暴力、暴言により自殺

メイコウアドヴァンス事件(名古屋地方裁判所平成26年1月15日労働判例1096号76頁)

写真はイメージです。
写真はイメージです。

2014年1月15日、名古屋地方裁判所は、自殺はパワハラが原因であるとして、勤務先であった会社と男性社長に約5400万円の損害賠償の支払いを命じる判決を出しました。

 主任は、濵嶌将周(はまじま まさちか)弁護士。当職も、川津聡弁護士と弁護士法人名古屋南部法律事務所時代から一緒に弁護団をしています。

 会社は事実関係を争っていました。判決で会社と男性社長の責任が認められたことで、自殺されたご本人の無念な気持ちも慰められたのではないかと思っています。

 中小企業での労務管理に警鐘となる裁判例になればと願っています。

 

1 事案の概要

本件は、金属琺瑯加工業を行っていた会社の社長が、被災者に暴言、暴行、退職強要などのパワハラをしたとして、会社に対して損害賠償を請求した事案です。 すでに労災と認定されているものです。

 

2 判決の認めた行為

 判決は、次のような被告男性社長の行為を認めました。

 

 平成19年夏頃から、仕事でミスをすると、「てめえ、何やってんだ」「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」などと汚い言葉で大声で怒鳴っていたが、あわせて被災者の頭を叩く事も時々あったほか、被災者を殴ることや蹴ることも複数回あった。

 

 被告社長は、被災者及びKに対し、同人らがミスによって被告会社に与えた損害について弁償するようにもとめ、弁償しないのであれば同人らの家族に弁償してもらう旨を言ったことがあった。また、被告社長は、被災者及びKに対し、「会社を辞めたければ7000万円を払え。払わないとやめさせない。」と言ったこともあった。

 

 被告社長は、被災者に対し、平成21年1月19日、右大腿部後面を左足及び左膝で2回けるなどの暴行を加え、全治12日間を要する量大腿部挫傷の傷害を負わせた。(争いのない事実) 平成21年1月23日、被告Kは、被災者に対し、退職届を書くよう強要し(本件退職強要)、被災者は退職届けを下書きした。本件退職届けには、「私○○○○は会社に今までたくさんの物を壊してしまい損害を与えてしまいました。会社に利益を上げるどころか、逆に余分な出費を重ねてしまい迷惑をおかけした事を深く反省し、一族で誠意を持って返さいします。2ヶ月以内に返さいします」などと記載され、また、「額は一千万~1億」と鉛筆で書かれ、消された跡があった。

 

3 被告らの責任  

 判決は、これらの事実を認めた上で、被告の責任について次のように述べました。

 

 被告社長の被災者に対する暴言、暴行及び退職強要のパワハラが認められるところ、被告社長の被災者に対する暴言及び暴行は、被災者の仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、被災者を威迫し、激しい不安に陥れるものと認められ、不法行為に当たると評価するのが相当であり、また、本件退職強要も不法行為に当たると評価するのが相当である。 

 

 パワハラと自殺との因果関係については次のように述べました。

 

 平成20年秋ころ以降には、被災者は、仕事でミスをすることのほかに、ミスをした場合に被告社長から暴言や暴行を受けるということについて、不安や恐怖を感じるようになり、これが、心理的なストレスになっていたと解するのが相当である。さらに、被災者は、その後も、ミスを起こして、被告社長から暴言や暴行を受けていたと認めるのが相当であるから、本件暴行を受けるまでの間に、被災者の心理的ストレスは、相当程度蓄積されていたと推認できる。

 

  …被災者は、自殺7日前に、全治約12日を要する傷害を負う本件暴行をうけており、その原因についてたとえ被災者に非があったとしても、これによって負った傷害の程度からすれば、本件暴行は仕事上のミスに対する叱責の域を超えたものであり、本件暴行が被災者に与えた心理的負荷は強いものであったと評価するのが相当である。  被災者は、自殺3日前には、本件退職強要を受けているところ、その態様及び本件退職届の内容からすれば、本件退職強要が被災者に与えた心理的負荷も強いものであったと評価するのが相当である。  

 

 とし、

 

  短期間のうちに行われた本件暴行及び退職強要が被災者に与えた心理的負荷の程度は、総合的に見て過重で強いものであったと解されるところ…被災者は、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行及び本件退職強要を連続して受けたことにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。 被災者は、自殺3日前には、本件退職強要を受けているところ、その態様及び本件遺書の記載内容を併せ考えると、被災者は、上記急性ストレス反応により、自殺するに至ったと認めるのが相当である。

 従って被告社長の不法行為と被災者の死亡との間には、相当因果関係があるというべきである。

 

 と認めて,被告社長の個人の責任を認め、会社法350条により、被告会社の責任を認めました。 暴言、暴力、退職強要というパワーハラスメントを不法行為と認めたこと、そして、自殺との因果関係を認めたことに意議があります。 判決は、会社に対し、遺族に合計5400万円を支払うように命じています。亡くなった方は帰ってきませんが、大きな代償を払わなければならないことを示したことに意味があると考えたいです。

ポイント

 本件では、被災者の死亡は労災認定されていました。もっとも、労災認定も容易ではありませんでした。その決め手となったのは元同僚の労働局での証言でした。ハラスメントの立証は、ハラスメントをした相手が認めないと困難ですが、はっきり証言していただいた方に感謝したいと思います。