名古屋地方裁判所は2008年(平成20年)年10月30日、トヨタ自動車とデンソーに対し、デンソーの労働者である原告に金150万5328円を支払うように命じる判決を言い渡しました。
この事件は、デンソーの社員である原告が、トヨタ自動車へ1999年8月に出向したのちに2000年4月ころうつ病を発症し、8月に休職。いったん回復し、デンソーに復職したが、2002年6月ころからのデンソーとトヨタ自動車の共同のプロジェクトのなかで、うつ病を再発。現在も治療しながら在職しているという事案です。
デンソー、トヨタ自動車の業務が原因でうつ病になり、休職を余儀なくされたことについて、デンソー、トヨタ自動車の責任を問い、損害として発生した休業損害、逸失利益、慰謝料など請求していました。
判決は、「被告デンソーは、平成11年11月には、原告に対し、業務の軽減、その他何らかの援助を与えるべき義務が生じ、その後も原告の業務遂行の状況や健康状態に注意し、援助を与える義務があったというべきであり、それにもかかわらず、少なくとも原告が第1回うつを発症するまでこれを怠り、また、遅くとも平成12年3月には被告デンソーに帰社させるべきであったのに、かえって長期出張をしたのであるから、同義務の不履行がある。」としてデンソーの安全配慮義務違反を認めています。
また、判決は「平成11年12月、(中略)被告トヨタは、原告に対し、業務の軽減、そのほか何らかの援助を与えるべき義務が生じ、その後も、原告の業務遂行の状況や健康状態に注意し、援助を与える義務があったというべきであり、それにもかかわらず、少なくとも原告が第1回うつを発病するまでこれを怠っていたのであるから、同義務の不履行がある。」としてトヨタ自動車の安全配慮義務違反も認めています。
判決は、これらの安全配慮義務違反を認めて、休業損害、慰謝料を支払うように命じました。
ところで、この判決は、安全配慮義務違反について、次のように判断しています。
「被告らの負うべき安全配慮義務は,労働者を自己の指揮命令下においてその業務に従事させるについて,業務内容を定めてこれを管理するに際し,これを適切に行うなど,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう注意すべき義務であり,その具体的内容は,当該労働者の置かれた具体的状況に応じて決定されるべきものであるから,通常であれば,被告らには原告の業務が,社会通念上,客観的にみて平均的労働者をして精神障害等の疾患を発生させるような過重なもの(以下「客観的過重労働」という。)にならないように注意すれば足りるとしても,それに至らない程度の過重な業務に従事させている労働者がそのまま業務に従事させれば心身の健康を損なうことが具体的に予見されるような場合には,その危険を回避すべく,その負担を軽減するなどの業務上の配慮を行うべき義務があり,これを怠れば同義務の不履行となるものというべきである。」
ここでは、平均的労働者には精神障害等の疾患が発症しないような過重な業務があった場合にも、予見可能性があった場合には,被告の責任があると認めているところに意義があります。本件にこのような基準を当てはめて原告を平均的労働者より脆弱だと認定したことには不満がありますが、一般論としては興味深い判断です。
原告は、判決後、原告に対し、心から謝罪すること。
長時間労働を防止し、業務に見合った人員配置を確保すること。
労働者、部下を大切にし、皆がいきいきと働ける職場環境をつくること。
メンタルヘルスの予防やケア体制の充実をすること、それに加えてメンタルヘルスの不全に陥った労働者に何らの不利益を与えないこと。
を求めますとのべて、判決の意義を訴えました。
弁護団は、岩井羊一、田巻紘子弁護士と、梅村浩司弁護士です。判決は、双方とも控訴せず、確定しました。
ポイント
原告は、自分の業務が過重であると会社に伝えていました。それにもかかわらず、従業員に配慮しなかったことが認定されて勝訴につながりました。