいます。
過労死事件は、ことし判決や、行政の判断が予定されているものがあります。
適切な判断がなされるように期待しているところです。
加えて、昨年の脳・心臓疾患の労災認定基準が改定されました。今年は、精神障害の労災の認定基準の改定のために専門検討会が始まりました。過労死弁護団全国連絡会議では2018年に改定の意見書を求めているところです。この意見書の意見を取り入れて改定されるかどうか、専門検討会の議論の経過をしっかり見ていこうと思います。
ことし1年。私が担当していないのですが、愛知県では、名古屋高裁の4月28日判決、9月14日判決がありました。いずれも、1審では労災と認められなかった事件が、高等裁判所で判断が覆りました。希望がもてる判断だと思います。
近年、認定基準の改定により、1980年代、90年代の事案に比べて、過労死等の認定はされやすくなりました。一方で裁判所の判断は画一的になってきており、行政の主張を追認するようになってきました。裁判で勝利することは難しくなっています。
そのなかで、この二つの判決は、理性的な判断で、行政の政策的な判断を覆し、司法の本来の意義を果たした判決といえます。
私自身も、労災認定を得て記者会見をできた事件もありました。
また、長く争ってきた過労死事件がいくつか解決しました。ご家族にとっては、大切な人が亡くなったことにかわりがありませんが、一つの区切りにして進んでいっていただければと思います。
一方で、新たな事件の相談もありました。今年、亡くなった方の事件もありました。過労死がなくなっていかないことを残念に思います。救済のために尽力したいと思います。
引き続き判断を待っている事件があります。年度末に向けて、良い判断がなされるようにと願っています。
脳・心臓疾患の認定基準が改定されました。これまでよりも、労働時間以外の事情も考慮される内容になっています。これを生かして判断してもらうように努力していきたいです。
さらに、精神障害の認定基準の専門検討会が始まりました。これまでの認定基準に不当なところが改定されるように努力していこうと思っています。
これらの認定基準の改定により、救済されるべき人が、早期に救済されなければなりません。
名古屋高等裁判所は2021年(令和3年)9月16日、トヨタ自動車の従業員が自殺下事件について、労災と認めなかった名古屋地方裁判所の判決と取消し、豊田労基署長の労災と認めなかった判断を取り消す判断をした。
労災だと訴えていた遺族の訴えを認めて逆転勝訴をさせた。
私は、弁護団ではなく、この事件については詳細は把握していないが、諦めないで、裁判を戦ったご遺族の方、そして、弁護団の水野幹男弁護士、梅村浩司弁護士、加計奈美弁護士に心から敬意を表したい。
この労働者の自殺は2010年(平成22年)のことであるから11年が経過して、ようやく労災であると認められたのであり、ご遺族の苦労は計り知れない。
判決では業務に関して次のような心理的負荷が指摘されている。
「達成は容易ではないものの、客観的にみて努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った。」と評価できることが「中」
「弱」であるが、他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があったと考えられる出来事がある。
はじめての海外業務を担当することについて「仕事の内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷があった。(心理的負荷としては「中」相当)
そして、パワーハラスメントについては次のように認定されている。
グループ長から、他の従業員の面前で、大きな声で叱責されたり、室長からも、同じフロアの多くの従業員に聞こえるほど大きな声で叱りつけられたりするようなことは,軽視できない。同様な叱責を受けていた○○をして、後日、本件会社の退職を決意させる有力な理由となるほどのものである。
このような事実を否定したグループ長、室長の証言は、他の証言等を理由に信用できないと退けられている。
そして、このパワハラを、2020年に改定された精神障害の労災の認定基準に当てはめをして
「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり、その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」と評価されるのが相当である。
と判示した。
さらに、その叱責は少なくともグループ長から週1回程度、室長から2週間に1回程度だったと認定している。
心理的負荷については、次のように判断している。
個々的にみれば「中」には相当する。
それらの精神的攻撃は、グループ長のみならず、室長からも加えられている。
そして、これらの行為は、平成20年末頃から本件労働者が発病に至るまで(発病は平成21年10月頃とされている)反復、継続されている。
判決は、これらの事実を踏まえ、
一体のものとして評価し、継続する状況は心理的負荷が高まるものとして評価するならば、上司からの一連の言動についての心理的負荷は、「強」に相当する。
と判断している。
判決は、
上記の出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度の精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。
と判示した。
この事案、リーマンショックの後で、時間外労働は厳しく制限しており、当該労働者もほとんど時間外労働は行っていない。
しかし、業務の変化の大きさや,パワーハラスメントの実態を認めて、業務上の疾病と認めている。
1審判決は、パワーハラスメントについて、
「本件労働者に対する業務指導の範囲を逸脱しており,その中に本件労働者の人格や人間性を否定するような言動が含まれ,あるいはこれが執拗に行われたものとは認められない。」
