本人を基準に過労を認定

国・豊橋労働基準監督署長(マツヤデンキ)事件( 名古屋高裁平成22年4月16日判決  判例タイムズ1329号121頁・労働判例1006号5頁)

家電量販店
写真はイメージです。本件とは関係ありません。

 家電量販店のマツヤデンキで働いていた労働者の死亡が過労死であり、労災であることの認定を求めて国を相手にして起こした裁判。

 

 この労働者は心臓に障害があり、障がい者3級の認定を受けていた。マツヤデンキには障がい者として雇用されていた。しかし、2000年12月末頃に亡くなった。  

 

 労働者の配偶者は、豊橋労働基準監督署長に労災申請した。しかし、労災と認められず、訴訟を提起した。

 

 名古屋地方裁判所は、原告の訴えを認めなかったが、名古屋高等裁判所は、1審の判決を取消し、この労働者の死亡を労災と認める判決を下した。

 

 判決は、業務起因性を認めるために必要とされる相当因果関係の判断に際して「少なくとも、身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となるというべきである。」と判示した。

 

 判決は、その理由として「労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけではなく、身体に障害を抱えている労働者もいる」と指摘し、また、「憲法27条1項が『すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負う。』と定め、国が身体障害者雇用促進法等により身体障害者の就労を積極的に援助し、企業もその協力を求められている時代」においては、平均的労働者だけを基準に労災か否かの因果関係を判断するのは誤りであることは、「一層明らか」と指摘した。

 

 国は、この高等裁判所に不服として、最高裁判所に上告受理の申立をしたが最高裁判所は、この申立を退けた。

 

 本件は、誰を基準に労災の業務の過重性を判断するのか,という問題について、本人を基準にするという本人基準説を採っていることにきわめて重要な意議がある。本人基準説をとらなければ、本件のような障害者の方の場合、仕事によって体調が悪化しても労災にはならないことになる。平均人基準説が不合理であることを端的に示した判決といえる。

 

 弁護団は森弘典弁護士が主任 水野幹男弁護士 弁護士岩井羊一の3人。 判決全文はこちら 判決全文(最高裁判所ホームページ) この裁判例が、「実務に効く労働判例精選」というジュリストという法律家向けの雑誌の増刊号で佐久間大輔弁護士に取り上げられています。

 

そのほか評釈論文  季刊労働法234号154頁

          民商法雑誌147巻1号107頁

          労働基準760号24頁

          労働法律旬報1725号20頁

          労働法律旬報1733号33頁

          ジュリスト1442号 109頁 2012年6月1日発行

           [労働判例研究] 障害を持つ労働者に関する業務の過重性判断

            ――国・豊橋労基署長(マツヤデンキ)事件――       

              名古屋高判平成22・4・16 笠木映里

ポイント

 法律論が取り上げられていますが、ご遺族と弁護団で、亡くなったときの病院、会社の関係者などいろんな方に事情を聴いて、亡くなる直前の状況を調べました。1審判決で敗訴したときにはとてもつらかったのですが諦めずに主張、立証を尽くしました。

 本人を基準に判断するという考え方は、障がい者、高齢者の働く環境を守るために重要です。