パワーハラスメントというのは、岡田康子さんという民間のコンサルタント会社のかたがつくった造語です。
最近では、厚生労働省でも2012年1月に、職場のいじめ・嫌がらせ厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」(主査:佐藤博樹東京大学大学院情報学環教授)が、職場の「いじめ・嫌がらせ」、「パワーハラスメント」が、近年、社会問題として顕在化してきていることを踏まえ、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」(座長:堀田力さわやか福祉財団理事長)からの付託を受けて、報告を取りまとめ、公表しています。 (厚生労働省のホームページで公開)
そこでは、
職場のパワーハラスメント
とは、
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
とされています。
この定義について「パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを指して使われる場合が多い。しかし、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあり、こうした行為も職場のパワーハラスメントに含める必要があることから、上記では「職場内の優位性」を「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識などの様々な優位性が含まれる趣旨が明らかになるよう整理を行った。」との解説がされています。
パワーハラスメントは、民法の上の不法行為になります。また、パワーハラスメントを放置した場合には、使用者に対し、安全配慮義務違反を理由に債務不履行責任を問うこともできます。
ところで、裁判でパワーハラスメントを主張する場合に、使用者側からは、パワーハラスメントにあたる言動をしていないという反論をされる場合があります。(というより、ほとんどの場合、このような反論がなされると考えた方がよさそうです。)また、多少厳しく指摘をしたが、それは労働者の就労状況に問題があったと指摘される場合があります。勤務態度が悪い、ミスが多い、問題を起こしたなどなど。
その場合に、周囲の労働者が協力して、パワーハラスメントの事実を証言すれば、立証できます。使用者側の主張は「うそ」だと暴くことができます。しかし、周囲の労働者は、使用者の手前、なかなか証言ができない場合もあります。
ハラスメントの内容、日時、場所の記録をメモするなど相当の証拠を確保しないと訴えることが難しいかも知れません。
本来、会社内で、パワーハラスメントが起きないように注意し、問題を解決する体制をつくるべきです。2020年6月にそのような義務を課した法律が施行されました。
しかし、パワーハラスメントと熱心な指導は表裏の関係にあります。注意するべきなのか、部下の指導として推奨するべきなのか、会社もしっかり見極めが出来ない場合もあります。
自分がパワーハラスメントを受けていると感じた場合には、できるだけ具体的な内容を記録に残し、第三者にパワーハラスメントと判断してもらう証拠を確保することが大切です。
また、セクハラなどほかのハラスメントとも共通することですが、会社に対してパワハラを受けたという申告は早くしたほうがいいです。すぐに申告がなかったのであるから、本人もそれほど深刻に考えておらず、実際にもそれほど重大な影響はない。だからハラスメントではない。などという反論がなされることがあります。時間がたっていれば、このような主張ももっともらしく見えてくるものです。
実際には、我慢しなければならない状況があり、声を出せないまま時間がたってしまうことがあります。そのことは十分理解できますが。しかし、相手に否定され、裁判にまでなってしまうことを考えると、できる限り、明白な証拠があった方がよいのです。
過労自殺で過去に取り扱った事件のなかには、パワーハラスメントがあった事案も多いです。パワーハラスメントが立証できた事件の多くは同僚が、パワーハラスメントついて証言をしてもらえた事案です。一方で同僚が現在も同じ仕事に就いている場合には、証言をしてもらえない場合が多いです。辞めた同僚等に協力をお願いし、パワーハラスメントを立証できた場合があります。
裁判例には、「世上一般にいわれるパワーハラスメントは極めて抽象的な概念で、内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。」としたものがあります。(東京地裁平成24年3月9日判決)
パワハラがすべて裁判で違法と認められるかどうか、これからの議論をみていく必要があります。
パワーハラスメントにより適応障害、うつ病等の精神障害を発病した場合には、労働災害になる可能性があります。また、事業主に対して、病気になったことによる損害の賠償を求めることができる可能性があります。
もっとも、精神障害の労災認定基準は、一定の内容のパワーハラスメントではないと、精神障害が労災であるとは認めないことになっています。また、裁判で病気になったことの責任を問うときにも、この認定基準の内容が参考にされることになります。
過労うつ病、過労自殺の相談のなかには、パワーハラスメントを受けていたのではないかという事案が多くみられます。
大事に至る前に、周囲や弁護士に相談し、未然に対策を取ることが必要です。
使用者側も、パワーハラスメントなどといわれるから、指導がしにくいなどと、消極的に構えるのでは、対応が遅れます。人格を傷つけるような指導方法は、許されません。従業員にパワーハラスメントの防止を徹底すべきです。
パワーハラスメントにあたる場合は、不法行為が成立しますから、ハラスメントの相手に損害賠償請求ができます。また、事業主に対しては安全配慮義務違反の責任を追及し損害賠償請求をすることができます。
ただし、上記に述べたように、不法行為が成立する範囲にについて議論があります。また、その職場で仕事をしていくのであれば、いきなり訴えることは、実際には難しいかも知れません。
まずは相談して、今おかれた立場でもっともよい解決方法を考えてみましょう。