発症してから寛解しなかったうつ病により自殺

国・名古屋労働基準監督署長(ジェイフォン)事件(名古屋地裁平成23年12月14日判決 労働判例1046号42頁)

JRセントラルタワーズ

  携帯電話会社のジェイフォン(現在のソフトバンクモバイル)で働いていた労働者(昭和21年生、平成14年12月死亡、死亡時年齢56歳。自死)につき、妻の原告が申請した労働者災害補償保険遺族補償年金支給請求に関し、名古屋西労働基準監督署長が行った不支給処分決定について、不支給処分を行った名古屋西労働基準監督署長の決定を取消した判決。

 

 判決は、平成6年の出向その後の過重な業務によるうつ病の発症を認定していること、うつ病の発症後は寛解しないままであったこと、異動の経緯もうつ病を増悪させ自殺に至った原因であったことを認めた。

 

 この判決は、出向、異動、長時間労働などが、うつ病の発症をさせる危険があること、そのため職場の環境の整備がいっそう求められていることをも指摘する。 判決は「心理的負荷による精神障害の業務上外に係る判断指針」は十全なものとは言い難いとも指摘し.これまでの過労自殺の判断の指針が不十分であることを改めて指摘している。判決の意義については、弁護団の声明に要約されているので紹介する。

 

 弁護団は、岩井羊一 伊藤大介弁護士 田巻紘子弁護士 伊藤朝日太郎弁護士

 

当時の判決確定に当たっての弁護団声明

 

携帯電話会社のジェイフォン(現在のソフトバンクモバイル)で働いていたAさん(昭和21年生、平成14年12月7日死亡、死亡時年齢56歳。うつ病にて自死)につき、原告が申請した労働者災害補償保険遺族補償年金支給請求に関し、平成21年4月10日付にて名古屋西労働基準監督署長が行った不支給処分決定について、平成23年年12月14日、名古屋地方裁判所は、不支給処分を行った名古屋西労働基準監督署長の決定を取り消す旨の判決を言い渡した。

 この判決は、国が控訴をしなかったので、平成23年12月28日が過ぎて、確定した。
判決は、平成6年の出向その後の過重な業務によるうつ病の発症を認定していること、うつ病の発症後は寛解しないままであったこと、異動の経緯もうつ病を増悪させ自殺に至った原因であったことを認めている。この判決は、出向、異動、長時間労働などが、うつ病の発症をさせる危険があること、そのため職場の環境の整備がいっそう求められていることをも指摘するものであるといえる。この判決が確定したことは、今後、心理的負荷のかかる労働に従事させる場合には、労働者にうつ病を発症させないように、また発症したうつ病が寛解に向かうように配慮する必要があり、放置していることは労災を発生させる危険が高いことを表す事例として、実務上大きな意味がある。

 さらに、この判決は「心理的負荷による精神障害の業務上外に係る判断指針」は十全なものとは言い難いとも指摘し.これまでの過労自殺の判断の指針が不十分であることを改めて指摘していることにも意義がある。この点について、平成23年12月26日、厚生労働省は、判断指針を廃止し「心理的負荷による精神障害の認定基準」を発表している。しかし、この認定基準も従前の判断指針の延長にあるものであって、この判決の指摘が妥当するというべきであり、適切な認定基準たり得ているかどうかを厳しく監視し、改善させていかなければならない。

 なお、この訴訟の途中において、厚生労働省が、労災訴訟の傍聴者の顔ぶれなどを報告するよう指示する通知を出していたことが新聞で報道され、本件訴訟も、その対象になっていたことが判明した。原告や支援者を萎縮させかねない対応であり、あらためて強く抗議する。

 私たちは、Aさんのような過労死、過労自殺をなくすために、確定した判決の意義を広く伝えると共に、 “ストップ!過労死”実行委員会の行う「過労死防止基本法」の法制化を目指す運動とも協力し合い、今後も過労死、過労自殺がない社会を目ざすために活動することを誓い、弁護団の声明とする。

 

ソフトバンクモバイル過労死裁判ホームページ

 

判決全文(最高裁判所ホームページ)

ポイント

 亡くなった被災者の主治医の先生に協力していただきました。また、発症当時の会社の同僚だった方を、遺族がさがしてその状況を書面にしてもらいました。原告とそのご家族が本当に努力して証拠を集められました。