として、その心理的負荷が「強」とは認めなかった。
改正前の認定基準では、「人格や人間性を否定するような言動が含まれ」ていなければ、心理的負荷が「強」にはならないかのようにされていた。
判決からは、当のパワハラをしていたという上司の証言の信用性は否定されているが、パワハラをした当人が、そのことを全く認めないというケースは、私にも経験がある。これを立証するのは、なかなか困難である。現に1審判決は控えめな評価で労災と認めなかった。
高裁の事実認定をみても、原告側でいろいろな角度から立証の努力をしたのだろうと推測される。当事者と弁護団の相当の努力が会ったのだと考えられる。
これを記載している9月19日は、上告、上告受理申立の期間内ではあるが、事実認定が大きな争点であるから、上告、上告受理申立理由はなく、被告国も上告、上告受理申立はしないのではないかと予想される。
損害賠償請求訴訟が別に1審に係属している。被告トヨタ自動車株式会社は、労災が認定された事案とは異なり、本件では、争う姿勢を見せているようであるが、高裁判決がパワハラ等を認めて労災であると判断したのであるから、これを尊重し、早期に全面的な解決に向けて態度を変更するべきである。
2021年も、厚生労働省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムを開催します。
愛知会場は、高橋幸美さん(電通で過労自死した高橋まつりさんのお母様)と、その事件を担当した、川人博弁護士がお話をされます。
これらの話を通じて、過労死の問題について考えます。
今年は、コロナウイルス感染症の問題がありますので、予約制です。参加するためには申込みが必要です。
すでに、申込みが多く、早めに予約した方が良さそうです。
なお、この過労死防止対策推進シンポジウム、会場によっては、お名前を公表したくないご遺族がお話をされるところもあります。
そのため、コロナウイルス感染があっても、オンラインでは開催することが難しいようです。
愛知会場は
11月8日月曜日午後2時から
このころには、コロナウイルス感染症の拡大が収まって、感染対策をしながらの会場開催ができるように祈っています。
是非ご予定下さい。
↓申込みは下記からです。
2020年6月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会が厚生労働省に設置されました。そこで、2001年に発出された脳・心臓疾患の労災認定の基準について、検討がなされてきました。
2021年7月、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書が公表されました。
これにもとづいて2021年9月頃、あたらしい認定基準が策定されようとしています。
新しい認定基準の概要はパブリックコメントの頁に掲載があります。これについて、現在、パブリックコメントの募集がなされています。期限は本年8月19日まで。
2001年から20年ぶりの認定基準の改定です。
これまで、仕事が原因ではないかと考えられる事案でも時間外労働時間が少ないために認定されず、裁判になった事案がありました。
幸い、訴訟において認定されることになった事案もありますが、認定されなかった事案もあります。
より適切なないようになるように、さらに毛一歩声を上げたいと思います。
6月23日 令和2年度の「過労死等の労災補償状況」が厚生労働省から公表された。
特徴をいくつか指摘する。
脳・心臓疾患については、請求件数が昨年度から152件減って784件となった。
これは、コロナ禍で、長時間労働をする人が全体として減ったからだと思われる。報道によれば、厚生労働省もそのように分析しているようである。
長時間労働を減らすことが過労死等の防止になることはより明らかになったといえる。
なお、請求件数、認定件数とも道路貨物運送業がもっとも多い職種であるとのことである。業種別の対策もさらにすすめるべきである。
死亡の認定数は67件であった。認定率が、令和元年の36.1%から31.8%に減少していることは気になる。
精神障害については、請求件数は昨年とほとんど変わらず2000件を超えており、高止まりである。
さらに、認定件数が令和元年が509件であったのに対し、608件と急増している。
もっとも、自殺は81件であり、昨年の88件より減少している。
精神障害の労災認定が多い業種は、医療福祉が多い。
もともと高ストレスな業務であるが、コロナ禍でさらに強い心理的負荷を受けることになったのではないかと推測される。
出来事別の支給件数では、「上司から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件、「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせをうけた」71件とハラスメントが全体の27%をしめており、これらが自殺や精神障害の大きな原因の一つとなっている。
精神障害で特徴的なのは、審査請求、再審査請求、訴訟により取消となったことに伴い認定された件数である。自殺についてはこれまで7件、4件、5件、2件と一桁で推移してきたところ昨年は12件の取消、認定があった。
認定されないため、諦めずに戦っているご遺族には、逆転例も出ていることで励みになる。
精神障害が増加し、また取消が増えたのは、昨年5月に認定基準が改定され、「パワーハラスメント」が強い心理的負荷になり精神障害の原因となることが明示されたことも大きいと考えられる。これまでも「(ひどい)いじめ、嫌がらせ」という項目があった。厚生労働省は今回の改正は、新しい医学的知見に基づくものではないという説明であった。しかし、実際に適用の場面では、これまで認定されていなかったものが認定されるようになった汰可能性がある。
昨年も精神障害は請求件数は減っていない。むしろ認定件数は増えている.
