民法改正 過労死事案の使用者に対する損害賠償請求の時効

過労死の場合の安全配慮義務違反の時効

 過労死事案の救済方法には、労災請求と使用者への損害賠償請求という方法があります。

 死亡事案の場合、労災請求の時効は5年。使用者への損害賠償請求については10年です(民法167条2項)。死亡した日の翌日から計算します。

 交通事故の場合には、事故の日の翌日から3年で時効になります(民法724条)。

 

 過労死事案の場合、まず、労災請求をし、労災が認定された後、使用者に対し損害賠償請求をすることがあります。

 労働基準監督署長が、労災と認めてくれれば、3年以内に損害賠償請求をすることもまにあいます。

 しかし、労災請求をするまでに時間がかかる場合もあります。労災請求をして認められず、審査請求、再審査請求をする場合もあります。 

 それでも認められず、行政訴訟を提起する場合もあります。高等裁判所、または最高裁判所でようやく結論が出る場合があります。10年近くかかる場合もあります。

 

 損害賠償請求は、労災が認定されてから行うこともよくあります。労災の手続きの結果が損害賠償請求権のありなしの参考にされるからです。

 

 名古屋市バス事件は、行政事件で名古屋高等裁判所で勝訴し、その裁判が確定した後に、損害賠償請求を提起しています。提訴したのは、息子さんが自死したときから9年をすぎていました。

民法改正と安全配慮違反の時効

 2020年4月、改正民法が施行されます。

 改正民法では、民法の債権の時効は「権利を行使することができることを知ったとき」から5年で時効になると定められました。(改正民法166条)

 

 過労死事案の死亡事案の場合、死亡した日が、「権利を行使することができることを知ったとき」になるでしょう。

 

 日弁連編集の「実務解説 改正債権法」(2018年・弘文堂)では「ただし、とりわけ労働契約上の安全配慮義務違反や医療過誤に基づく生命・身体の侵害など債務不履行による損害賠償請求については、そのような侵害が発生して確定したことが明らかな場合は、改正前民法に比べ、そのことを知った時から5年間で時効消滅する(民法166条1項1号)点で短期化しているので注意が必要である。」とされています。安全配慮義務違反のように権利行使をできることをが明らかな場合には、時効期間がこれまでの10年から5年に変わるのです。

 

 なお、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特例に関する規程が定められ、不法行為に基づく損害賠償請求をする場合も時効期間は5年とされました。

 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求については、債務不履行を根拠にする場合も、不法行為を根拠にする場合にも「知ったとき」から5年で時効になるとされたのです。

 

 冒頭の述べたとおり、労災申請をしている間に5年の時効期間はすぐに来てしまいます。

 損害賠償請求と労災認定訴訟を同時に提訴をしなければならないケースが多くなるかも知れません。

 

経過措置

 それでは、現在発生している過労死事件については、いつの法律が適用されるのでしょうか。

 これは、次のように定められています。

 

 「施行日前に債権が生じた場合」又は「施行日前に債権発生の原因である法律行為がされた場合」には、その債権の消滅時効期間については、原則として, 改正前の民法が適用されます。

 

 雇用契約の使用者が安全配慮義務を怠ったことによって労働災害が発生した場合における労働者の使用者に対する損害賠償請求権(債務不履行)については、労働契約が「原因である法律行為」にあたるので、契約締結時が基準となると解されるようです(一問一答民法(債権関係)改正)

 したがって、過労死事件が発生した使用者との雇用契約が2020年4月1日より前であれば、死亡や労災による事故、病気の発症が2020年4月1日以降であっても、時効は旧民法が適用され10年となります。

 ただし、中間利息の控除、利率については、改正民法施行日以降に死亡や労災による事故、病気が発症した場合には新法が適用されることになります(附則第17条第2項)

 

 一方で、人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求の短期の権利消滅期間を5年とする特則を設ける改正については、新法の施行日(2020年4月1日)において消滅時効がすでに完成した場合でなければ、新法が適用されます(附則第35条2項)。

  

となるように考えられます。

 

 いつ、会社に入社したか、いつ事件が起きたのかの両方で、時効期間、法定利息、中間利息控除に違いが生じることになります。下に死亡事案についてその関係をまとめてみました。

(この記載について責任を持つものではありませんし、正確を期すためには、さらに説明が必要なので、各自法改正についてはご自身で確認してください。)

 

労働契約締結時期 死亡 中間利息控除 法定利率※ 時効
2020年4月1日より前 2020年4月1日より前 旧民法 旧民法 旧民法(不法行為3年 債務不履行10年)
2020年4月より前 2020年4月1日以降 改正民法 改正民法 債務不履行 旧民法(10年) 不法行為 新民法(但し時効完成していない場合)(5年)
2020年4月1日以降 2020年4月1日以降 改正民法 改正民法 改正民法(不法行為5年 債務不履行5年)

 ※旧民法 5%  改正民法3%