A市職員だった職員が、2002年5月、児童課課長へ異動してからの公務と、パワハラの心理的負荷によりうつ病を発症し、同月27日に自殺するに至った事件。 裁判は、公務災害ではないと決定した地方公務員災害補償基金を相手にした行政訴訟。1審の名古屋地方裁判所は、原告の訴えを退けた。
しかし、控訴審である名古屋高等裁判所は、1審を取消し、職員の自殺は、公務災害であると認めた。 これを不服として被告の地方公務員災害補償基金が上告、上告受理申立をしていた事件が、上告棄却、不受理決定により確定した。
この裁判の一つの争点が上司によるパワハラであった。
高裁は、次のように判示している。「亡太郎がファミリーサポートセンター計画の件や保育園入園に関する決裁の際などに目の当たりにしたB部長の部下に対する非難や叱責等は,直接亡太郎に向けられたものではなかったといえるが,自分の部下が上司から叱責を受けた場合には,それを自分に対するものとしても受け止め,責任を感じるというのは,平均的な職員にとっても自然な姿であり,むしろそれが誠実な態度というべきである。そうであれば,児童課長であった亡太郎は,その直属の部下がB部長から強く叱責等されていた際,自らのこととしても責任を感じ,これらにより心理的負荷を受けたことが容易に推認できるのであって,このことは,亡太郎がB部長のことを「人望のないB,人格のないB,職員はヤル気をなくす。」などと書き残したメモ書きからも明らかである。」
判決は、「自分の部下が上司から叱責を受けた場合には,それを自分に対するものとしても受け止め,責任を感じるというのは,平均的な職員にとっても自然な姿であり,むしろそれが誠実な態度というべきである。」として自分がパワハラを受けていなくてもパワハラの被害は周囲の人間にも心理的負荷があることを指摘したのである。
この裁判は、1審で敗訴したのち、控訴審で、市役所で、職員と同じ上司からパワハラをされていたという元市役所の職員に、協力をお願いできることとなり、裁判所に証人採用された。この証人の証言が、裁判所に強い印象を与え、その他の主張も採用され、逆転勝訴となった。 A市はこの判決を重く受け止め、メンタルヘルス対策をよりいっそう行うようにしている。
弁護団は岩井羊一、田巻紘子弁護士、岡村晴美弁護士。
判決を受けてA市の対策を掲げた平成24年6月15日のA市の広報誌
パワーハラスメントの防止に取り組みます
市では、元市職員の死亡が職場環境に起因する公務災害と認めた判決が確定したのを受け、市の職場における再発防止の取り組みを次のとおり実施します。
詳しいことは、人事課(××ー××××)へ、お問い合わせください。
■再発防止の6つの取り組み
(1)適切な職場運営の遵守について、各所属長へ周知徹底(2)「パワーハラスメントの防止に関する基本方針」の作成、および管理職員全員を対象とした研修会の開催(3)「A市OJT推進マニュアル」のパワーハラスメントに関する項目の見直し(4)安全衛生委員会において、パワーハラスメント防止やメンタルヘルス対策に関する検討を実施(5)パワーハラスメント防止週間を定めて、防止に関するチェックリストによる確認を実施(6)人材育成基本方針を改定し、パワーハラスメントの防止などの事項を追加
ポイント
控訴審では、上司のもと部下だったという方にその上司のハラスメントの特徴を証言してもらいました。