全体の労働環境は心の健康を害しているのではないかと心配である。
(2021年6月26日修正、加筆)
2021年の過労死110番
2021年6月19日土曜日 午前10時から午後4時
今年は全国統一ダイヤル 0120-222-751
ここに電話をすれば、最寄りの地域の弁護士等の相談担当者に電話がつながります。
この電話番号は6月19日にしかつながりません。
全国の問い合わせ先は こちらをクリック
過労死110番は1988年に始まりました。
それから毎年行われてきました。
当時は、長時間労働があっても労災と認定されず、辛い思いをした遺族もいました。
いまでも、認定されずに、苦しい中にいる方もいますが、当時よりも認定される件数ははるかにふえました。
使用者に対する損害賠償についても使用者に厳しい判断が出るようになりました。
発生してしまった過労死等については、しっかりした補償と、責任の所在が明らかにされなければなりません。
しかし本当は、そのような自体になる前に予防されなければなりません。長時間労働やパワーハラスメントをなくすこと、良い職場作りがなされるここと、有給休暇が取りヤイ職場になること、いろいろ方策があるはずです。
そして、サービス残業は厳しく規制されなければなりません。そうでないと、正直者ただしく労働基準法を守った会社が競争に負けてしまいます。
労働組合が、厳しく監視することも大切だと思います。
当日は電話で相談が受けられます。
※ 2021年の過労死110番は6月19日午後4時で終了しました。
全国一斉で行われ、当地では取材はありませんでしたが、各地で報道されたようです。多くの、相談がよせられました。(6月19日追記)
司法修習生は、司法試験に合格した、最高裁判所司法研修所に所属するものです。
弁護士・検察官・裁判官になるため1年間の研修を受けています。
現在、当事務所にも司法修習生が配属されています。5月から6月下旬までの約2か月間の予定になっています。
私も、司法修習生の時代に修習を受け、弁護士活動の基礎を学んできました。
司法修習生は、最高裁判所規則により守秘義務を負っており、ここで知り得た事柄については他に決して漏らすことはありません。もちろん、私からも指導をしております。
司法修習生がより良い法律家となるため、相談、打合せ、裁判の期日の同席について、ご承認をお願い致したく、何卒よろしくお願い申し上げます。
令和3年4月1日より、税込価格の 表示(総額表示)が必要になるとのことですので、当ホームページの表示も総額が分かる表示に修正しました。
相談料は、「30分あたり5000円と消費税」、と表示していましたが、「30分あたり5500円(税込)」に訂正しました。
もっとも弁護士費用の表示は、経済的利益の額を基準にその割合の計算方法によって決まると言うことですので、税込み金額を表示することが困難な場合もあります。
そこで、適宜1.1倍したものという注を付けました。
今後とも、わかりやすい表記につとめます。
今日は、地下鉄サリン事件が起きた日です。
1995年3月20日
修習が終了し、修了試験の発表があったかこれからだった時期だと思います。
いよいよ弁護士になる。そんな時期におきた事件ででした。
お亡くなりになった方々に謹んでお悔やみ申し上げます。また、今もまだ悲しみの中にいる多くのご家族の方にもお見舞い申し上げます。
この事件がおきた当時は、誰がやったのかも分かっておらず、不安に感じたことを覚えています。この年は、1月17日に阪神淡路大震災があり、混乱の中にありました。
その後、弁護士になったときにも、坂本堤弁護士が行方不明のままで、弁護士会を上げて坂本弁護士を救出するという運動をしていることを知りました。当時入所した名古屋南部法律事務所でもポスターを貼ったりするなど協力していました。
その後残念ながら、坂本堤弁護士の一家は、すでに殺害されていたことが分かりました。弁護士に対する業務妨害が注目されるきっかけでもありました。
後に、松本サリン事件の被害者である河野義行さんを愛知県弁護士会でおよびして講演をしていただき、お話をうかがう機会がありました。河野さんはご自身も被害者であり、お連れあいも重い障害が残った方でした。それにもかかわらず、警察から犯人と疑われて、本当に辛い思いをした方でした。警察に出頭したときのやり取りをきいて、本当に怖い思いがしました。河野さんのお話で印象に残っているのは、取調で、メモを取らせてくれと申し入れて、捜査官にメモを取ることを認めさせたということでした。
当時も、いまも取調に弁護士を立ち会わせるという扱いをしてもらえません。河野さんは、そこで、警察官が何を質問したのか、自分が何を話したのか、忘れないようにメモを取りました。そして、帰ってから弁護士と相談し、その後の対策を相談したとのことでした。毎日、逮捕されるかもしれないという恐怖を感じていたそうです。
今考えれば、河野さんが1人でサリンを作ってまいたなどとはおよそあり得ないことですが、警察は真剣に疑っていたそうです。
地下鉄サリン事件ときいて思い出したことをつらつら書いてみました。
当事務所では、新型コロナウイルス感染症対策のために入り口にアルコール消毒液を設置しています。
事務所にお越しいただいたとき、お帰りになるときにお使い下さい。(写真 左)
また、最近、換気の状態を確認するために、二酸化炭素測定器を設置しました。(写真 右)。
厚生労働省は、「換気の悪い密閉空間」を 改善するための換気の方法」というチラシで、窓の開放による換気の場合場合
