弁護士は、裁判で勝つためには何でもする。裁判で勝てばお金がもらえるから。どうやら、そう思っている方がいるようです。しかも、弁護士という職業にある人は、昔からみんなそんな人種であるという考えです。これは、大いなる誤解です。
弁護士が守らなければならない職務基本規定には、
(信義誠実)
第五条
弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。
とあります。
弁護士は、真実を尊重して職務を行わなければなりません。真実を曲げるようなこと、法律に違反しなくても信義に反するようなことはできません。私たち弁護士は、弁護士になってから繰り返しそのことを学びます。
職務基本規定には、
(公益活動の実践)
第八条
弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践するように努める。
とあります。弁護士は、人権擁護活動そのほかふさわしい公益活動もしなければならない。商売だけやってはいけない。多くの弁護士はそのように教えられて弁護士をしているはずです。そうあらねばならない存在であると思って仕事をしているのが弁護士のはずです。
刑事弁護もその活動の一環の面もあります。
刑事弁護で次のような批判を受けます。刑事弁護では悪い人の弁護をしている。しかも、うそで無罪と言っている人の弁護をしているではないか。弁護士は、依頼者のために何でもやる。
しかし、刑事弁護は別です。ご都合主義のように思えますがそうではありません。職務基本規定には次のように記載があります。
(解釈適用指針)
第八十二条 この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんがみ、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護権を侵害することのないように留意しなければならない。
刑事弁護の場合には、相手方は国家権力です。また、その裁判などの結果、被疑者、被告人は、罰金だったり、身体拘束され働かされる懲役刑だったり、命を奪われる死刑になる可能性もあります。極めて強い人権の制限がありうる手続きです。間違いがあってはいけないのです。そのため、弁護士が弁護人となることの最も重要な意議は、被疑者、被告人の言い分を誠実に取り扱うことが求められると解されているのです。
日本国憲法は第37条3項で、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」と定めています。だれでも、弁護士を依頼したい人は、弁護士を付すことができる権利を憲法が保障しています。反対からみれば、弁護士のうちのだれかは、かならず弁護を求めた人の弁護をしなければならないのです。
どうしても、真実の尊重と、誠実に職務を行う要請がぶつかってしまう場合には、被告人に対し、誠実に職務を行うことが優先されるのです。そして、そのことが保障されて、初めて刑事弁護人の意議があるのです。人は間違えます。警察官や検察官が間違えるような場合には、弁護人も間違えることがあります。結果が間違わないようにするために、弁護士は、弁護人となったときには、依頼者の言い分を誠実にとりあつかう役割が求められているのです。
以上、弁護士は、真実を尊重しなければならないけれども、刑事事件の場合には、それより重要価値もある。それは、依頼者に対する誠実義務であることについて述べました。
どうかこれを読んだ皆さんが、弁護士に対する誤解を解いて、弁護士という仕事について、理解していただくと幸いです。