換気回数※を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。) とすること。
※ 換気回数とは、部屋の空気がすべて外気と入れ替わる回数をいう。
としています。
厚生労働省は、ビル管理法における空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準を
二酸化炭素の含有率 100万分の1000以下(=1000 ppm以下)
としています。
確かに、実際に設置した測定器の二酸化炭素濃度の変化をみると、いままでよりさらにしっかり換気をする必要を感じます。
空気を見える化して、換気には注意しようと考えています。
明けましておめでとうございます。
新しい年 2021年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
新型コロナウイルスの感染拡大がすすむなかで不安のなか、新しい年を迎えました。
感染に十分に注意しながら、業務にはげみます。
現在担当している事件が、それぞれ良い方向へ向かうように励んでいきたいと思います。
また、過労死の分野で労災認定基準の改定作業が続いています。注視していくとともに、今まで不合理にも認定されなかった事案が、適切に認定されるように過労死弁護団で運動していきたいと思います。
弁護士会では、刑事弁護の委員会を中心に活動をしています。弁護士会でもさまざまな制度改革を提案しています。これらの動きについても微力ながら力を尽くしていきたいと思います。
愛知学院大学法務支援セターの特任教授としても学生そして地域の皆様に役にたつ働きができますように、微力を尽くしていきます。
あらためて、本年もよろしくお願いします。
2021年1月1日
岩 井 羊 一
2020年、無事一年をすごすことができ感謝です。
昨年の今頃、新型コロナウイルス感染症のなかでこのような生活をすることなど、全く予想していませんでした。
弁護士会の会議をzoomでやったり、裁判の手続きをteamsで行ったりするなどということは予想もできませんでした。
そのように、いろいろなやり方は変わりましたが、大変な中で、弁護士の業務は、なんとか行えました。今後もコロナウイルスの影響が続くと不安ですが、大変な方がたくさんいるなかで、こうやって仕事が続けられることは感謝です。
また、コロナウイルスの影響で困っている方に、弁護士としてできることを対応していきたいと思います。
今年は、過労死の事件で、12月に損害賠償請求訴訟と行政訴訟で、勝訴判決をえることができたことが印象に大きく残りました。
損害賠償請求訴訟の事件は、発生から13年、損害賠償請求の訴訟を起こしてからも4年が経過していました。この事件が確定しました。ご遺族はご高齢で、解決がながびくのは大変だったと思います。控訴されなかったことは、判決の内容から当然とはいえ、ほっとしました。多くの方が関心をよせ、支援していただけました。多くの方の協力があったからこそ、このような結論を得ることができたものと思います。
その他にも、いくつかの事件で解決をすることができたこともそれぞれ印象深いです。
一方で、敗訴の事件も複数ありました。また、労災とみとめられず、現在、行政不服手続をしている依頼者の方もいます。そういう意味では、手放しで喜んでばかりはおれません。来年も、良い解決が得られるように励みたいと思います。
過労死防止の活動として、高校生に啓発授業に行きました。これから社会に出る学生の皆さんに、よりよい情報を提供していこうと思います。
過労死防止の啓発シンポジウムにも参加しましした。
元依頼者の方の訴えをあらあめて聞きました。おつれあいが亡くなってからもうずいぶん立ちますし、裁判が勝訴で終わってからもしばらくたっています。けれどもこの方の残念な気持ち、無念な気持ち、つれあいを自死に追い込んだ会社に対する怒り、労災と認めずに裁判になったこと、その裁判で徹底的に争っていた国の態度等についての怒りをお持ちになっていました。
弁護士としては勝訴を得て上手くいった事件、という印象を持っていましたが、それで安心してはいけないと思います。一度起こってしまったことの大きさを、改めて感じました。亡くなった方は帰ってきません。救済の前に予防が大切です。
これからも、多くの人に伝えていきたいです。
2020年12月7日、名古屋市を訴えた名古屋市バス事件で損害賠償請求が認められる判決を得ました。
この事件は、2007年6月14日、30台の名古屋市バスの運転士が自殺したことについて、その後両親が、名古屋市を訴えた事件です。
父親は、夫婦を代表して地方公務員災害補償基金名古屋支部に公務災害を申請していました。しかし、地方公務員災害補償基金名古屋支部は、公務災害と認めず、名古屋地方裁判所に、行政制訴訟を起こしていました。2015年3月名古屋地方裁判所は、父親の訴えを退け、公務災害と認めませんでした。父親は控訴し、2016年4月、名古屋高等裁判所は、地裁の判決を取り消し、公務災害と認める判決をしました。
この判決については ブログ をご覧下さい。
また、この裁判の経過については 奥田雅治さんの書かれた「焼身自殺の闇と真相:市営バス運転手の公務災害認定の顛末」を是非お読みください。
これをうけて、父親は、名古屋市交通局に、息子が自殺したことについて、非を認めて、謝罪するように求めました。
しかし、名古屋市交通局はこれを拒否し、責任を認めませんでした。
このため、両親は、2016年10月名古屋市に対し、名古屋市の責任を認めて損害を賠償することを求めて提訴しました。
判決は、1カ月のあたりの労働時間数は80時間を超えないものの、長時間労働であって、一定程度、被災者の心身の疲労を蓄積させ、そのストレス対応能力を低下させるものであったと認めました。
そして、2007年2月の添乗指導をうけて「葬式の司会のような」アナウンスをやめるように伝えられたことは客観的にみても相当程度の心理的負荷であったと認めました。
さらに、 2007年5月に九条があったことについて、事実関係を自覚することができずに指導をうけたことについて相応の心理的負荷を受けたと認めました。さらに、その後の指導による心理的負荷は相当大きかったと認めました。
加えて、2007年6月に、転倒事故を起こしたとして、認識がないにもかかわらず、指導を受け、警察署に出頭し取り調べを受けたことが、相当おおきな心理的負荷であったと認めました。
判決は、これらの出来事により精神障害を発病させたと認めました。
そのうえで、名古屋市は、被災者の労働時間が長いこと、不適切な指導を認識していたこと、さらには、被災者が、自分に認識がないと告げていたにもかかわらず、特段の配慮もしていなかったことから、相当大きい心理的負荷が生じたことについて、名古屋市は認識できたと認め、予見可能性があること、安全配慮義務違反があることを認めました。
また、名古屋市は、被災者が本件苦情や転倒事故について曖昧な会頭をしたことや、健康状態の申告をしなかったことについて、過失相殺が認められるべきとした主張について、被災者の責任にすることができないとしてこれを認めませんでした。
損害賠償請求について、原告の主張を全面的に認めた判決でした。
名古屋市は、この判決に控訴せず、2020年12月16日には、名古屋市交通局の幹部が両親の自宅を訪問して謝罪をしました。
被災者が死亡してから13年半の歳月が過ぎましたが、名古屋市の責任が認められて、謝罪をうけたことで、ご本人と御両親の無念も癒されたと思います。
このようなことが起きたのは、当時の名古屋市交通局の運転士の労働環境全体についての配慮が適切でなかったことが原因だと思います。一人一人の労働者をたいせつにする姿勢があれば、このようなことは起きなかったと思います。
調査にもっと協力的であれば、長年の裁判にもならなかったと思われます。
この裁判が、再発防止のための警鐘になればと願います。
弁護団は、水野幹男弁護士、西川研一弁護士、伊藤美穂弁護士、澁谷望弁護士 そして私でした。
2020年9月1日、改正された労働者災害補償保険法が施行されました。
これによって、複数職場で働いていた方が、双方の仕事の過重性をあわさって脳、心臓疾患、若しくは精神障害を発病した場合には、労災保険から必要な補償がなされることになりました。
また、複数職場で働いていた方が労災認定された場合に支払われる労災保険の各種補償の基礎となる給付基礎日額について、複数職場の収入を元にして計算することになりました。
詳しい説明は厚生労働省のホームページにあります。
もともと労働基準法第三十八条は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」としているのですから、業務上外の判断や、その場合の補償についても「通算する。」のが当然の帰結と思われます。
厚生労働省は、現行制度として上記のようにこれまではそれぞれの職場単位で判断していたと説明していますが、これについては納得ができません。
いずれにしても、2020年9月1日以降については上記のように評価されるので、複数職場で働く方を守る制度が強化されたとはいえます。
一方で、複数職場での労働の過重性を、それぞれの使用者が把握する方法は、労働者の申告によるとされているようです。十分にはあくしないまま、過重な労働をしている場合には健康を害し、過労死という不幸な結果になるのですから、労働者は注意する必要があります。副業を許可する使用者側は、外の労働をしているか、どの程度労働をしているのか注意する必要があります。
脳・心臓疾患に関する事案については次のとおり報告されています。
1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1) | 請求件数は936件で、前年度比59件の増となった。【P3 表1-1】 |
(2) | 支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件であった。【P3 表1-1】 |
精神障害に関する事案については次の通り報告されています。
2 精神障害に関する事案の労災補償状況
(1) | 請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件であった。【P15 表2-1】 |
(2) | 支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件であった。【P15 表2-1】 |
精神障害については、ついに年間の請求件数が2000件を超えました。前年から240件も増えています。支給決定件数も500件を超えました。
自殺の支給決定件数も前年より増えています。
残念ながら、脳・心臓疾患、精神障害とも請求する件数がふえています。そして死亡については、前年より増えています。
過労死等が減っている状況というのは生まれていません。
働き方改革、過労死防止法に基づく啓発活動等の効果が現れるよう、これからも地道に活動をしていくほかないと考えています。
そして、過労死等が起きたときには労災認定と、発生させた企業の責任の追及にも子らからも力を注いでいきます。
過労死がなくなるときまで。
なお認定率は、脳心臓疾患は下がっていますが、精神障害については昨年より上昇しています。
脳・心臓疾患
平成30年 令和元年
全体 34.5% → 31.6%
死亡 37.8% → 36.1%
精神障害
平成30年 令和元年
全体 31,8% → 32.1%
死亡 38.2% → 47.6%
ちなみに、愛知県では
脳・心臓疾患
全体 20/37 54.05%
死亡 8/14 57.14%
精神障害
全体 21/85 24.7%
自殺 7/16 43.75%
脳心臓疾患の認定率は高い。一方で精神障害は全国の比率よりも低い。
厚生労働省は、2020年5月29日、心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正を発表しました。(厚生労働省のホームページ)
この改正は、2020年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、「パワーハラスメント」の出来事を「心理的負荷評価表」に追加するなどの改正です。
厚生労働省は、「厚生労働省では、今後は、この基準に基づいて審査の迅速化を図り、業務により精神障害を発病された方に対して、一層迅速・適正な労災補償を行っていきます。」とコメントしています。
改正の概要は以下の通りです。
■「具体的出来事」等に「パワーハラスメント」を追加
・「出来事の類型」に、「パワーハラスメント」を追加
・「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を
「具体的出来事」に追加
■評価対象のうち「パワーハラスメント」に当たらない暴行やいじめ等について文言修正
・「具体的出来事」の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を
「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ、嫌がらせなど
を評価する項目として位置づける
実際の認定基準はこちらです。
この改正ではまだ不十分だと考えています。その点は、以前ブログで述べました。
2020年6月20日のパワハラ・コロナ労災・過労死110番の相談、電話の相談は16件でした。当日は、名古屋テレビの取材を受けました。パワハラ、コロナに関する相談がありました。当日繋がらなかった方。申しわけありません。
これからも、過労死、過労による病気についての相談を受けてまいります。
2020年6月24日 追記
2020年5月15日、厚生労働省は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表しました。ホームページでみることができます。
この専門検討会は、「労働施策総合推進法」により、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されることなどを踏まえ、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しについて検討を行い、取りまとめたものです。
その要点は、厚生労働省のホームページに次のようにまとめられています。
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報告書のポイント
■具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加
・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加
・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加
■具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を
「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等
を評価する項目として位置づける
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、この報告書及びこの報告書の内容には問題があります。
1 パワーハラスメントの概念について
パワーハラスメントについて、労働施策総合推進法第 30 条の2第1項が、「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
法律がパワハラの定義を定め、事業主に必要な体制の整備や雇用管理上必要な措置を命じることは一歩前進です。それでは何がパワハラかということについて、この法律の解釈の指針として「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が定められています。しかし、これについては日本労働弁護団が、2019年12月10日の意見書で、「パワハラの定義を著しく狭く限定的に解釈し、まるで「加害者・使用者の弁解カタログ」とも言えるような「パワハラに該当しない例」を掲載するなど、パワハラ防止に資するどころか、むしろパワハラを許容し、助長しかねない危険性を有する内容である。」と批判するものです。この指針によってもパワハラと判断される場合はよいでしょうが、解釈が分かれるところでは、この指針でパワハラを否定されれば、労災認定もされなくなる危険があります。
2 「執拗」は厳しすぎる。
報告書は、次のような場合を心理的負荷が「強」の例であるとしています。
・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は
業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における
大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容
される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合
であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合
確かに、1回だけの暴行、1度だけの精神的攻撃で、精神障害になる場合というのは、相当ひどい攻撃というべき出来事でないと労災とはいえないかもしれません。しかし、「執拗」とは「過度なほどしつこいこと」(広辞苑第7版)という意味です。身体的攻撃を執拗に受けた場合や精神的攻撃を執拗に受けた場合でないと心理的負荷が「強」とは判断されず、精神障害の発病が労災とはならないというのは不合理だといわざるをえません。
平成23年の専門検討会の報告書の資料となっている、「ストレス評価に関する調査研究
~健常者群における 43 項目、および新規 20 項目のストレス点数と発生頻度~ 大阪樟蔭女子大学大学院 夏目 」によれば、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」はストレス点数のランキングで1位、点数は7.1とされています。(2位は「退職を強要された」の 6.5、3位は「左遷された」の 6.3、4位は「1か月に 140 時間以上の時間外労働(休日労働を含む)を行った」の 6.3。)
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことが、これほど上位のストレスであるのに、さらに「執拗」にされたことが必要だとすれば、労災認定のハードルをあまりにあげすぎているといわざるを得ません。
ところで、専門検討会の報告書の4ページには、「また、人格や人間性を否定するような精神的な攻撃が執拗に行われた場合や、精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合にも、強い心理的負荷を生じるものと評価されている。こうしたことを勘案すると、心理的負荷の強度が『強』となる具体例については、次のように示すことが適当である。」と書いてあります。そうであれば、認定基準の具体例は「精神的攻撃が執拗に行われた場合」とまとめるのではなく「精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合」とするべきです。
さらに専門検討会の報告書については、
第4回に出された案文の 4頁
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け
た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷
を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみると、治
療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身体的
な攻撃が繰り返し行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。
とあった部分が、
第5回に出された案文の 8頁では
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受け
た」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷
の強度を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の事例をみる
と、治療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身
体的な攻撃が執拗に行われた場合に、強い心理的負荷として評価されている。
となり、最終的な報告書も同じ記載になっています。
専門検討会の第4回に出された報告書案は暴行について、過去の事例に「繰り返し行われた場合」で認定されていたと紹介しておきながら、その後第5回の案では、「執拗に行われた」認定例があると認定例の紹介の内容を変えているのです。
セクシュアルハラスメントの場合には、現在の認定基準も、「継続して行われた場合」には心理的負荷が強とされるとなっています。パワーハラスメントの場合にも、同様に「継続して行われた場合」とするべきです。
3 「人格や人間性を否定するような」は不要である。
精神的攻撃の「強」となる例として、「・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」が挙げられています。
しかし、ここで「人格や人間性を否定するような」という限定が必要でしょうか。
人格や人間性を否定するような精神的攻撃の典型例は「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」のような言葉を使うことです。
現在の認定基準における「ひどい嫌がらせ、いじめがあった」という項目で「強」の例は、「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」となっています。このような基準になっている関係で、労災の申請をすると、「人格や人間性を否定するような言動」があったかなかったかを確認され、これがないとして、心理的負荷が「強」ではないと判断されることがよくあります。しかし、人格や人間性を否定するような言動がなくても、精神的に辛い思いをする言動はたくさんあります。そして、そのために精神障害になる例があります。そのような場合に、その程度では平均的な人は精神障害にならないから、個人が精神的に弱い人だったんでしょう。労災とは認めません。というのは、余りにも厳しい基準と言わざるを得ません。「バカ」「あほ」「死ね」「給料泥棒」などという言葉を使わずに被害者を追い込むパワハラ、モラハラ上司による精神障害はすべて労働者の弱い性格のせいになってしまいます。
「業務上明らかに必要がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」は、表面上「人格や人間性を否定するような」ものでなくても精神障害を発病させることはあります。「人格や人間性を否定するような」という表現を使う必要はありません。
新しい認定基準では、「・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」という項目も新設されました。この項目が「人格や人間性を否定するような」を要求してないとすれば、以前の認定基準より、「強」となる場合がひろがったものとして評価できると考えられます。
4 「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」も「強」と評価すべき
今回の認定基準では「心理的負荷としては『中』程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合」を心理的負荷が「強」の例にあげられました。心理的負荷が「中」程度のパワーハラスメントであってもその後の対応によって心理的負荷が強くなることは経験するところでですから、この 指摘は評価できます。
しかし、セクシュアルハラスメントの場合には、「会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合、」、「会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合」についても心理的負荷が「強」の例にあげられてします。
パワーハラスメントの場合にも、会社に相談等をして、さらに当該上司からパワーハラスメントを相談したことを指摘されて関係が悪くなることも側聞するところです。さらに、被害者が相談できなくても、会社が把握していながら適切な対応をしない場合には、パワーハラスメントが継続され、被害者本人の孤立間も高まり、心理的負荷が強くなることはセクシュアルハラスメントと同様の構造を持っています。
今回、なぜ、セクシュアルハラスメントと同様にしなかったのか理解できません。
厚生労働省は2020年5月15日(金)から5月25日パブリックコメントを募集しています。
上記批判については本来専門検討会の議事録をみないと確認できず意見もいえません。時間がありませんが「執拗」「人格や人間性を否定するような」などという制限的、限定的な認定基準では、これからも理不尽に労災と認められない被災者や、家族が今後も発生することになってしまいます。
適切な認定基準となるように厚生労働省に再考を求めます。
2020年4月28日、厚生労働省から、「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発 0428 第1号)が発出されました。
「新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)に係る労災補償業務における留意点については、令和2年2月3日付け基補発 0203 第1号で通知していると ころであるが、今般、本感染症の労災補償について、下記のとおり取り扱うこととしたので、本感染症に係る労災保険給付の請求や相談があった場合には、これを踏まえて適切に対応されたい。」とのことです。
このなかで、医療従事者の方については、「医療従事者等患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、 介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。」と定められました。
感染経路が明らかでなくても、原則として業務起因性が認められるとされています。
次に、それ以外の方でも「医療従事者以外の労働者であって感染経路が特定されたもの感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。」と定められました。
さらに「医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの」についても「 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が 感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
感染経路が明らかでなくても労災と認められる場合があります。
厚生労働省のホームページ
新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け) 労災補償